こんにちは。映画監督の深田です。
 日本各地で地道に上映を重ね、東京では今月末30日から渋谷アップリンクでの再上映も決まった映画『さようなら』ですが、現在いくつかの海外映画祭からもお声が掛かっていて、1月2月にはスイス、オランダ、スウェーデンの三都市を巡ります。

・ジュネーブブラックムービーフェスティバル(スイス) 2月22日~2月31日
http://blackmovie.ch/2016/fr/films/fiche_film.php?id=1192
・ロッテルダム国際映画祭(オランダ) 1月27日~2月7日
https://iffr.com/nl/2016/films/sayonara
・ヨーテボリ国際映画祭(スウェーデン) 1月29日~2月8日
https://festival.giff.se/events/sayonara
 

 さて、なぜナンバリングがいきなり③なのかというと、実はこのレポートはすでに映画の公式Facebookで2回書いているのです。しかし、せっかくこうした連載の場を頂いていたことを思い出し、こちらに引っ越すことにしました。前回までのレポートはこちらから読めます。

レポート① https://goo.gl/cfRlDt
レポート② https://goo.gl/XhZRuy

 さて、このテキストを書いている1月26日にはすでにジュネーブのブラックムービーフェスティバルでの上映を終えています。
 この映画祭は日本ではまだあまり馴染みが薄いのではないかと思いますが、ジュネーブでは既に始まって17年目で、いくつかあるジュネーブの映画祭の中でも作家性の強い作品をセレクションし、いわゆる映画好き(通訳のIさんいわく「シネフィル」)に好かれる映画祭だそうです。
 今年は日本からは拙作の他に園子温監督の特集や廣木隆一監督の『さよなら歌舞伎町』が上映されます。

 映画祭ディレクターであるKate Reidyさんに最終日に時間を頂き話を伺いました。
 この映画祭の名前を聞いてまず気になったのは、なぜ「ブラックムービー」なのか、でした。そのことを率直に伺ってみると、もともとこの映画祭が始まって10年の間は、アフリカの映画や文化を紹介することを中心に取り組んでいたからなのだそうです。その後、映画祭の運営方針もだんだんと変わり、アフリカの映画に限らず、アジアやヨーロッパの映画も扱うようになりましたが、名前だけはそのまま残しているのだと言います。Kateさんは、映画祭が始まったときにはまだ学生で、スタッフの一人として関わっていたのが今ではディレクターで、もう一人のプロクラマーであるMaria Watzlawickさんと二人で作品の選定はすべて行っているとのことです。

画像: 映画祭事務局の様子。ちょうど昼食どきで、手前にはスタッフ用のランチのパスタが。

映画祭事務局の様子。ちょうど昼食どきで、手前にはスタッフ用のランチのパスタが。

 この映画祭をきっかけに、毎年1,2本の映画のスイスでの配給が決まっていきます。
 併せてスイス映画の状況についても話を伺いました。
 スイスでは映画は毎年70本ほど作られていて、そのうち3分の2がドキュメンタリー映画だとのことで、伝統的にドキュメンタリーへの関心が高いのだとKateさんは言います。
 映画の制作費の半分は、公共の助成金で賄い、残り半分は民間からの出資、テレビ局の資金や海外との合作で作るとのこと。スイスは公用語としてフランス語とドイツ語があり、やはりフランス、ドイツとの合作は盛んなのだそうです。
 こういったヨーロッパでの映画に携わる当事者の話を聞くにつれ、制作資金のほぼ100%を興行や2次使用(DVDなど)で回収しなくてはならない、ハリウッド式の日本の映画の製作システムはどこかで見直す時期がきているのではないかと感じます。例えば是枝裕和監督や河瀬直美監督の作品に代表されるように、日本で作られる映画の多くは内容的にはヨーロッパ映画との親和性が高いと言えます。必ずしもハリウッドの典型的な作品のように最初から数千万人の動員を想定した、マスに向けた娯楽性を重視するものではなく、自然とその射程とする観客数も小さいものとなります。
 にも関わらず、日本映画の基本的なビジネスモデルはハリウッドを模してしまっているのです。そういった、芸術性とシステムの肉離れがそろそろ限界にきているのではないでしょうか。

 この映画祭の特徴のひとつに、子供向けプログラムが準備されている点があります。

■子供向けプログラムの映画
http://blackmovie.ch/2016/eng/petit_black_movie/petit_black_movie.php

 このプログラムを担当するVictor Tetaさんにも話を伺いました。
 作品の選定に関しては、ことさら「子供向け」というよりは、大人が見ても楽しめる、クオリティの高いものを選んでいて、また映画祭としては、映画祭の開催期間中だけではなく、小学校や幼稚園での映画上映活動を行っているという話がとても興味深かったです。
 上映は毎年70箇所以上の学校で行い、数千人規模の子供たちが見てくれているとのことです。
 この映画祭の運営資金は、国(スイス)とジュネーブからの助成金を中心に成り立っていて、この子供向けプログラムのためにもまた助成が降りています。そこからは、作ることから見せること、引いては観客を育てていくところまでの一体となった助成のあり方が伺えました。

「スイスの映画を取り巻く状況もどんどん変化している。チケット料金が高く、若者や貧困層はインターネットに流れていってしまう。映画館も減ってきている。そう言った中で、映画祭はより安価に世界中の映画を提供できていると思う」と語るKateさんの表情は自信に満ちていました。

画像: 左から筆者、ディレクターのKate Reidyさん、子供向けプログラム担当のVictor Tetaさん

左から筆者、ディレクターのKate Reidyさん、子供向けプログラム担当のVictor Tetaさん

ヨーロッパ映画祭ツアーレポート~ジュネーブ・ブラックムービーフェスティバル②につづく
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★映画『さようなら』全国順次公開中!http://sayonara-movie.com/theater.html
1月30日より渋谷アップリンクにて再上映決定!!

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