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木村有理子
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cinefil編集部
木村有理子(きむら・ありこ) 映画監督/映画批評。 主な監督作品に『犬を撃つ』(カンヌ国際映画祭正式出品)、『わたしたちがうたうとき』(ソウル国際女性映画祭招待作品)、『くまのがっこうのみゅーじかるができるまで』(ドキュメンタリー)。
連載:第16回 おしゃべりな映画たち 『aftersun/アフターサン』 (2022年/監督脚本シャーロット・ウェルズ)
さよならを言いそこねた人への手紙 この若い監督は、どうして、こんなすごい映画を作れたのだろう…と、心の底から驚き、長い時間、考え続けてみたのです。トルコのリゾートで、11歳の少女とその父親が休暇を過ごします。二人は普段は別々に暮らしていて、休暇だけを一緒に過ごす。抜けるような青空と、ずっと変わらぬであろう風景。その、光を浴びれば浴びるほど、その親子の過ごす刹那と、父親の抱える闇が際立ちます。と書くと、とてもシンプルな映画のように聞こえるのですが、構成は、とても複雑。過去と現在。それから、こうであったかもしれないという空想を、何度も行き来します。 まず、ひとりの女性。彼女は、子供の頃に撮っ...
木村有理子
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cinefil編集部
aftersun
アフターサン
シャーロット・ウェルズ
木村有理子
連載
おしゃべりな映画たち 第15回 『午前4時にパリの夜は明ける』 (2022年/監督・脚本 ミカエル・アース) 『それでも私は生きていく』 (2022年/監督・脚本 ミア・ハンセン=ラブ)
1975年生まれの二人の監督が2022年に撮った「シングルマザー」映画をを見比べます。ミカエル・アース監督は、80年代を背景に描くようです。 『午前4時にパリの夜は明ける』は、開放感あふれる映画だ。夫から捨てられた女性エリザベートは、無防備で、自分が困っているのに、もっと困っている若い女の子タルラに、さっと、手を差し伸べて、拾ってきて同居してしまうし。なんなら、タルラの前でも、かっこ悪い姿を見せるし、なぐさめられたら、さめざめと泣いちゃう。なんと言うか。描いている母親も、その相手となる男性も、子供たちも、全然、優等生じゃないのに、彼ら家族は、その女の子との関係の中で、解放され幸せになって...
木村有理子
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cinefil編集部
今週・来週公開
連載
午前4時にパリの夜は明ける
それでも私は生きていく
ミア・ハンセン・ラブ
ミカエル・アース
木村有理子
連載 おしゃべりな映画たち 第14回 『猫たちのアパートメント』(2022年/チョン・ジェウン監督)
地方都市に住む小学生だったとき、友達たちと遊んでいて、弱って動けなくなっている「それ」を見つけたのだ。段ボール箱に入れて、小学校に運んで、いろんな先生にみせた。死にそうだから、助けて欲しい。校長室まで連れて行った。あの、アイラインをきれいに引く、紫色のスーツがよく似合う立派な女性。あの人が、どんな言葉を使ったか覚えていないけれど。わたしたちは、大人たちに追い払われて、何もできないうちに、「それ」は、硬直していった。私の家の庭に、みんなで、穴を掘った。じゃあ、うめよう。となったけど。わたしは、こわくてさわることができず。目が大きくて、とんでもなく勉強ができて、転校してきて、2年で転校してい...
木村有理子
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cinefil編集部
おしゃべりな映画たち
猫たちのアパートメント
チョン・ジェウン
連載
木村有理子
連載:おしゃべりな映画たち 第13回 『冬の旅』(1985年/アニエス・ヴァルダ監督)
何の経験もないくせに、「自分なら、社会の規範に従わずに、何ももたずに、自由に生きられるはず」と、考える傲慢な年頃。17、8の頃に、繰り返し何度も何度も見たのは、この映画が、その考え方で、ふるまった結果、あっさり死んでしまう若い女性を描いているからなのです。わざわざ、冬に、田舎をヒッチハイクしてまわる。何にも囚われず自由そうに見えるけど。心身ともに追い詰められて野垂れ死ます。 主人公のかっこよさに憧れてみるという感情もあったし、最悪の想定として、こわごわ、みるという意味もあったし、あるいは、矛盾多き社会を批判してくれる社会派映画として解釈したかったのかもしれません しかし、歳をとった今、見...
