「リメイク映画」と聞いて、あなたはどんな作品を思い浮かべるだろうか。『荒野の七人』に『ディパーテッド』、『THE JUON/呪怨』や『DUNE/デューン 砂の惑星』 、『アリー/スター誕生』に近年ではスピルバーグによる『ウエスト・サイド・ストーリー』等々。あまたあるそれらのリメイク作品の裏側には、「名作」にあやかりたいとする製作側の思惑や、本家に対する作り手の熱い思いなどがどうしても意識されてしまう。つまり「なぜリメイクするのか」という意義を考えてしまうのだ。

リメイクとは何か。それは古くなった「器」にいま流れている新鮮な「水」を注ぎ込むことである。この度、台湾映画『1秒先の彼女』という摩訶不思議で愛らしい器に水を注ぐのは、山下敦弘監督と脚本家・宮藤官九郎の二人。本家チェン・ユーシュン監督のバトンを継ぐには、社会や日常からはみ出した人々をユーモアと辛辣さを交えつつ魅力的に描いてきた山下監督はまさに適役。そしてこれまた社会的にはみ出した特異な題材や設定を基に、愛着を感じさせる時代性や細部のこだわりを盛り込んで描く宮藤のコメディ手腕の確かさは、もはや誰もが知るところだろう。

かくして出来上がった『1秒先の彼』は、見事なリメイク映画であり、日常からはみ出した外側にいるからこそ感じられる、かけがえのない時間の流れと輝きを捉えた傑作となった。今回、山下敦弘監督、脚本家の高田亮氏、根岸洋之プロデューサーに、本作の舞台裏と作り手の知られざる苦労話、監督の演出術に至るまで、ざっくばらんに語っていただいた。前後編でお送りするスペシャル鼎談、本編鑑賞後に読めば、さらなる面白さと奥深さを味わえること間違いなし。

画像1: ©2023『1秒先の彼』製作委員会

©2023『1秒先の彼』製作委員会

映画のラスト・ネタバレに触れております。ご注意ください

企画の始まりと宮藤官九郎

根岸洋之(以下、根岸)
まずはここに高田亮さんがいる理由(笑)なんですが……単純に宮藤さんが多忙でスケジュールを取れなかったという面もありますが、『1秒先の彼』という台湾映画のリメイクの企画、制作過程をたどっていく上で、全くその企画とは関係のない者の視点が入ると面白いのではないかという興味、一方で高田さんは過去に山下組脚本を3、4本ほどやっているという流れもあって、内側から山下演出なりその作品なりに切り込んでいけそうではあるなと。あと高田さんがいると単純に座談が盛り上がるというところもございまして、是非にと、お願いした次第です。

それで、この作品の成り立ち的なところからゆるゆると話していきますと、2021年の1月ぐらいに、定井さん[註1]に呼び出され、今度『1秒先の彼女』(20)という台湾映画をビターズ・エンド配給で公開するんだけれど、そのリメイクをやらないかと言われまして。そこで、しばらく長編映画を撮っていなかった山下敦弘監督が良いのではということになり、作品を観た後に3人で打ち合わせをしたんです。そのときに、山下監督が「やるんだったら京都がいい」と。プロデューサーとしては、東京で時間を止めるのは色々大変だろうし、もう少し静かな地方で撮るのがいいのかなとは思っていました。だから山下監督が「京都」と言ったときに「なるほど。でも……」とは思いました。

山下敦弘(以下、山下)
僕が言いました(笑)? でも京都って、例えば森見登美彦さんの「夜は短し歩けよ乙女」や「四畳半神話大系」、万城目学さんの「鴨川ホルモー」といった小説の舞台みたいに、本作にあるようなファンタジーっぽい世界観が許される街という印象がありました。

それと僕の同期である柴田剛が『堀川中立売』(10)という映画をつくったときに、やたらと「京都は磁場が」とか「霊が通る道がある」とか言い出していて(笑)。実際に彼の作品も面白かったので、京都はそういう特殊な設定でも成立しそうな町ではあるなと。ただ、何か確証を持って発言したわけではなかったです。

画像: チェン・ユーシュン監督『1秒先の彼女』 主演のリー・ペイユー ©MandarinVision Co, Ltd

チェン・ユーシュン監督『1秒先の彼女』
主演のリー・ペイユー
©MandarinVision Co, Ltd

根岸
京都はいわゆる「オーバーツーリズム」の問題で、一時期はバスに乗るのも大変だと言われていたけれど、コロナ禍の最中だったので、そこまでの人出はないだろうなと。ただ、プロデューサー的にはやはり京都だとベイシックに予算はかかりますよーと条件反射はしてしまい、定井さんの表情をすぐ見ましたね(笑)。そしたら彼もいいんじゃないかなというおおらかな雰囲気で。

今回オリジナル作品を観たとき、一度観ただけではよく分からない箇所も多々あって、このなんちゃってSFの理屈というか設定が最初のうちはよくつかみ取れなかったんです。だけど、そういえば以前、宮藤官九郎さんにSFもののプロットを書いてもらったことがあったなと思い出しまして。相当前の話になりますが、宮藤さんと山下監督にとある局より超有名原作アニメの実写版で、しかもスピンオフ的な映画をつくらないかとのオファーがあって、一度打ち合わせしたことがあったんです。そのときのプロットというのが、原作のテイストを残しつつそこから飛躍していく愉快なSFものだった。ただ、そのプロットを原作側に見せたら「離れすぎている」と言われまして、結局は頓挫してしまったんですが。だからSFなら興味を持つかも、あの時の雪辱戦をとも思い脚本のオファーをしてみたら、宮藤さんもオリジナル作品をすごく気に入ってくださって、やりましょうとなった。

高田亮(以下、高田)
山下監督は宮藤さんとは昔からお知り合いだったんですか?

山下
いや、俳優としては『ぼくのおじさん』(16)や「コタキ兄弟と四苦八苦」(20)に出てもらったり、逆に僕が「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(19)に出たりしたことはあったけど、監督と脚本家という関係としては今回が初めてでした。現場で何度かご一緒したか、飲み屋でご挨拶したくらいでちゃんとお話ししたことはなかったですね。

根岸
宮藤さんからは、打ち合わせをしてからひと月経たないぐらいでロングプロットが上がってきました。

山下
高田さんもシナリオが早い方だと思っていたけれど、宮藤さんは異常に早いですね。舞台や映画、ドラマなど、普段から多くの仕事を抱えていて、なおかつ演出や出演、バンド活動もこなしている。いったいいつ書いているんだろうとびっくりしました。でも逆にいえば、それくらいのスピードじゃないとできないんだろうなと。

根岸
シナハンで京都に行った帰りの新幹線ですでにホンを書き始めていました。のんびり構えていた我々より5秒先いってるぞーと(笑)。

註1:定井勇二。ビターズ・エンドの代表であるとともに根岸氏と製作会社「マッチポイント」を設立した一人。中国や台湾などアジア映画圏とのパイプも太い。

画像2: ©2023『1秒先の彼』製作委員会

©2023『1秒先の彼』製作委員会

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