カミとホトケの「八百万」の国へ

画像: 牛頭天王坐像 2体 平安時代12世紀 島根・鰐淵寺(島根県立古代出雲歴史博物館寄託)

牛頭天王坐像 2体 平安時代12世紀 島根・鰐淵寺(島根県立古代出雲歴史博物館寄託)

…と、ここまで見て来て学校で教わったような固定観念や先入観を次々と打ち崩され、ヘトヘトになりつつ、なにか新しい、大きな視点をもらったような気分で最後の展示室に入ると、またまたにわかに得られた「知ったかぶり」を突き崩されるような展示品が、展覧会を締めくくるのである。

出雲大社がその麓に立つのと同じ山塊の、東の山中にある鰐淵寺に伝わって来た、牛頭天王の像2体だ。

牛頭天王は日本で考え出された仏教の神で、釈迦が開いた「祇園精舎」の守護神だ。薬師如来の変化神でもあり、有名なところでは京都の祇園社(現在の「八坂神社」)の主祭神…というか、「八坂神社」は明治の神仏分離令による改称で、「祇園」というからには元は仏教施設だったのは言うまでもない。明治政府の命令で仏教要素を排除させられた結果、現在の祭神は出雲系の神々の祖・素戔嗚尊(スサノオノミコト)になっているのは、平安時代以降の本地垂迹説でスナノオの「本地」が牛頭天王とされていたから、である。

本地垂迹とは密教の影響下にある理論で、日本のカミガミは本来の姿は仏で、東の涯の日本列島の人々にも教えが分かり易いように、仏が姿を変えて現れた「権現」である、という信仰だ。

現代でいえばチベットの14世ダライ・ラマが観音菩薩の32回目の転生でその本体は観音菩薩、パンチェン・ラマが阿弥陀如来の転生、と信じられていることに近い。

密教ではそもそも、世界の全てが大日如来から派生した、ないしその転生の連続の先の存在で、世界の全ての神仏が突き詰めれば大日如来、大日如来が世界そのものでありその究極の真理と考える。

たとえばアマテラスは大日如来で、山形県と宮城県の県境にある蔵王山は地蔵菩薩、山形県の出羽三山の月山・羽黒山・湯殿山はそれぞれ阿弥陀如来・観音菩薩・大日如来で近くの鳥海山は薬師如来、奈良の春日大社の第一神・武甕槌命(タケミカヅチ)は不空羂索観音ないし釈迦如来が本地仏だ。聖徳太子(歴史学的には「厩戸王」)は本地が如意輪観音として信仰対象になって来たし、浄土宗では法然の本地は勢至菩薩とみなされている。天神・天満宮つまり菅原道真は本地が観音菩薩で、東照大権現つまり徳川家康は、本地仏がなんと薬師如来だ。この展覧会で展示されている唐から渡来した十一面観音の檀像は、奈良の談山神社に伝来したものといわれているが、ここは藤原鎌足を祀り、江戸時代までは多武峯妙楽寺が正式名称の仏教寺院で、本尊の釈迦三尊は現在は麓の桜井市の、安倍文殊院に引き取られている。つまり藤原氏の祖は、お釈迦様が本地仏だったわけだ。

説明しようとするとこれだけ言葉数が必要なわりには、言葉の説明だけではおそらくはよく分からないことが最後に…というだけで済まず、さらに先がある。

平安時代には修験道の霊場として京都にも知られていたらしい鰐淵寺では、修験道の神としてこれも日本で考え出された仏教の神の蔵王権現を、スサノオと同一視していた、と解説に書かれているのだ。

これは一体、どう言うことなのだろう?

鰐淵寺では、牛頭天王=スサノオノミコト=蔵王権現とみなして、この二つの像を蔵王権現として拝んで来たのかも知れず、しかも修験道霊場の鰐淵寺なのに蔵王権現それ自体の像はない、という。日本は「八百万の神々の国」とよく言われ、多神教の典型のように言われている。確かに「日本書紀」や「古事記」にはそういう神話が書かれているし、さらに仏教が入って来ればさらに信仰対象の数は増える。

だがこれは複数の、異なった人格を持ったいろいろな神や仏を信じていた、と言うように考えて「絶対神の一神教VS日本のおおらかな多神教」などと単純に決めつけていいことでは、およそないように思えて来る。空海が平安時代に持ち込んだ密教では、あらゆる仏や神々が、地獄の悪鬼すら含めて究極、すべてが大日如来に行きつき、突き詰めて考えるなら大日如来の多種多様な(何段階も経た)変化であって、世界そのものが大日如来となるが、日本人にとっての「八百万のカミガミ」という感覚の本質は、こうした思想に共通しているのかも知れない。

