悪意はどこに宿るのか──ホラー映画における倫理の変遷
『ハリウッド・リポーター』誌選出「21世紀のホラー映画ベスト25」
ホラー映画の恐怖は、常に時代の倫理を映し出してきた。かつては吸血鬼や怪物、悪魔のように、人智を超えた存在が人間を脅かしていた。しかし21世紀を迎えた私たちは、それがもはや“外部の敵”ではなく、“私たち自身の内面や制度、関係性の歪み”にこそ潜んでいることを知っている。つまり、ホラーが映すものは「他者の悪」ではなく、「私たち自身のなかにある悪意」そのものなのだ。
『羊たちの沈黙』からJホラーへ
その倫理的変遷の起点として、まず想起されるべきは『羊たちの沈黙』(91)である。表向きは犯罪捜査を軸とするサイコスリラーでありながら、この映画はホラー映画史にとって決定的な分岐点となった。それは、恐怖...