木村有理子
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cinefil編集部
アニエス・ヴェルダ
冬の旅
木村有理子
ルイス・ブニュエル
サンドリーヌ・ボネール
連載:おしゃべりな映画たち 第12回 『WANDA/ワンダ』(1970年/監督・脚本・主演バーバラ・ローデン)
ここから全てがはじまる 去年、この映画を見てみたのは、アメリカの若手の女性映画監督の「影響受けた映画」リストに、ケリー・ライカート作品なんかと並んで、よく見かけるタイトルであることに気づいたからだ。 信じられないくらい、よかった。ため息が出た。 主演脚本演出は、あのエリア・カザンの妻。『草原の輝き』(1961年/監督エリア・カザン)でウォーレン・ベイティ演じる主人公の姉役で、人工妊娠中絶したが故に、成金で上昇志向の父親から見放されて自暴自棄になる女性の役をめっちゃうまく演じてるあの人だ。 1990年代の日本の個人映画の一部にもあったし、2000年代のアメリカのマンブルコアにもあったのかも...
木村有理子
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cinefil編集部
WANDA/ワンダ
バーバラ・ローデン
木村有理子
おしゃべりな映画たち
連載
連載:おしゃべりな映画たち 第11回 『EUREKA/ユリイカ』(2000年/青山真治監督) 『空に住む』(2020年/青山真治監督)
ある夜、血だらけのイメージが頭に浮かんで、自分ではどうすることもできなくなったのだ。こわくなって、初めてカウンセリングのドアをたたいたのだ。「アウティングの可能性はないです。大丈夫。とっても大変ではあったかもしれないけど、異常ではないです。同じことが起これば、みんな、そんなもんです」という、若い女性の、カウンセラーの言葉で、ただただ、それに曝され、深く傷つくしかなかった、心の中の、むごたらしいイメージが少しずつ少しずつ消え、ずっと積み重ねられてきた「現実」へと戻っていく。 そういうタイミングで、この作品『EUREKA/ユリイカ』を、ほぼ20年ぶりに再見した。 よく知られているように、バス...
木村有理子
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cinefil編集部
青山真治
EUREKA/ユリイカ
空に住む
木村有理子
連載
おしゃべりな映画たち
連載:おしゃべりな映画たち 第10回 『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』 (1975年/シャンタル・アケルマン 監督)
2015年10月、シャンタル・アケルマン が、パリで、自死した。「あ、じゃがいもを茹でる間に売春する主婦についての映画をつくった人だ」。斎藤綾子氏の印象深い文章を読んで、ずっと頭のすみにひっかかっていたのに、未見だった。 見てみよう、見るタイミングだ、と思ったのは、その6年後。去年、コロナで家にこもっていた時期だ。3時間ある作品なのに、全く、あきることがなかった。テーマも方法も、おそろしいほどシャープで、しかも、その二つが、必然性を持っている。完璧。 戦争で、夫を失い、一人で子供を育てる主婦がいる。家はピカピカで、すみずみまで、完璧にオーガナイズされている。その状態を維持するために、彼女...
木村有理子
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cinefil編集部
シャンタル・アケルマン
ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地
木村有理子
おしゃべりな映画たち
連載
連載:おしゃべりな映画たち 第9回 『パリ13区』(2021年/ジャック・オディアール監督)
ジャック・オディアールの余白に パリの13区。連なる高層の公営住宅たちの、すこし黄味がかった、柔らかいモノクロの、夜景、素描。ものすごく巨大で、全然美しくないはずなのに、息をのむような。非人間的な規模の、そっけない建造物の、その1室で、裸の体を、ソファに埋めた、若い東洋系の女性が、中国語の物憂げな歌を、カラオケで歌っている。彼女と事を終えた後らしき、黒人の男性が、やはり、裸のまま、彼女に水を持ってきて。彼女が行っていた学校や、仕事を、聞きはじめる。一夜の関係なんだろう。二人の肌。目の輝き。モノクロのせいなのか、露出の加減なのか、すばらしいニュアンス。話しながら、再び二人はたかぶっていき、...
