気鋭の映画監督して注目される磯部鉄平監督の短篇、長編作品の一挙特集上映がアップリンク吉祥寺にて7月10日より劇場公開(レイトショー)スタートします。
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019 SKIPシティアワード受賞をはじめとして、様々な映画祭で高い評価を得た2019年の最近作『ミは未来のミ』、同じくSKIP シティ国際 D シネマ映画祭 2018 短編部門 優秀作品賞 ( グランプリ ) に輝いた『予定は未定』 、第 4 回賢島映画祭 グランプリ、主演女優賞 (高田怜子)、助演女優賞 (屋敷紘子)と三冠を受賞した『オーバーナイトウォーク』ほか短編作2本と合わせた特集上映。
この度、シネフィルでは磯部鉄平監督を中心に『ミは未来のミ』に出演の櫻井保幸さん、『予定は未定』『オーバーナイトウォーク』に出演の屋敷紘子さんのインタビューを紹介します。
大阪と東京で映画制作を続ける磯部鉄平監督が、2016年から約3年間で制作した短篇、長編作品を劇場で公開となります。
磯部鉄平監督は、河瀬直美らを輩出したビジュアルアーツ専門学校大阪の出身。映画を作り始めたのは30歳を過ぎてから、という遅咲きの俊英ですが、 だからこそ持ちえた独自の視点で、数々の短編映画を制作。
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2年連続受賞、Kisssh-Kissssssh映画祭グランプリ、賢島映画祭3年連続受賞、札幌国際短編映画祭、大阪アジアン映画祭、 ニッポンコネクション、さまざまな映画祭の賞で入選・受賞の結果を残してきました。
友人を失った高校生、いき遅れたOL、夢を追うフリーター、磯部鉄平の作品の中には様々な喪失感を抱えながら踠いている人物が登場します。 世代や性別、環境は様々であるが、常に描こうとしているのは”青春”。 モヤモヤ感を抱えながらも、希望を見出す優しい視点を持ち合わせるところが特性。そんな監督へ、特集上映が始まる前に作品や、出演者についてお聞きしました。
磯部鉄平監督への質問
―短編映画へのこだわりを教えていただけますでしょうか?
短編を撮るのはお金や時間といった現実的な問題もあります。
始めた頃は休日に少人数で集まって自主映画を撮るので、長編を撮る体力がなかったのです。
短い尺で登場人物の背景や物語の前後を想像させる事を撮りながら学んでいったみたいな感覚はあります。
描かなくてわかるものは撮らなくていいので。それは長編になっても大事なんじゃないかと思ったりしています。(うまく出来てるかはわかりませんが)
―長編映画を作られる気はあるのでしょうか?
「コーンフレーク」という長編映画が完成したばかりです。
今年の秋に新しい長編撮影にクランクインする予定です。
今後はどんどん長編を撮っていきたいと思っています。
―「ミの未来はミ」は、監督の学生時代の体験が元になっているとのことですが、監督にとって当時、形見と思えたものは何だったでしょうか?
学生時代は形見とか考えてなかったです。
それこそ実体験が元にはなってるので、当時も友人達とそんな話をして、形見や死なんてものは遠い遠い先の事だと思っていました。
―今でも学生時代の友達とは仲良くされていますか?
会う機会は大分少なくなりましたが、今でも電話やLINEなんかで連絡は取り合っています。
大抵バカみたいな話をしています。
―櫻井保幸さんのイメージはいかがでしょうか?
柔らかい雰囲気で基本笑顔なんですが、どこか俯瞰的に物事を見ている感じを受けます。
そこにいる櫻井さん自身をも俯瞰して見ていて、
場を盛り上げてくれたりしているイメージです。
頭も良いし、空気も読めるけど、人との距離感を間違わない感じが少しだけ生きるのしんどそうと勝手に思ってます(笑)
憶測なので全然違うかもですが。
息を抜ける場所や人はいるのかなぁと思ったりしています。
でもそんな櫻井さんが魅力的なので、現場では甘えまくりで、普段はあんまり深い話をせず基本雑談ばかりしてます(笑)
今後もまた映画を一緒にやりたいなと思っています。
―「真夜中モラトリアム」はタイムカプセルを探しに行く話ですが、監督ご自身はタイムカプセルを埋められたことはありますか?あるならば、その時に何を埋められましたか?
埋めたのですが、結局、何を埋めたのか忘れてしまいました。
大人になって掘り起こしに行ったのですが、場所がわからずに結局出てこなかったです。
映画で現実の続きをしたかったのです。
―「そしてまた私たちはのぼってゆく」は幽霊に会う話ですが、監督ご自身は幽霊に会ったことはありますか?
あります。幽霊かどうかは分からないですが、小学生の時に正夢みたいな不思議な体験をしました。
詳しくは櫻井保幸さんのラジオ(櫻井保幸のラヂオ【今日は雨、明日の雷】https://youtu.be/Bs3AnZw133c)で喋ってるので聞いてください。
―「予定は未定」は未婚の女性の話ですが、未婚の女性に何かイメージはありますか?
