『婚前特急』は“隠れ”ラブコメ?

根岸
だから『婚前特急』のハマケンっていうのは、どちらかといえばスクリューボール・コメディというより、ラブコメやエロコメなんかのキャスティングに近い線で選ばれた人だったのかなという気がしますね。

前田
ジョナ・ヒル的な(笑)?

根岸
そうですよね。日本でいうとフランキー堺的ともいえるけど(笑)。

前田
イメージ的にタナシの役は最初、フランキー堺さんでしたもんね。

高田
そうそう。だって最初はアンタッチャブルの山崎さんみたいな人を(笑)。

前田
そういう人がいないですかね、みたいな話をした覚えがありますね(笑)。

根岸
おそらく『婚前特急』のときは、宣伝も含めていったん「スクリューボール・コメディ」と打ち出しちゃったところもあったので、逆に見る側の敷居も高くなってしまった。スクリューボール・コメディを愛好する映画評論家はかなりいらっしゃるから、「これのどこがスクリューボール・コメディなんだよ」って怒り出した方もいたらしいんだけど。

前田
はい、いろいろな方々にたくさん怒られました。

根岸
実はもっとエロコメ要素とか、エロはなかったけど、ラブコメ要素のほうが強かったのかなっていうのもあって。そちらで売っても良かったけど、ただのラブコメといってしまった場合に、日本は漫画原作もあるから曖昧になってしまうのも癪で。

前田
ラブコメって中高生のものというイメージが強いし、かといってロマンティック・コメディというのも少し違うし。いまだにラブコメとは打ち出し難くて。

根岸
難しいところだよね。

前田
「なんていえば良いんだろう?」となって、結局『婚前特急』のときはスクリューボール・コメディで打ち出してみたわけなんですが。

根岸
変人が出てくる喜劇って考えると、確かに『婚前特急』にはそういう所はあったなと思いますしね。みんな少しずつ変人だから。

前田
でも、スクリューボール・コメディは当時の発明であって、それをいまそこに近づけたくてやってみたわけではなく、その発明を使って現代にアプローチができないかなと。あえて手段として「こういう遊びをしてみましょう」という所に向かいたかったわけで、もろスクリューボール・コメディと比べられたらねえ(笑)。

根岸
ただタイトルが『婚前特急』だからね。ルビッチの『極楽特急』(32)って作品もあるわけだし。

高田
命名は根岸さんだけど(笑)。

根岸
あと『喜劇 急行列車』(67)ってのもあるけど(笑)。

前田
だって最初は『婚前特急二十一世紀』ってタイトルですよ(笑)。さすがに「二十一世紀」はいらないと思って、「いいですね、『婚前特急』」とメールを返しました。

根岸
最初は「喜劇」も付いていた。

前田
そう。『喜劇 婚前特急』って。

根岸
それでやっぱり、配給の方が「喜劇は外してくれ」と。「喜劇だと古くなってしまうので」と言われて、『婚前特急』という題名になったんだけど。確かにそのタイトルを付けたことで逆にスクリューボール色を打ち出しやすくなって、結果的に少し敷居が高くなった側面はありますよね。芝山幹郎さんも『週刊文春』の星取表で「粋ではない野暮だ」みたいな感じのことを書かれていて、「まあ、そうですよね」と。ただ「人が良い感じはある」みたいなフォローもしてましたけど。

前田
「人が良いって俺のこと?」って(笑)。島時間が流れてますから。

高田
いまの時代にそれをやろうとする心意気を買ってほしい(笑)。

前田
だって誰にも求められてないですからね(笑)。

根岸
だからルビッチだ、ホークスだといってしまうと相手が強豪すぎるので、野球の比喩でいえば大リーグと草野球ぐらいの違いがありますからね。予算規模も全然違いますし、「我々のチームは草野球だよな」と。とはいえ、ね。

前田
どうしても比べられてしまうのはありますよね。ただ、こちらはオマージュをやってるわけじゃないっていうのもあったから。

根岸
ファレリー兄弟じゃないですが、「5人の男とひとりの女」みたいな題名にしとくとよかったんですかね?(編註:ファレリー兄弟の『ふたりの男とひとりの女』(00)をふまえたお話)まあ、それだと当たらないね。『まときみ』についてはそもそもスクリューボール・コメディをあまり意識していなかったんだけど、やはり成田くんは美男子だし、すごいスキルを持った美男とフレッシュな女優が組んで早台詞でやるとなれば、結果としてスクリューボール・コメディに見えてきたということはあると思います。『婚前特急』はどちらかといえばラブコメ寄りだったけど、タイトルも小ネタ的にもスクリューボール成分が少なからずあったので、実は隠れラブコメなんだということを指摘した人はほぼいなかった。宇田川幸洋さんが評価してくれましたが、香港映画を散々見てきただけあって「さすが目のつけ所が違う」と思いましたね。

画像1: ©︎2020「まともじゃないのは君も一緒」製作委員会

©︎2020「まともじゃないのは君も一緒」製作委員会

高田
ただ『婚前特急』はジョン・ヒューズとか、あのあたりの青春ラブコメに比べれば相当スクリューボール寄りですけどね(笑)。

根岸
もちろん。いや、隙あらばスクリューボール的なネタを入れたいと、虎視眈々と狙っていましたから。

前田
壁、壊れないですしね(笑)。

高田
壁、壊れないですよね(笑)。

前田
なんか突っ込まないですしね(笑)。

根岸
そうだね。バイクと自転車で突っ込む所と、壁を抜ける所がかなりスクリューボールだよね。あと、檻に入るじゃないですか。

高田
保護房ですよね。

根岸
あそこがやっぱり効いていましたよね。『赤ちゃん教育』にもあるし、『新婚道中記』でも別に檻に入れられたわけじゃないけど、カーステレオの音楽が止まらなくなって警察に車を止められて、結局バイクのハンドルに乗せて運んでもらう。

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