連載:おしゃべりな映画たち 第10回
『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』
(1975年/シャンタル・アケルマン 監督)
2015年10月、シャンタル・アケルマン が、パリで、自死した。「あ、じゃがいもを茹でる間に売春する主婦についての映画をつくった人だ」。斎藤綾子氏の印象深い文章を読んで、ずっと頭のすみにひっかかっていたのに、未見だった。
見てみよう、見るタイミングだ、と思ったのは、その6年後。去年、コロナで家にこもっていた時期だ。3時間ある作品なのに、全く、あきることがなかった。テーマも方法も、おそろしいほどシャープで、しかも、その二つが、必然性を持っている。完璧。
戦争で、夫を失い、一人で子供を育てる主婦がいる。家はピカピカで、すみずみまで、完璧にオーガナイズされている。その状態を維持するために、彼女...