澄みきった湖畔の水面に映し出される清々しい緑の樹々、春の月明かりに照らし出される満開の桜、燃え立つような紅葉、霧に包まれた雄大な山岳など、幻想的で美しい情景を描き出した東山魁夷(ひがしやまかいい)(1908-1999)。
日本各地や欧州を旅して自然が織り成す風景を描き、今も人々を魅了する魁夷は、「国民的風景画家」として知られています。
また、海や山を、印象的な深い緑がかった青色のグラデーションで表現した魁夷は「青の画家」とも称され、その青色は、「東山ブルー」「魁夷ブルー」と呼ばれています。
自然と真摯に向き合い、思索を重ねながら描き出した静謐で幻想的な魁夷の青色の世界は、日本人の自然観や心情までも映し出しているようです。
このたび、2024年10月で開館5周年を迎えた京都・嵯峨嵐山の福田美術館では、東山魁夷を中心に、日本と西洋の風景画を紹介する企画展が開催されています。
本展では、福田美術館が所蔵する魁夷の名品約30点が一挙公開され、京都の修学院離宮を描いた《夕涼》や、円山公園の祇園しだれ桜を描いた《花明り》(株式会社大和証券グループ本社蔵)などの名品も特別展示されています。
与謝蕪村(よさぶそん)や池大雅(いけのたいが)が憧景した中国の山水画に基づいて描く近世の風景画から、横山大観(よこやまたいかん)・菱田春草(ひしだしゅんそう)らが光や空気を新技法「朦朧体(もうろうたい)」で表現した近代日本画まで、風景画のルーツを辿る作品が紹介されています。
さらに、19世紀フランスで活躍した西洋画家カミーユ・コローやクロード・モネの風景画作品も展示されています。印象派の光と色彩、そして魁夷の清澄で抒情的な青の風景をご堪能ください。

展覧会風景 福田美術館 「東山魁夷と風景画の旅 -日本から世界へ-」内覧会にて
Photo by ©cinefil
第1章 日本と世界の風景画
日本の風景画のルーツを辿ると、与謝蕪村や池大雅が憧れた、中国の山水画の影響を受けていることがわかります。
明治時代には実際に海外を旅した画家たちが、彼らの目で見た西洋の風景を描く時代が訪れます。横山大観や菱田春草は、日本画の伝統に西洋絵画の光や空気を取り入れ、輪郭線ではなくぼかしを用いた色面描写をおこなう「朦朧体(もうろうたい)」と呼ばれる独自の技法で新しい風景画を創り出し、和洋折衷の美しい世界を展開しました。
一方、京都では竹内栖鳳(たけうちせいほう)や山元春挙(やまもとしゅんきょ)といった画家たちが、伝統的な日本画を継承しつつ、西洋の技法や表現を取り入れた新たな作品を生み出します。本章ではさらに、近代西洋画の代表的画家、カミーユ・コローやクロード・モネによる作品も併せて展示されています。

伝雪舟《雪景山水図》15~16世紀 福田美術館蔵 通期展示 Photo by ©cinefil
雪舟は室町時代、京都の相国寺で禅宗の修行を積むとともに、絵画も学びました。
1467年に中国に渡り、その風景に深く感銘を受けたといわれています。
本作の上部は遠景が、下部には近景が描かれています。

池太雅《富嶽図》18世紀 福田美術館蔵 通期展示 Photo by ©cinefil
本作のように近景と遠景の間に余白を作る構図は中国の山水画の定型です。

竹内栖鳳《春の海》1924年 福田美術館蔵 通期展示 Photo by ©cinefil
竹内栖鳳は近代の京都画壇を代表する画家で、獅子を描いた絵画でも有名です。
金泥(きんでい)と貴石(きせき)を砕いた貴重な岩絵具の群青、緑青を用いて、穏やかに波が打ち寄せる美しい春の海が表現されています。

菱田春草《青波舟行》1907年 福田美術館蔵 前期展示 Photo by ©cinefil
菱田春草はインド、アメリカ、ヨーロッパへ遊学し、西洋美術に接したことにより、時間の経過で刻々と移り変わる様子や、季節の移ろいに注目した風景を描くようになりました。
波を線ではなく、色彩のグラデーションで表現し、自分の眼で見た風景を描き出しました。

クロード・モネ《プールヴィルの崖、朝》1897年 福田美術館蔵 通期展示 Photo by ©cinefil
「光の画家」とも言われ、印象派を代表する巨匠モネの作品。
フランス・ディエップ郊外にある漁村の風景。モネは砂浜に立ち、淡い光に包まれた朝の景色を描いています。モネは自然の風景を屋外で観察し、刻々と移ろいゆく光や空気感を探求し、表現しました。モネの作品に描かれる光と色彩は近代絵画に大きな影響を与えました。
第2章 東山魁夷と旅する風景
ここでは、魁夷が日本と欧州を旅して、風景を描いた作品が一堂に集結し紹介されています。
魁夷は神奈川県横浜市に生まれ、18歳で東京美術学校に入学し、日本画を専攻しました。その後25歳でベルリンへ留学し、欧州各地を周って写生を行い、西洋の風景画から多くを学びます。帰国後しばらくして、第二次世界大戦が勃発。自身も召集され訓練中もたびたび空襲に遭うなど、悲惨な戦争体験をし、終戦後、母と弟が相次いで他界してしまいます。
失意の底にあった魁夷ですが、風景画を描き続けることによって、作品に深い精神性が宿ることになります。40代で遅咲きながら高い評価を得、やがて「国民的画家」と呼ばれるようになった彼は、90歳まで絵筆をとり続けました。

