《ひまわり》の鮮やかな黄色や、《自画像》の青色が印象的なフィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)。彼の芸術は、美しい色彩と豊かな表現力で、今なお、世界中の人々を魅了しています。ゴッホは壮絶な人生を生き、わずか10年ほどの画業で、数々の名画を世に残しました。
このたび、ゴッホの黄金期のアルル時代の名作《跳ね橋》をはじめ、印象派の多彩な作品が一堂に会する展覧会「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵」が11月29日まで名古屋市美術館で開催中です。
ドイツ・ケルン市にあるヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団は約7万点の所蔵品を誇る、ドイツ有数の美の殿堂で、特に19世紀フランス美術のコレクションは質・量ともに優れたことで知られています。
本展では、同館から印象派を代表するモネ、ルノワール、セザンヌ、ピサロをはじめ、彼らに影響を与えたミレー、コローらバルビゾン派の画家たち、さらには新印象主義の最も重要な画家のひとりであるシニャックなど、印象派をめぐる42名の画家たちの作品が紹介されます。
とりわけフィンセント・ファン・ゴッホは、印象派の流れの中でも際立つ存在であり、その代表作《跳ね橋》は見逃せない名作です。
ドイツの文化都市として名高いケルンが育んだ豊かなコレクションから選び抜かれた70点をご堪能ください。
第1章 印象派前
19 世紀後半、フランスの官営サロンでは、歴史画を重視し、風景画を物語の背景として低くみなすアカデミズムが主流となっていましたが、鉄道網の発達やチューブ絵具の開発など、社会の発展にともなって、伝統から抜け出し、新しい絵画表現を模索する画家たちが現れます。近代化するパリを生きる人々やその生活をありのままにとらえようとし、イザベイやクールベ、ブーダンは、戸外に出て、自然を目の前にして制作を行い、自らの目でとらえた自然をありのままに描き出そうとしました。
彼らは、ブーダンに勧められて絵を始め、クールベと親交のあったモネをはじめ、印象派の画家たちに大きな影響を与えました。

ウジェーヌ・ブーダン《ケリュオン、漁婦たち》1870年、油彩、カンヴァス、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵 「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵」名古屋市美術館内覧会にて撮影 photo by © cinefil
ブーダンは、印象派に先駆けて、スケッチから油彩画の完成まで、戸外制作を行い、モネをはじめ、印象派の画家たちに大きな影響を与えました。
本作は1870年のサロン出品のための大型作品で、初期の重要な作品です。
描かれた場所は、フランス西端、ブルターニュ地方の軍湾ブレストの東に位置する沿岸の町ル・ルレック・ケリュオンです。地元の女性たちが作業に勤しむ湾の外には、大西洋へ注ぐ、清澄なエメラルドグリーンのエロルノ河が広がっています。
コローに「空の王者」と讃えられたブーダンらしい作品です。

エドゥアール・マネ《アスパラガスの束》1880年、油彩、カンヴァス、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵 「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵」名古屋市美術館内覧会にて撮影 photo by © cinefil
アスパラガスの束が描かれた本作には、素敵なエピソードがあります。本作が800フランで販売されていたのですが、コレクターが1,000フランで購入しました。マネは「束から一本抜けていました。」と手紙が添えられ、アスパラガス一本だけの絵(1880年、オルセー美術館蔵)が届いたというものです。
マネはウイットに富んだ人物であり、《草上の昼食》のように、伝統的な裸体画を現代的かつ、挑発的な解釈で描き、美術界に衝撃を与えるような人物であったようです。
第2章 バルビゾン派
1830年代から40年代に、フォンテーヌブローの森のはずれにあるバルビゾン村に、画家たちが集まるようになり、コロー、ミレー、テオドール・ルソーら「バルビゾン派」と呼ばれる画家たちが、目の前に広がる風景を、歴史画の中の一部としてではなく、独立したテーマとして描き出します。
彼らが描く穏やかな田園風景は、慌ただしく生きる都市の生活者を魅了しました。 またゴッホは、ミレーが描いた農民の崇高さを大いに称賛しました。

シャルル=フランソワ・ドービニー《花咲く果樹園》1870年頃、油彩、カンヴァス、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵 「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵」名古屋市美術館内覧会にて撮影 photo by © cinefil
刻々と移り変わる水面の描写にこだわり、自然の中に身を置き観察することを重視した
ドービニーは、1857年にアトリエ月の小型船をあつらえて、川辺の風景を描くたびに出ました。花咲く果樹園やリンゴの木といった主題は春の定番として同時期から取り組んでいたものでした。