木村有理子
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cinefil編集部
パリ13区
ジャック・オディアール
セリーヌ・シアマ
木村有理子
おしゃべりな映画たち
連載
今週・来週公開
連載:おしゃべりな映画たち 第8回 『TITANE/チタン』(2021年/ジュリア・デュクルノー監督)
わたしたちの心は、もう、そこには、ない。 交通事故で、破損した頭骨に、補強のチタン・プレートを埋め込まれる少女が突然変異を起こしていく映画だ。冷え冷えとした金属の感触と、疼くような炎の暴力性と、劇画すれすれのユーモアに、身体の芯を動かされる。 そういえば、わたしも、この少女のように、身体をひどく破損したことがあったのだったっけ。恐怖で暴れないように、目を塞がれて、肉や血液が飛び散らないように大きなビニールシートで体を覆われる。局部麻酔はきいていたけれど、ドリルが自分の肉と骨を貫通していく振動を感じる。左肘にチタンの棒が通っていく感触。身体は、起こったことを、何もかもを受けいれる。私の身体...
木村有理子
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cinefil編集部
TITANE/チタン
ジュリア・デュクルノー
木村有理子
カンヌ国際映画祭
連載:おしゃべりな映画たち 第7回 『1秒先の彼女』(2020年/チェン・ユーシュン監督)
「単なる、ダサかわいい、ロマンティックコメディです」という顔をして、すましている、この映画が、実際のところ、観客に、何をしかけているのか。考えれば考えるほど、わからなくなるのです。ものすごく奥手な女性がギリギリのところで見る離人症的な夢としての、『アメリ』(2001年/ジャン=ピエール・ジュネ監督)を、プロトタイプにしているのは、間違いないとして。ここで描かれた、圧倒的なさびしさといじましさを包み込むような何かを、なんとよんだらいいのでしょう。 この映画の監督、チェン・ユーシュンは、エドワード・ヤンたちが台湾映画を盛り上げた時期の最後、1998年にデビューし、それから、すぐに、映画を撮れ...
木村有理子
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cinefil編集部
チェン・ユーシュン
台湾映画
木村有理子
ベルリン 天使の詩
リウ・グァンティン
連載:おしゃべりな映画たち 第6回『燃ゆる女の肖像』(2019年/セリーヌ・シアマ監督)
わたしたちが一緒にできること 頭を殴られたようになり、呆然としてしまった。試写室から、家まで、帰った道筋を思い出せない。でも、なんで、こんなにショックを受けるんだろう。いつもの駅のホームで、わたしがスカーフを落としたのを、近くを歩く、二人の女性が、とっさに、指を指す。その彼女たちの顔。普段、自分の生活になんの疑いも違和感も持たないようにみえていた、道ゆく女性たちの顔が、今までと異なり、くっきりと、陰影をもって、見えて、ハッとする。この映画は、見えているのに、描かれてこなかったものを、描いてる。たぶん、ほんとうのことは、今まで描かれてこなかったのだ。女性同士が、さしで向き合い、その間に何も...
木村有理子
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cinefil編集部
燃ゆる女の肖像
セリーヌ・シアマ
木村有理子
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連載:おしゃべりな映画たち 第5回 東京フィルメックス レビュー
国際映画祭に通う気持ちは、いつも、独特です。文脈や背景のわからない映画や作り手に、いきなり向き合う怖さと、今まで見たこともないような、すごい作品に出会うのではないかという期待で、緊張します。でも、今年は、身構えずに、向き合えました。この数ヶ月の経験がそうさせるのでしょうか。映画を映画館で見ることができる喜びに、心ゆくまで浸りたい。出会うべき映画に、出会いたい、という気持ちが何よりも先にたちました。 会場は、ほとんど、いつも満席。活気がある。来日が叶わぬ監督たちが、異国から、上映後のスクリーンに映し出され、観客からの質問に答える姿を見ていると、「離れているからこそ近づきたい」という感覚が、...
木村有理子
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