画像: 牛頭天王坐像  平安時代12世紀 島根・鰐淵寺(島根県立古代出雲歴史博物館寄託)

牛頭天王坐像 平安時代12世紀 島根・鰐淵寺(島根県立古代出雲歴史博物館寄託)

鰐淵寺は推古天皇の眼病を治した智春聖人が開いたとされ、長らく出雲大社と深い関係があった。中世には鰐淵寺が出雲大社の神宮寺・別当寺としてその運営を担い、鰐淵寺の僧侶が出雲大社でお経を唱える法要が行われたりもしていた。

ここでも出雲と大和がつながっていたのと同時に、カミガミへの信仰と仏教が融合していた。

今日では「神仏習合」というが、過去の日本人の感覚・理解で言えばそもそも「神仏」を信仰していたのであって「習合」という意識すらなかったのが実際だろう。

だが出雲大社では、徳川幕府の出資によって豊臣時代の本殿が建て替えられた寛文7年(1667年)に、仏教色を排除する神仏分離・廃仏毀釈が、出雲大社が幕府寺社奉行に提案され、つまり出雲大社側のイニシアティヴで行われた。明治の神仏分離・廃仏毀釈の、200年前のことだ。

画像: 神像 本殿板壁画 伝素戔男(スサノオ)尊・稲田姫(イナダヒメ)命 室町時代16世紀 島根・八重垣神社 重要文化財

神像 本殿板壁画 伝素戔男(スサノオ)尊・稲田姫(イナダヒメ)命 室町時代16世紀 島根・八重垣神社 重要文化財

日本書紀成立1300年 特別展「出雲と大和」

観覧料金(税込)

当日団体
一般1,600円1,300円
大学生1,200円900円
高校生900円600円
  • ※中学生以下無料
  • ※団体は20名以上
  • ※障がい者とその介護者1名は無料(入館の際に障がい者手帳などをご提示ください)
会期2020年1月15日(水)-3月8日(日)[47日間]
会場東京国立博物館 平成館(上野公園)
〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
開館時間午前9時30分~午後5時
* ※金曜・土曜は午後9時まで開館
* ※入館は閉館の30分前まで
休館日月曜日、2月25日(火)
* ※ただし2月24日(月・休)は開館
主催東京国立博物館、島根県、奈良県、NHK、NHKプロモーション、読売新聞社
後援文化庁
お問合せハローダイヤル 03-5777-8600
受付時間:全日午前8時~午後10時
日本語、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語
画像: 日本書紀成立1300年 特別展「出雲と大和」

東京国立博物館 特別展「出雲と大和」 Cinefil チケット・プレゼント

画像: 脱活乾漆持国天立像 飛鳥時代7世紀 奈良・當麻寺蔵 重要文化財

脱活乾漆持国天立像 飛鳥時代7世紀 奈良・當麻寺蔵 重要文化財

下記の必要事項、をご記入の上、「出雲と大和」 cinefil チケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、ご本人様名記名の招待券をお送りいたします。
記名ご本人様のみ有効。
招待券は非売品です。転売業者などに入手されるのを防止するため、ご入場時他に当選者名簿との照会で、公的身分証明書でのご本人確認をお願いすることがあります。

☆応募先メールアドレス info@miramiru.tokyo
*応募締め切りは2020年2月12日(水)24:00

記載内容
1、氏名 
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
  建物名、部屋番号のご明記がない場合、郵便が差し戻されることが多いため、
  当選無効となります。
4、ご連絡先メールアドレス、電話番号
5、記事を読んでみたい監督、俳優名、アーティスト名
6、読んでみたい執筆者
7、連載で、面白いと思われるもの、通読されているものの、筆者名か連載タイトルを、
  5つ以上ご記入下さい(複数回答可)
8、連載で、面白くないと思われるものの、筆者名か連載タイトルを、3つ以上ご記入下さい
 (複数回答可)
9、よくご利用になるWEBマガジン、WEBサイト、アプリを教えて下さい。
10、シネフィルへのご意見、ご感想、などのご要望も、お寄せ下さい。
   また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせて頂きます。

This article is a sponsored article by
''.