cinefil新連載「神山睦美のサクリファイス」第5回 デンマークの船
連載第3回 デンマークの船
デンマークというと、ディネセンやアンデルセンや、キルケゴールの国としてしか知らなかったが、逆にいうと、この北欧の小国が、どうして彼らのような文学者や哲学者を輩出したのだろうかという思いがあった。
その理由の一端に当たるような事実に、このところ読み継いでいるパウル・ツェランの詩のなかで出会った。公刊された詩集では最後のものになる『時の屋敷』に収録された次のような詩。
存在していた
無花果の一片が お前の唇の上に、
存在していた
イェルサレムが ぼくたちのまわりに、
存在していた
明るい松の香りが
僕たちが感謝したデンマークの船のうえ
僕は存在していた
お前の中に...