京都で撮る醍醐味

根岸
岡田くんの台詞回しには京言葉を指導する方のツッコミがしばしば入っていきました。でもその柔らかいけど厳しいジャッジメントが、ハジメというキャラ作りにとってはいろいろプラスになっていった側面もあります。洛中意識がふと出るところでも愛嬌がこぼれ落ちるというか、一方で清原さんは大阪の出身ですが、その彼女もまた「京言葉は難しい」と仰っていました。レイカの方のナレーションは京言葉なんですが、結果柔らかみが出ました。

高田
大変ですよね。関西出身の方が多い中で、東京出身の方が関西弁を使うのはすごく怖い。山下さんは関西の出身でしたっけ?

山下
僕は愛知の出身で関西には8年いましたが、エセ関西弁です。だから、撮影中はどこを直されているのか、まったく分からなかった。それは『味園ユニバース』(15)のときもそうでした。でも今回は関西の中でも独特に難しい京都ですから、正直全然分かりません。

根岸
ちょうど羽野晶紀さんが京都の宇治ご出身で、実際のロケ現場からそう遠くない場所に実家があったそうです。

高田
羽野さんはオリジナル作品に出てくるお母さんと甲高く甘い声質がそっくりですよね。イメージがずれないナイスキャスティングだと思いました。あのミョウガを握らされている感じとか(笑)。

画像10: ©2023『1秒先の彼』製作委員会

©2023『1秒先の彼』製作委員会

根岸
羽野さんはノリが良くて、宮藤さんの脚本ともよく馴染んでいましたね。

高田
加藤雅也さん演じるお父さんは、オリジナル作品ではほとんど説明がありませんでした。

山下
そうなんです。だから、あのお父さんが引っかかっていたというのはありました。大事なキャラクターではあるんですが、あまりにも説明がなさすぎるし、現れてはスッと消えていく。オリジナル作品にある、ヤモリのおじさんが映像を見せて、蒸発したお父さんがお坊さんと囲碁をしているシーンとか、もう理屈が分からないじゃないですか(笑)。だから、お父さんに関しては宮藤さんと話し合って、最初からバスに乗っているという設定にしました。ただ、やっぱり演じる加藤さんはどうしたらいいのか悩んでいましたね(笑)。

高田
お父さんが言う「世の中のスピードに追いついていけない」という台詞が素晴らしいなと思いました。物語的にもマッチしているし、人柄的にも理解できる。

根岸
お父さんのキャラクターは、最初の衣装合わせのときに、加藤さんが「あの親父は実際には死んでいて、幽霊なんだよね」と山下監督に話されて、そういう解釈もあるのかと思いましたね。他にも相対性理論や時間のずれなどのお話もされていて、すごく考えて読み込まれている感じがしました。

山下
早く衣装合わせの方にいきたいなと思いつつ、話はなかなか終わらない。しかも実によく考えているし、ホンを読み込んできている。

高田
確かに考えたくなるキャラクターではありますよね。『インディアン・ランナー』(91)で、主人公が「学校でも頭のいい奴が先に答えて、俺はついていけない。世の中とはそういう場所だ」という台詞を言うシーンを思い出しました(笑)。加藤さんの芝居と台詞がすごく合っていて感動しましたね。

画像11: ©2023『1秒先の彼』製作委員会

©2023『1秒先の彼』製作委員会

根岸
お父さんはもともと西陣織の職人という設定だったのが、衣装合わせを含めた実際の段階で、京都の大学あたりで哲学を教えていた教授、というように曖昧に変わっていったんです。

高田
リメイクする際に、そういう設定をどう置き換えるのかは大変ですよね。どの程度こちらで勝手に色をつけていいのか、オリジナル作品が説明抜きですっ飛ばしている面白さがあるのに、そこを埋めてしまって良いのかどうか。

山下
でも宮藤さんの脚本が出来上がって、キャスティングが決まってからは、面白い方々も集まったし、そこまでオリジナル作品を意識することなくできたと思います。先ほども言ったように、オリジナル作品にある「子どもっぽさ」を出せたらなとは思っていたけれど、いざ撮り始めてみたら、やっぱり全然出ないなと、途中であきらめました(笑)。だから、もうこの集まったメンバーで京都でやるしかないと決心して。

オリジナル作品を何回も見て「いいな」とは思っていたんですが、結局、僕は基本的に主演のリー・ペイユーさんが好きなんですよ。彼女の魅力に惹かれていた。そちらはたぶん僕のいつもの癖が出てくるような路線かもしれない。今回はせっかく宮藤さんも入ったことだし、違った方向を目指そうと。岡田くんと清原さんで考える。後は荒川さんで思いっきり遊ぶぞ、と(笑)。

画像12: ©2023『1秒先の彼』製作委員会

©2023『1秒先の彼』製作委員会

根岸
バス運転手ということで、荒川良々さんには大型免許を取っていただきました。

高田
えーそうでしたか! オリジナル作品とは違い、レイカとバスの運転手が二人に分かれたのはどの時点だったんですか?

山下
男女が反転して、女性側の年齢設定が若くなったときですかね。若い女性がバスを運転するのはさすがに無理があるだろうと。そこで宮藤さんが「じゃあ荒川くんかなあ」という感じで、まだスケジュールも聞いていなかったんですが、すぐに決めてしまった(笑)。でも、最初はもう一人出していいのかなとは思いましたね。時間が止まったときに動けるワンテンポ遅い人たちが、清原さん、加藤さん、荒川さんとたくさんいる(笑)。

高田
僕は今回のリメイク作品を先に観たので、後からオリジナル作品を観たときにびっくりしました(笑)。

山下
京都は街中にバスが走っている街だから、やっぱりバスという設定は外せなかったんです。レイカが大学の7回生という設定も、学生の街である京都という土地を生かしています。

根岸
京都の人口の1割は学生らしいです。だから、学生たちが大手を振って歩いているような感じが確かにある(笑)。ハジメがバスの車内で居心地悪そうにしているシーンには、当初鴨川に大学生が簀巻きで流されるのをハジメが想像しているという、山下監督の無茶なアイデアもありました(笑)。

山下
それはまあ予算と時間の都合でやれませんでしたが(笑)。でも、京都という街で思いつく場所はいろいろと使った気はします。

画像13: ©2023『1秒先の彼』製作委員会

©2023『1秒先の彼』製作委員会

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