「鳥獣戯画」を守り伝えて来た高山寺と、明恵上人
「鳥獣戯画」全4巻がどのような経緯で今の形でまとめられたのか、なぜ高山寺に伝来して来たのかは、まったく分かっていない。高山寺の創建は奈良時代とされ、京都市中から見て高山寺がある栂尾の手前にあたるのが高尾の神護寺で、ここは弘法大師・空海が長らく居住し修行や研究、密教を広めることに励んだ真言宗の聖地のひとつだ。平安時代の高山寺はこの神護寺の子院のような地位にあったと考えられるが、平安後期から鎌倉時代の初めにかけてはかなり荒廃していたようだ。
つまり「鳥獣戯画」の少なくとも「甲巻」と「乙巻」、それにもしかしたら「丙巻」も、高山寺のために描かれたものではないのは確かだ。
高山寺が現在につながるような重要な寺院になったのは、鎌倉時代初頭の明恵上人の功績だ。
一応は奈良時代からあった寺ではあるので、明恵は「再興」ということになるが、事実上ここは明恵が開いた寺であり、開山堂に祀られているのも明恵の坐像だ。
今回はその明恵上人坐像も東京で展示されている。また高山寺には山中の松林の中で…というか松の木の上で座禅を組む明恵の肖像画があり、こちらは国宝に指定されている(2015年の展覧会ではこちらが展示されていた)。
松の木の上で座禅を組む明恵の肖像画も、開山堂の明恵上人坐像も、正面から見るとその温厚な人柄が伝わって来るように思える。「鳥獣戯画」以外の高山寺伝来の人気の文化財には、明恵が運慶の息子・湛慶に彫らせたと伝わる子犬の像もあり、また国宝の肖像画では周囲にリスや小鳥などの小さな動物たちが細かく描き込まれていて、明恵は動物好きのやさしい人柄だったとも伝えられている。
動物好きな明恵上人だから「鳥獣戯画」も高山寺に収められた、と考えることもできそうだが、しかし開山堂の明恵上人坐像は横から見ると、温厚でやさしげな一面とはまったく異なった明恵の別の側面が見えて来る。
右側から横顔を見ると、耳たぶが無残に半分失われている。若き修行僧だった時代に、明恵は激しい宗教的な情熱で自らを追い詰めるあまり、自分の右耳を切ってしまったという。
また今回の展覧会では皇室が所蔵して来た大判の「春日権現絵巻」(奈良の春日大社の由来と歴史を説く絵巻物)が展示されているのが、そこにも若き明恵が登場する。明恵は仏教の真髄を学びたいと思いつめて、なんと天竺(インド)に渡航しようと決意する。当時は文字通り命がけの旅で、その明恵のもとに春日明神が表れて、死んでしまっては仏教で衆生を救うこともできないではないか、と諭して渡航を思いとどまらせたという。
高山寺の国宝建築・石水院は、明恵が後鳥羽上皇から院の学問所を下賜された建物で、自分の住房として使っていたと伝わるが、その正面には江戸時代まで春日権現が祀られていた。特徴的な広いテラス状態の縁先の部分はその礼堂だった。明治の神仏分離令で春日権現は撤去され、今ではそこに白衣観音像が安置され、礼堂部分には善財童子の木造が置かれている。
特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」
会期 | 2021年6月20日(日)まで 休館日なし ※ただし、6月14日(月)午前8時30分~午後1時は閉館 ※総合文化展は月曜日休館。 |
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開館時間 | 午前8時30分~午後8時(最終入場は午後7時) 午前8時30分~午後8時(最終入場は午後7時) ※ただし、6月14日(月)は午後1時~午後8時開館 ※総合文化展は午前9時30分~午後5時 |
会場 | 東京国立博物館 平成館 〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9 |
アクセス | JR上野駅公園口、鶯谷駅南口より徒歩10分 東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、 東京メトロ千代田線根津駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分 |
※すべてのお客様は日時指定券の予約が必要です。
※国宝鳥獣戯画4巻は会期を通じ、場面替えなしで全場面を展示します。作品リストについては開幕時のデータですが、6月1日から6月20日までは全期間展示作品と後期展示作品がご覧いただけます。
※「鳥獣戯画 甲巻」は「動く歩道」でご覧いただきます。ご利用の方は、午後7時30分までに会場内「動く歩道」の待機列にお並びください。
※展示作品、会期、休館日、イベント等については、今後の諸事情により変更する場合がございますので、本サイト等でご確認ください。
※総合文化展は午後5時に閉館いたします。午後5時以降は総合文化展は御覧いただけませんのでご注意ください。また、総合文化展は月曜日休館です。
主催
東京国立博物館、高山寺、
NHK、NHKプロモーション、朝日新聞
協賛
社鹿島建設、損保ジャパン、凸版印刷、三井物産
お問合わせ
050-5541-8600(ハローダイヤル)
受付時間:午前9時~午後8時