夜の葉~映画をめぐる雑感~
#14『逃げた女』と寺山修司『幸福論』、ジル・ドゥルーズ『シネマ』
で、ハンフリー・ボガードの話だが、あの男が何度も生き直しができるのはなぜだろうかと考えてみた。すると、結論が出た。
それは簡単なことだ。
あの男にはスクリーンがあるからなのだ。
だが、おれの人生にはスクリーンがない。スクリーンがありさえすれば、おれも死ぬことができる。
死ぬことができれば、その分だけ生きるはずなのだ。そこで、おれはいろいろ考えたすえ、自分のスクリーンを持つことにした。
(寺山修司『幸福論』より)
現代的な事態とは、われわれがもはやこの世界を信じていないということだ。われわれは、自分に起きる出来事さえも、愛や死も、まるでそれらがわれわれに半分しか関わりがないかのように、信じ...