男女反転計画

根岸
まず、宮藤さんから舞台を京都に置き換えた第一稿が上がってきて、具体的な制作を進めていく上で、オリジナル作品ですごく良かった主演のリー・ペイユーさんにあたる日本の女優さんをどうするかが議論に上がりました。いろいろ名前は上がりましたが、考えてみるとみんな若い。30歳前後に見える方で探すとなるといろいろ難しいというか、選択肢が限られているなと感じたのは事実です。

高田
男女が逆転する前の第一稿は、内容的にも決定稿とは全然違いますよね。

根岸
そうでしたね。『1秒先の彼女』日本版の主人公名は確か西花=にしはな(来年30歳)。出来上がった映画では、ハジメが「ここまでは洛中=京都、それ以外は洛外」という、いわば「洛中中心主義」的な意識を持っていますが、そこは第一稿では伊勢志摩さん演じる小沢の考え方になってました。彼女は祇園の料亭の箱入り娘といった設定で、そのような洛中意識を持って亀岡出身の西花に「かーめーおーか! なんや、京都ちゃうや、京都いうたら洛中のことやんなあ」とか突っ込んでいく。それが男女反転したことで、主人公のキャラクターの中にその洛中意識が入り込んできて、より強調された感じがします。しかも当の本人が洛中出身ではないというオチまでついている(笑)。そのようにして、男女が反転しても最初に出揃っていた設定を上手く活用できる宮藤さんの変換能力、ホンを書く上での運動神経はすごいと思いましたね。

画像5: ©2023『1秒先の彼』製作委員会

©2023『1秒先の彼』製作委員会

リメイクではないけれど、高田さんも『セーラー服と機関銃』(81)の続編である『セーラー服と機関銃−卒業−』(16)の脚本を手がけていらっしゃいますが、そのときは相米慎二監督のオリジナル作品を意識されたりはしたんですか?

高田
原作があったので、あまり意識はしなかったですね。ただ、原作は主人公が地上げ組織と戦うという話だったので、一昔前のような感じがしてしまい、今に置き換えるとどういう設定になるのかは考えました。リメイクでも、そういう「置き換える」作業って厄介ですよね。

山下
そういう風に時代が離れたりしていると厄介ですよね。ただ、今回は最近の映画だったので、そこにはあまり難しさ、感じなかったですね。やはり京都という土地柄をどう描くかが重要でした。

根岸
僕がリメイクする上でやや危惧していたのは、主人公の女性が怪しいイケメン男性に惹かれるというオリジナル作品の展開を日本の風土の中でやると、リアリティが薄まるというか、ツッコミどころ満載になりかねないのではないかという点でした。南国の熱気というか、台湾の強い光の中だと成立することが日本だとどうなんだろう? って。第一稿だと女性が惹かれるのは韓流スター風の日本人男性という設定で、女優さんによっては、そこがすごく嘘っぽくなってしまう。かといって、おかしくならないようそこを逆算して女優さんを決めてしまっても記号的で面白くない。その点で、オリジナル作品のリー・ペイユーさんは絶妙ですよね。彼女はミュージシャンでもあり、アルバムのジャケット写真なんかを見ると本来はカッコいい方。だから、オリジナル作品のあの絶妙なキャスティングと設定の置き方をどうしたら超えられるのか、一番の悩みどころではありました。

画像: His Girl Friday | Original Trailer [HD] | Coolidge Corner Theatre youtu.be

His Girl Friday | Original Trailer [HD] | Coolidge Corner Theatre

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そんな状況のなか、女優さんのキャスティングで迷いが生じていた頃、ハワード・ホークスの映画にヒントがないかなとふと思い、観直したりもしてました。ホークスの『ヒズ・ガール・フライデー』(40)は『フロント・ページ』という戯曲の二度目の映画化なんですが、一度目の『犯罪都市』(31)では原作通り男性同士だった新聞記者コンビをケーリー・グラントとロザリンド・ラッセルという男女設定にしれっと変えたりしている。あるいは『赤ちゃん教育』(38)のケーリー・グラントには女装させたりしてキャラをフェミニンというか、なよっとした風に見せていく一方、ほぼストーカーといっていいキャサリン・ヘップバーンは狩りに出るような感じでグイグイと迫ってきて男っぽい。ホークスは男女の役割なんて逆にしてみた方が面白いに決まってると思ってる節がある。

そういうふうに役割交換をしてとことん遊んでいる。この映画でも男女反転とかできないものかなーなどと頭の中で妄想していたりした矢先、偶然映画監督のふくだももこさんもオリジナル作品に惹かれリメイクをしたいと仰っているとお聞きして。実は彼女も男女を反転させたら面白いのではないかと言っていたという。なるほど女性のクリエイターがそう思うのは心強いと肩を押されたような気がして、ある程度完成されていた第二稿を男女を入れ替えた形で読み直してみたんです。そしたら無茶苦茶面白くなりそうな予感がしまして……。それで、そのアイデアをお借りすることにして、結果「企画協力」というクレジットで名前も入れさせていただきました。

その案を宮藤さんに恐る恐るお伝えしたところ、一瞬、間があってから「それって、もう一回書き直すということですよね」とやや苦笑混じりに、考えてみますと仰ってました。

画像6: ©2023『1秒先の彼』製作委員会

©2023『1秒先の彼』製作委員会

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