アンリ・ファンタン=ラトゥール《シャクナゲの花》1874年、油彩、カンヴァス、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵 「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵」名古屋市美術館内覧会にて撮影 photo by © cinefil
ファンタン=ラトゥールは、印象派の家たちと同年代で、彼らが慕うマネと特に親しい関係にありました。擁護しつつも前衛芸術には加わらず、ドラクロワと、コローに魅了されましたが、傾倒せず、古画を手本とし写実的に花の静物画を描きました。
第3章 印象派
戸外に出て、光の効果を描き出そうとする印象派の画家たちは、細かなタッチを画面に残す「分割主義」と呼ばれる独特の技法を生み出します。
1874年に開かれた第一回印象派展では、伝統的な技法を無視した表現は、「稚拙」や「未熟」という批判を受け、「印象派」という言葉が生み出されます。
しかし、印象派の画家たちがもたらした革新は、表現技法以上に、筆跡によって、個人の感性を画面に残したことにありました。個人の主観でとらえた一瞬の印象を描き出す印象派の作品は、自然の模倣を重視してきたアカデミーの伝統を覆し、より自由な表現への地平を切り開いたのです。

クロード・モネ《エトルタの浜辺の漁船》1883-84年 油彩、カンヴァス、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵 「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵」名古屋市美術館内覧会にて撮影 photo by © cinefil
ノルマンディー地方の景勝地エトルタは、断崖や奇岩が作り出す素晴らしい風景が多くの画家たちの創作意欲を掻き立て、クールベ、コロー、ブーダンといった画家たちはこの場所を描き、モネも1883年にここを訪れ、それからも数年にわたって繰り返しこの場所を描いています。モネは同じ場所で、異なる時間帯に刻々と移り変わる光景を描きました。
代表作《印象・日の出》(1872年)は、 印象派の名前の由来となりました。
モネは時間や天候によって刻々と移り変わる光を捉え、「睡蓮」の連作などを描き、「光の画家」、「印象派の父」と呼ばれました。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《縫物をするジャン・ルノワール》1898年 油彩、カンヴァス、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵」名古屋市美術館内覧会にて撮影 photo by © cinefil
ルノワールには3人の息子がいて、本作は次男のジャン(1894年生)を描いたものです。
ジャンは「大いなる幻想」などの名作でフランスを代表する映画監督となりました。
この絵のモデルになったときはまだ4歳ほどでした。女の子のような洋服、髪にはリボンを付けていますが、これは、当時、乳幼児の、特に男の子の死亡率が高かったため、嫌がる面もあったようですが、女の子のような姿をさせていたようです。
うつむきながら、懸命に布に針を通す息子の表情が愛らしく、それを見つめる画家の父親としての愛情も感じられる作品です。
ルノワールは女性や少女の肖像画や裸婦など、乳白色の肌の色合いが美しい画家で、《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》や、《舟遊び》、《桟敷席》など当時の上流階級の風俗を描いた作品も有名です。
第4章 ポスト印象派
「ポスト印象派」とは、1880年前後に印象派が分岐し、さまざまな方向へ展開した芸術動向を総称する呼称です。この章では、その中心的存在とされるセザンヌ、ゴーガン、そしてファン・ゴッホの作品を通して、印象派以後の絵画が拓いた表現の軌跡がたどられています。

ポール・セザンヌ《梨のある静物》1885年頃 油彩、カンヴァス、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵 「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵」名古屋市美術館内覧会にて撮影 photo by © cinefil
セザンヌは、ポスト印象派の画家で、キュビスムをはじめとする20世紀の美術に多大な影響を与え、「近代絵画の父」と呼ばれています。
本作は、丸々とした梨が、どっしりと存在感をもって積み上げられ、テーブルの白い布
とともにはっきりとした輪郭線で縁取られ、黒い影も描き込まれています。
本作のような静物画は、この後も繰り返し描かれる主題です。

ポール・ゴーガン《ブルターニュの少年》1889年、油彩、カンヴァス、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵 「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵」名古屋市美術館内覧会にて撮影 photo by © cinefil
清々しい鮮やかな緑の草原に白い布を敷いて横たわる少年。ゴーガンがパリを離れ、フランス北西部のブルターニュに滞在していた頃の作品で、ここでの制作は、近代文明から解放された新しい芸術テーマをゴーガンに提供し、1891年にタヒチに向かい、以降、生涯のほとんどを同地で過ごすことになりました。

