いつもとは勝手が違う
根岸
高田さんは本作をご覧になっていかがでしたか?
高田
すごく良かったです。今までの山下さんの映画とは違った味が出ていて、オリジナル作品とも全然違う。むしろ、オリジナル作品の方が山下さん寄りな感じがしました。過去作の2本も含めて、チェン・ユーシュン監督作品はテーマ的にも山下監督と共通するところがある気がしていて。イケてない人たちがいっぱい出てきたり、きらびやかな場所が出てきても、結局は階段で座って話をしたりするところとか(笑)。だから、あの乗り切れていない人々の感じを山下監督がリメイクするのは分かる気がしましたね。
本作でも、加藤雅也さんの埃を被っているようなキャラクターは従来の山下さん的な感じがするじゃないですか(笑)。でもそれ以上に、今回は『リンダ リンダ リンダ』(05)や『天然コケッコー』(07)の清々しさとも違う、不思議な新しい味がありました。観る前は宮藤さんのノリで味付けされているものを山下監督がどう捌くのかな、と予想していたんですが、結果としてそのどちらとも違うものになっている。
根岸
初号試写のときに、宮藤さんも「自分のテイストとも違うし、山下監督のいつもの感じとも違うけれど、なぜか妙に面白かった」と仰っていました。
山下
今回はぶっちゃけて言うと、楽しむ余裕はなかったですね(笑)。リメイクの本家本元を意識しながら、なおかつ初めてのクドカンさん脚本で、しかもファンタジーという、たくさんのお題があったので、ずっと頭がフル稼働して脳みそが疲れました。ハジメとレイカのパートを合わせて、要は映画2本分つくってるのと同じじゃないですか。正直、途中からは撮るけどいったいどうなるのか、まとめてみないと全然分からないという感じで。監督としてはずるいのですが、ラストの二人が郵便局で出会うシーンも、オリジナル作品通りで、撮っている側としては「こういうことだよな」としか思ってなくて。これをラストに持ってきたらどう見えるんだろう、ということぐらいしか考えていませんでした。
高田
それは意外ですね。僕もまだ着地はしていませんが、リメイクものの脚本を2本ほど書いたことがあるんです。リメイクって置き換えるときに、狙いがはっきりしていないとイジるの難しくないですか
?
山下
そうですね。だから宮藤さんとはずっと「ラストはオリジナル作品と一緒にしよう」と話していました。ただ、僕は男女が反転したときに一回分からなくなってしまったんです。「ラストの感動はどういう風になるんだろう」って。でも、岡田くんと清原さんが演じ重ねていった結果として、きっと何かがあるんだろうなとは想像しつつ、編集しながら探っていった感じですかね。
高田
オリジナル作品をご覧になったときはどう感じられたんですか?
山下
最初は「自分がリメイクできるのかどうか」という目線で観てしまったので、初見時は没入できたとは言えないのですが、撮影するまで何度も見直していくうちにだんだん好きになって、面白くなっていきました。ただ、見れば見るほど、逆に僕は「なんで俺なんだろう」と思ってしまって(笑)。
根岸
当初から、定井さんは「日常の何気ない事柄とか端っこにいる人物とかを描かせたら、山下さんに勝る者はいない」と言っていました。僕は逆に、SFで入り組んだ話でもあるから、山下監督がやるとするといろいろ難問はあるなとは思いました。でも逆にその方が山下演出の新境地を開くという意味では面白い作品に仕上がる可能性が高いのではないかと。無茶ぶりした方が、いかにもなものより現場含め楽しめるだろうなという予測も働きまして。
高田
『苦役列車』(12)の穴からズドーンとゴミ捨て場に落っこちるシーンをはじめとして、山下監督は突飛なこともやるじゃないですか。そういうことをするのに、こちら側からそういうアイデアを出すと、「いや、それは……」と敬遠される(笑)。でも、実はそれはリアリズムのルールをギリギリまで保って、そこから飛ばしているからこそできるんだということがだんだん分かってくるんです。だから、今回のオリジナル作品のようにここまで突飛になると、山下さんが難色を示すというのはよく分かる気がしますね。
根岸
高田さんのアイデアが突飛すぎるというのもあると思いますけどね(笑)。『オーバー・フェンス』(16)で動物園から動物たちを全部逃す、文字通りフェンスをオーバーさせるというアイデアとか、制作サイドはだいぶ困っていたらしいけど(笑)。
山下
今回はベースがすでに突飛もないファンタジーなので、確かにここまで骨格がズレているのは初めてという気はしました。あと、僕はよく「話に興味がない」とか「物語が得意じゃない」と言われますが、今回はガチガチの物語だから、その点でも大変でしたね。ただ、よくよく見るとオリジナル作品も話はそれほど綺麗ではないというか、映画自体が遊んでいる感じがしたんです。僕はここまで映画で遊べない、良い意味であそこまで子どもっぽく無邪気にはなれないなと思って。そこが一番の悩みでしたね。
根岸
オリジナル作品は時間が止まっているときに人の体を自由に操ったり、ストーカー的な行動などに対して過剰に反応する方もいたんですが、チェン・ユーシュン監督にとっては、それらは二人の子どもが遊んでいる感覚で撮っているんだとインタビュー記事で読んだことがあります。ただ、そういう反応や批判があるのは分からなくもないし、その意味でもリメイクするにあたっての難関はいろいろあるよなとは思ってましたね。