ロックバンド、ザ・ブルーハーツの歌をベースにして、六人の監督がそれぞれの持ち味を生かして撮ったオムニバス映画。
バンドそのものは1995年に解散しているが、2015年の結成30周年を記念して企画されたもので、六監督はそれぞれの選択した楽曲を自由な解釈で映画化していて、全編を貫くテーマというものはない。全体で159分だが、均等に割り振られているわけではなく、上映時間は異なっている。
『ハンマー』飯塚健 監督
飯塚健監督の「ハンマー(48億のブルース)は、アラサーの煮え切らない女と女子高生、そして古道具屋店主の四人がバンドを結成して舞台に立つまでを、時にコミカル、時にシュールな場面を織り込んで描く。四人の俳優陣はみな個性を生かして笑わせてくれる。特に店主に扮した角田晃広は「オー・マイ・ゼット」「ポエトリーエンジェル」と出演作が続き注目株といったところだが、本作でも落語でいうところのふら(天性のふしぎな魅力)をにじませて秀逸。尾野真千子のしょぼくれ女も柄にあっていた。
『人にやさしく』下山天 監督
「人にやさしく」は宇宙SFもので、流星の衝突で宇宙船が破壊され、兇悪な犯罪者、女革命家、看守、科学者、謎の若者だけが生き残る。宇宙船は宇宙空間を漂っており、救出されるあてもない。生存者が争い傷つけあう中で、市原隼人扮する若者の意外な正体が明らかになる。アクション描写も迫力あるが、それにプラスして人間性とは何かを考えさせるラストで、爽やかな印象を残す。
『ラブレター』井口昇 監督
「ラブレター」は「ロボゲイシャ」「電人ザボガー」「スレイブメン」といった稚拙なSFXを(わざと?)駆使し、野暮ったいストーリー&演出の映画で知られる井口昇が監督。大輔は高校時代をテーマにしたシナリオを執筆しているうちに、なぜか大輔が片思いしていた美少女が事故死した日にトリップする。はたして彼は死を止められるか。斉藤工、要潤が学生服を着てドタバタ駆けまわる、その悪趣味さこそが井口映画の特徴といえよう。
『少年の詩』 清水崇 監督
「少年の詩」はシングルマザーの育てられている少年を中心にしたドラマであり、「呪怨」「こどもつかい」といった怨念テーマのホラーを得意とする清水崇が監督。1987年を舞台に、内川蓮生扮する健少年が、優香扮する母親に近づこうとする新井浩文扮する上司の恋路を邪魔しようとして……。シンプルな人物関係がうみだすちょっとしたドラマがさらりと描かれている。
『ジョウネツノバラ』工藤伸一 監督
「ジョウネツノバラ」は六編中最もシュールでとがった作品といえよう。最愛の女性を亡くした男は亡骸を盗み出し、アパートに安置するが、腐敗を防ぐために、彼女を氷漬けにしてしまう。男と女、二人だけのドラマであり、台詞もない。男の狂気に駆られたような表情、行動がすさまじい。男に扮した永瀬正敏は脚本にも参加、女を演じる水原希子には「ご苦労さん」と云いたい。監督はCM、ミュージック・ビデオを多く手掛けている工藤伸一で、本作が映画第一作。
『1001のバイオリン』李相日 監督
「1001のバイオリン」は時事ネタを織り込んだ作品。福島原発の作業員だった達也一家は東京に移り住み、妻娘は東京に慣れ親しんでいるが、彼だけは就職先も見つからず、鬱々とした日々を送っている。後輩安男の訪問を機に、彼と一緒に福島に戻り、禁止地域の中に入っていって、放置してきた飼い犬を探す。故郷を追われた喪失感、ぽっかり空いた心の穴はふさげるのか。達也役の豊川悦司、安男役の三浦貴大が好演。監督は福島を舞台にした「フラガール」で日本アカデミー賞監督賞を得た李相日。
ブルーハーツの曲を援用するのが共通テーマという一風変わったオムニバス映画だが、六本それぞれに独自性があり、楽しめる映画に仕上がっている。
北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。
【出演】
尾野真千子 角田晃広/市原隼人 高橋メアリージュン/斎藤工 要潤 山本舞香/
優香 内川蓮生 新井浩文/永瀬正敏 水原希子/豊川悦司 小池栄子 三浦貴大 他
監督:飯塚健 下山天 井口昇 清水崇 工藤伸一 李相日
上映時間:164分/日本
配給:日活/ティ・ジョイ