フィンセント・ファン・ゴッホ《跳ね橋》1888年 油彩、カンヴァス、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵 「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵」名古屋市美術館内覧会にて撮影 photo by © cinefil
明るい陽光に溢れる場所での制作を臨んで、ゴッホは1888年にパリからアルルへ拠点を移しました。到着後、すぐにこの跳ね橋を主題にした作品を制作し、同年5月にその連作の最後の作品として本作を描きました。
明るく澄みきった空のもと、架かる跳ね橋。空の淡いブルーの柔らかな色合いと対照的に
画面右下からは鮮やかな黄色の短い描線が連なり、原色に近い緑色の筆触で、草の生い茂った川岸が描かれています。ゴッホらしいブルーとイエローの配色です。 青空の下、豊かな自然の風景が広がり、太陽の光を受けて、水面に反射しています。
ゴッホは南仏の明るい太陽のもとで、光り輝く自然の美しさを描き出しました。
37歳という若さでこの世を去ったゴッホ。ドラマティックな人生のわずか10年ほどの画業で、素晴らしい多くの作品を描き出しました。南仏アルルの穏やかな気候、明るい太陽のもとで過ごした期間は、ゴッホの作品制作の中でも黄金期であったでしょう。
第5章 点描派
1886年、最後の印象派展の中心的な画家はスーラやシニャックら「新印象派」と呼ばれる画家たちでした。彼らは、筆触を分割する印象派の技法をさらに理論的に追求し、小さな点を科学的根拠にもとづいて画面に配置する「点描」という技法を編み出し、明るい色彩に満ちたイメージを生み出しました。

ポール・シニャック《カポ・ディ・ノリ》1898年、油彩、カンヴァス、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵 「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵」名古屋市美術館内覧会にて撮影 photo by © cinefil
印象派に影響を受け、スーラとともに点描技法を追求したシニャック。
シニャックは1892年からサン=トロペを筆頭に地中海沿岸の光と色彩に魅了され、作品を描きました。本作は、地中海の港の風景と、クロード・ロランの作品にみられるような古典的な構図、強烈な色彩がバランスよく融合されています。
第6章 20世紀の色彩画家
20 世紀の幕開けとともに、西洋美術は大きな転換点を迎えます。マティスやドンゲン、ヴラマンクらは、新印象派の技法の追求の末、色彩そのものの可能性を追求します。大胆な原色と荒々しいタッチによって色彩の解放を果たした彼らは「フォーヴィスム(野獣派)」と呼ばれるようになりました。

ピエール・ボナール《ボートにて、ヴェルノン》1912年 油彩、カンヴァス、ヴァルラフ=リヒャルツ美術館・コルブー財団蔵 「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵」名古屋市美術館内覧会にて撮影 photo by © cinefil
ボナールやドニらの「ナビ派」と呼ばれる画家たちは、装飾的で調和のとれた色面表現によって、画家の内面や精神性を映し出しました。
印象派前、バルビゾン派から、印象派、新印象主義、フォーヴィスムまで壮大なスケールで名画をめぐる旅。42人の名だたる画家たちによるまるで教科書のような名画の競演に心癒され、夢のようなひとときをお過ごしください。
展覧会概要
展覧会名 ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵
Wallraf-Richartz-Museum & Fondation Corboud, Cologne, Germany
“Van Gogh and the Impressionists”
会 期 2026年9月19日(土)-11月29日(日)[63日間]
休 館 日 月曜日(ただし、11/23は開館)、10/13(火)
開館時間 午前9時30分~午後5時、金曜日は午後8時まで(いずれも入場は閉館の30分前まで)
会 場 名古屋市美術館 企画展示室1・2
観 覧 料 一般1,900(1,700)円、高大生1,000(800)円、中学生以下無料
( )内は通常前売・20名以上の団体料金
※詳細は下記展覧会公式サイトをご覧ください。
公式サイト
https://static.chunichi.co.jp/chunichi/pages/event/vangoghandtheimpressionists
シネフィルチケットプレゼント
下記の必要事項、をご記入の上、「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵」@名古屋市美術館 シネフィルチケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、無料観覧券をお送り致します。この観覧券は、非売品です。
転売業者などに転売されませんようによろしくお願い致します。
☆応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
★応募締め切りは2026年10月5日 月曜日 24:00
記載内容
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