メキシコと⽇本の架け橋となった芸術家・北川民次(きたがわ たみじ)の生誕130年を記念する展覧会が、名古屋市美術館にて開催中です。

静岡県に⽣まれ、1914 年にアメリカに渡って美術を学んだ北川は、1921 年から約15 年間、革命期のメキシコで、様々な作家と交流しながら美術運動にも関わり、新しい芸術を模索していました。そして独自の創造性を育み、洋画家としてだけでなく、壁画家、絵本作家、美術教育者として、情熱を注ぎ活動しました。

1936 年に帰国後は、東京の洋画壇で活躍し、メキシコの⾵俗を壁画のような⼤画⾯に描き出しました。また、第⼆次世界⼤戦後は瀬⼾を拠点に制作を続け、社会問題を主題として取り上げ、作品を通して社会にメッセージを投げかけました。

本展は、絵画作品約70 点を含む約180 点の作品と資料によって、多彩な側⾯をもつ北川⺠次の魅⼒に迫る展覧会です。1996 年に開催されてから約30 年ぶりの⼤規模な回顧展となります。作家ゆかりの東海地⽅をはじめ、宮城、新潟、栃⽊、愛媛など、全国各地に所在している作品が一堂に会する貴重な機会です。
名古屋市美術館にて9 ⽉8 ⽇(⽇)まで開催され、世⽥⾕美術館[東京]に9 ⽉21 ⽇(⼟)~11 ⽉17 ⽇(⽇)、郡⼭市⽴美術館[福島]に2025 年1 ⽉25 ⽇(⼟)~3 ⽉23 ⽇(⽇)巡回します。
是非、この機会に北川民次の描く新しい世界、メキシコの新しい風を感じる展覧会を訪れてください。
それでは展覧会構成に従っていくつかの作品をご紹介致します。

画像: 北川⺠次 1949 年 撮影:松⾕錦⼆郎

北川⺠次 1949 年 撮影:松⾕錦⼆郎

第1章 ⺠衆へのまなざし

北川はアメリカ時代に舞台美術の仕事をする傍ら、アート・スチューデンツ・リーグに在籍。ジョン・スローンら社会派の画家たちから「⺠衆を描く」姿勢を学びました。

画像: 《トラルパム霊園のお祭り》1930 年 名古屋市美術館

《トラルパム霊園のお祭り》1930 年 名古屋市美術館

メキシコの風俗を描いた北川の代表作。前景にはメキシコらしいサボテンが描かれ、赤子を抱えたメキシコ人女性や、水浴する裸婦が描かれています。
その向こうに棺桶を運ぶ葬列が見えます。「生」の象徴である赤子と「死」を表す棺桶が同じ画面に巧みにまとめられています。肌の色が違う女性は、北川の妻のようで、その年に第一子が誕生しました。北川は外国人としてこの絵を描いたのではなく、この土地の文化を共有して描いているようです。

画像: 展示風景より《⽔浴》1929 年、刈⾕市美術館 photo by ©cinefil

展示風景より《⽔浴》1929 年、刈⾕市美術館 photo by ©cinefil

北川はメキシコの風俗の美しさだけではなく、時には醜い現実を描き、その背後にある社会問題まで描き出そうとしています。

画像: 《アメリカ婦⼈とメキシコ⼥》1935 年(1958 年補筆)、郡⼭市⽴美術館

《アメリカ婦⼈とメキシコ⼥》1935 年(1958 年補筆)、郡⼭市⽴美術館

第2章 壁画と社会

メキシコ・ルネサンスの壁画運動との共通点や差違が紹介されています。
北川は⽇本へ帰国後、藤⽥嗣治の勧めもあり、メキシコの⾵俗を壁画のような⼤画⾯に描きました。社会問題に目を向け、労働者の様子を描き、社会問題に鋭く切り込んでいます。

画像: 《農漁の図》1943 年、東京都現代美術館

《農漁の図》1943 年、東京都現代美術館

画像: 《雑草の如くⅡ》1948 年、名古屋市美術館

《雑草の如くⅡ》1948 年、名古屋市美術館

本作ではテーブルを挟んで、人々が上下に分かたれ、持つ者と持たざる者、支配する者とされる者の対比が表現されています。
本章では北川と親交のあった藤⽥嗣治の作品も紹介されています。

第3章 幻想と象徴

北川は1950 年代に、壁画の下絵や部分絵としての絵画を描くことから、額縁に⼊った絵画(タブロー)の制作へ関⼼を移します。新しい表現を模索するなかで、メキシコの作家ルフィーノ・タマヨの造形表現を参照しました。シュルレアリスムに接近した不思議な絵画空間を描き出します。
本章では、同時代のメキシコで活動した画家ルフィーノ・タマヨや写真家ティナ・モドッティなどの作品も紹介されています。