東山魁夷《朝光》 1953年 福田美術館蔵 通期展示 Photo by ©cinefil
朝日に照らされた新緑の中に手前から左奥へと続く一本の道が描かれています。
魁夷は、強い光に照らされた道や、陰惨な影に包まれた道ではなく、日の出前の薄明るい静かな道を歩みたい、と述べていました。

東山魁夷《静けき朝》 1962年 福田美術館蔵 通期展示 Photo by ©cinefil
長野県志賀高原にある三角池を題材にした作品。青緑のグラデーションで清澄で静謐な湖と森の樹々を描き出しています。水面に映る緑の樹々も幻想的で美しく表現されています。
魁夷は北欧を周遊した後、現実と心象の風景を融合させた作品を多く制作しました。

東山魁夷《夕涼》 1968年 福田美術館蔵 通期展示 Photo by ©cinefil
京都の北東、比叡山の麓に位置する修学院離宮。「東山ブルー」の青を基調とした画面には、静けさと、清涼な空気感が漂い、水面に反映される樹々とともに幻想的な雰囲気を醸し出しています。本作は「京洛四季シリーズ」の一作で、小説「古都」の構想を練っていた川端康成の助言を受けて描いたものです。

東山魁夷《盛秋》 1966年 福田美術館蔵 通期展示 Photo by ©cinefil
北海道千歳市にあるオコタンベ湖はターコイズブルーに輝くことで知られています。魁夷もそのことを知って訪れ、感銘を受けて描いたようです。赤、黄、橙の紅葉と湖のコントラストが鮮烈です。

東山魁夷《緑の園》(部分) 1970年 福田美術館蔵 通期展示 Photo by ©cinefil
魁夷は日本国内だけでなく、欧州にも旅し、風景を描きました。
オーストリア・ザルツブルクを流れるザルツァハ川の右岸のミラベル宮殿の庭園は、バロック様式の名園として知られ、宮殿の間では、モーツァルトが演奏をしました。緑一色に包まれた庭園の中に可憐なピンクの花が描かれています。
第3章 東山魁夷と同時代のカラリスト
戦後の日本画における色彩の変化に焦点を当て、東山魁夷と同時代の画家たちの作品が紹介されています。
魁夷は全体の色調を統一させ、色を薄く何度も塗り重ねることにより、奥行きのある色の世界を創り上げました。この「東山ブルー」と呼ばれる深みのある色彩は人々を魅了しました。 また、魁夷だけでなく戦後の日本画家は、西洋絵画に負けない存在感のある画風を探求しました。戦後、日本画の画材は、それまで使用されていた鉱石を砕いてつくられる伝統的な岩絵の具に代わって、ガラスを使用した「新岩絵具」が開発され、色数が格段に増しました。
魁夷と同じく日本画に新しい潮流をもたらした小野竹喬(おのちっきょう)、奥田元宋(おくだげんそう)、加山又造(かやままたぞう)などの画家たちもまた、鮮やかな色彩と新しい技法を駆使し、独自の色の世界を生み出しました。

東山魁夷《緑の朝》 1991年 福田美術館蔵 通期展示 Photo by ©cinefil
朝日に照らし出される池畔が幻想的に描かれているドイツの風景画で、画面右側にはぼんやりと白馬が見られます。(白馬は魁夷の作品でよく描かれています。)
北欧への旅や、唐招提寺御影堂の障壁画制作を経て、装飾性と抒情性を兼ね備えた独自の画風を確立した魁夷の集大成ともいえる晩年の作品。静けさと深い思索が込められた青と緑の世界が広がっています。

東山魁夷《明宵》 1983年 福田美術館蔵 通期展示 Photo by ©cinefil
画題の《明宵》とは、日没後、月が山々を明るく照らし始める瞬間のことです。
明るく淡い色調の青色から、暗く、深い色の青色まで、いわゆる「東山ブルー」で木々の立体感や空間の奥行きまでが見事に表現されています。本作は、1983年に富山県の黒部峡谷の風景を取材し、描かれたものです。
どこまでも清らかで澄んでいる湖や海、空。 果てしなく広がる清々しい森や樹々。
東山魁夷の描く景色は、詩情あふれる幻想的な風景です。
都会の喧騒を離れ、京都・嵯峨嵐山の福田美術館で「東山ブルー」に心癒されるひとときをお過ごしください。

京都・嵯峨嵐山渡月橋の風景 Photo by ©cinefil
展覧会概要
タイトル 東山魁夷と風景画の旅 日本から世界へ
会期 2025年2月1日(土)~ 2025年 4月13日(日)
前期 2025年2月1日(土)~ 3月3日(月)
後期 2025年3月5日(水)~ 4月13日(日)
開館時間 10:00〜17:00(最終入館 16:30)
休館日 2月18日(火)設備点検 3月4日(火)展示替え
場所 福田美術館(京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16)
入館料 一般・大学生:1,500(1,400)円 高校生:900(800)円
小中学生:500(400)円 障がい者と介添人1名まで:各900(800)円
※( )内は20名以上の団体 料金 ※幼児無料
詳細は下記をクリックしてご覧ください。
https://fukuda-art-museum.jp/
シネフィルチケットプレゼント
下記の必要事項、をご記入の上、「東山魁夷と風景画の旅 日本から世界へ」@京都・福田美術館シネフィルチケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、無料観覧券をお送り致します。この観覧券は、非売品です。
転売業者などに転売されませんようによろしくお願い致します。
☆応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
★応募締め切りは2025年2月24日 月曜日 24:00
記載内容
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