画像: 《岩⼭に茂る》1940 年、個⼈蔵

《岩⼭に茂る》1940 年、個⼈蔵

本作は北川によると、「窮乏に耐える民族を不毛の土地に粘り強く生きる植物にたとえた」ものだそうです。奇妙にねじれ絡み合う植物が、苦しみ、もがく人体のようにも見えます。

第4章 都市と機械⽂明

本章ではメキシコの前衛的な芸術グループからの影響が紹介されています。北川は、都市や建物の⾵景をダイナミックに歪んだ遠近法で切り取り、⼯場や機械の形態の⾯⽩さに注⽬した作品を、晩年に至るまで制作しています。都市や機械⽂明に注⽬した作品が取り上げられています。

画像: 《砂の⼯場》1959 年、愛知県美術館

《砂の⼯場》1959 年、愛知県美術館

第5 章 美術教育と絵本の仕事

1920 年代に隆盛したメキシコの美術教育からの影響を中⼼に紹介されています。
帰国後は、美術批評家の久保貞次郎らと交流して「コドモ⽂化会」を設⽴、絵本制作に熱中します。

画像: 展示風景より《ロバ》1928 年、愛媛県美術館 photo by ©cinefil

展示風景より《ロバ》1928 年、愛媛県美術館 photo by ©cinefil

北川は、野外美術学校の教え子の制作に刺激を受け、新しい表現の開拓に取り組むようになりました。メキシコの生活や労働に関わり人々とともに生きる動物として不可欠なロバを愛情深く表現しています。

画像: 展示風景より『マハフノツボ セトモノノオハナシ』1942年 瀬戸市美術館/名古屋市美術館 photo by ©cinefil

展示風景より『マハフノツボ セトモノノオハナシ』1942年 
瀬戸市美術館/名古屋市美術館 photo by ©cinefil

北川が手掛けた初めての絵本。物語の最後が、「魔法の壺」を捜すなかで、「たくさんの人間の力」こそが「魔法」であるというところに、感動させられます。

エピローグ 再びメキシコへ

北川は1955 年にメキシコを再訪し、旧友と親交を深めるとともにモザイク壁画の可能性に注⽬しました。⽇本へ帰国以降には、瀬⼾の職⼈と協働して公共の場所に設置するモザイク壁画の制作に次々と取り組みます。

画像: 瀬⼾市図書館陶壁原画《勉学》1970 年、瀬⼾市美術館

瀬⼾市図書館陶壁原画《勉学》1970 年、瀬⼾市美術館

画像: 展示風景より《メキシコの山》1955年 個人蔵 photo by ©cinefil

展示風景より《メキシコの山》1955年 個人蔵 photo by ©cinefil

1955年のメキシコ再訪の旅では北川はのびのびとした筆致で各地の風景を描いています。

⽇本へ帰国以降には、瀬⼾の職⼈と協働して公共の場所に設置するモザイク壁画の制作に次々と取り組んだ北川。瀬⼾市や名古屋市内に現存する壁画をはじめ、北川⺠次の芸術活動は後世に引き継がれていくことでしょう。
ありのままのメキシコの民衆を描き、社会問題にも取り組んだ北川。メキシコと日本の架け橋となった多彩な北川民次の芸術をご堪能ください。

※「展示風景より」の画像は、「⽣誕130 年記念 北川⺠次展―メキシコから⽇本へ」名古屋市美術館、内覧会にて撮影。

展覧会概要

会期:2024年6月29日~9月8日
会場:名古屋市美術館
住所:愛知県名古屋市中区栄2-17-25
電話番号:052-212-0001
開館時間:9:30~17:00(祝日除く金〜20:00) ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月(ただし、7月15日、8月12日は開館)、7月16日、8月13日
料金:一般 1500円 / 高校・大学生 900円 / 中学生以下 無料
詳細は公式サイトをご覧ください。
公式サイト 名古屋市美術館 https://art-museum.city.nagoya.jp/

シネフィルチケットプレゼント

下記の必要事項、をご記入の上、「⽣誕130 年記念 北川⺠次展―メキシコから⽇本へ」@名古屋市美術館 シネフィルチケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、無料観覧券をお送り致します。この観覧券は、非売品です。
転売業者などに転売されませんようによろしくお願い致します。
☆応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
★応募締め切りは2024年7月22日 月曜日 24:00
記載内容
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