既婚、未婚で特別に何か思うっていう事はないですが、この場面でこの台詞、行動は明らかにおかしいですかね?って役者さんには聞いてます。
異性の事でわからないところをわかったフリして撮ったら変な事になるので。
―「オーバーナイトウォーク」は、深夜に下北沢から新宿まで姉妹が歩く話ですが、監督ご自身は深夜、どこかに友達か恋人と歩かれたことはありますか?
夜の街を歩くのは好きです。
いっぱい人が住んでるのに静まりかえっていて、たまにすれ違う人を観察してはなんでこんな時間に歩いているのか想像したり(お互い様ですが)
タイミングで全く人が見えなくなると、こんなに家が並んでるのに自分しかこの世にいないって感じてちょっとだけ怖くて、角を曲がると新聞配達の人がいたりしてホッとしたりするの変な高揚感があったりします。
大阪在住なので仕事で東京に来ていた時、下北沢で終電を逃して宿も取ってなかったのでここから新宿まで歩いてみようと1人で歩きました。
途中でスマホの電源も切れて、迷子になったり公園で休憩したりしながら朝に新宿に着きました。
このルートをそのまま映画にしようと思いました。
あと、子供の頃ボーイスカウトに入っていて京都から大阪まで歩いたことがあります。50キロくらいありました。
―屋敷紘子さんのイメージをお聞かせください。
「コントロール・オブ・バイオレンス」(石原貴洋監督)に制作部で参加していた時に屋敷さんに出会いました。
屋敷さんはアクションが凄くて、気さくで良い人で年齢も近い事があってか、休憩中もよくお話させて頂きました。
自分もいつか映画を撮りたいと言ったら、その時は出るよと言ってくれて、数年後本当に出演してくれたので感謝しています。
「予定は未定」「オーバーナイトウォーク」は生意気にもアクション以外の屋敷さんの魅力を引き出すぞと撮った映画です。
―今後の予定をお聞かせください。
アップリンク吉祥寺でお待ちしております。
もし映画気に入ってくれたら、「コーンフレーク」という長編も最近完成したので機会があったらそちらも見てください。
あとは今年の秋頃に長編を撮影する予定です。
「ミは未来のミ 」予告編
あらすじ
高三の上村拓也は秋になっても進路を決めかね、焦りを感じながらもダラダラと過ごしていた。ある日、仲良しグループの親友・高木が交通事故に遭う。上村は皆で交わした約束を果たすために仲間を集める。
『ミは未来のミ』櫻井保幸さんへ質問
―最初に脚本を読んだ時の印象はいかがだったでしょうか?
僕の好きな世界だと思いました。読みながら自分の青春時代を回顧してみたりして、懐かしさもあったり、僕にもこんな人が居たらなと思ったりして、読みながらも頭に映像が浮かんできて楽しかったです。淡く、丁寧に人物や人間関係が描かれていると感じたことを覚えています。この世界で生きてみたいと率直に思えました。
―「ミは未来のミ」の中で形見が出てきますが、櫻井さんにとって、今の形見は何でしょうか?そして、その理由は何ですか?
いま現在、形見と呼べるものは正直ありません。「ミは未来のミ」で拓也として生きて、形見というものの存在や重みを考えさせられました。僕は昔から物より思い出を重視していて、物に対する思いより、形として残らずとも自分自身の中に残るものに対する思いの方が圧倒的に強いと思っています。なので、いま、しっかりとその物に深い思いを込めて大事にできるような形見と呼べるものはありませんが、これから生きていく上で様々な別れを経験せざるを得ないと思うので、将来的には形見と呼べる、死ぬまで大事に持っておきたい物は、手に入れたいなと思っています。
―高校3年生が主役の映画ですが、櫻井さんが高校3年生の頃は、どんな学生でしたか?
進学校に通っていたので基本的には大学受験の為の勉強の毎日でした。最終的に志望校に合格できたので、真面目に勉強する学生だったんだと思います。でも休み時間や放課後には、クラスの友達と遅くまで喋ったりトランプして遊んだりしていて、拓也と重なる面もありました。
―撮影秘話はありますか?
磯部監督が大阪在住であり、低予算の自主映画の為、撮影時期にしか東京に来られないこともあり、顔合わせやリハーサルもせず現場入りしました。僕自身は一度監督と会ってお話する機会を設けてもらっていたのですが、他キャストの皆さんとは当日に会って芝居を作っていく現場でしたので、緊張感がありました。撮影初日のシーンには3時間くらいかけて撮影していました。監督が丁寧に現場の空気をつくることに時間をかけているんだなと感じました。そのおかげもあってか、各々が現場での関係を大事にしようとする意識が高まっていたように思います。スタッフ、キャスト、全員で作品をつくることに集中して取り組めていて、最後までとても充実した現場でした。
―磯部鉄平監督の印象をお聞かせください。
基本的に笑顔でよく笑うので、気さくな優しい人に見えるのですが、自身の頭や心の中には、とてつもなく深いものがあるように感じました。それが磯部鉄平監督映画に現れているように思います。一筋縄ではいかない人です。人柄を知りたいと思える人が僕は好きなので、今後もっと監督の中にある世界を知り、また監督の作る世界に存在できたらいいなと思っています。
―「ミは未来のミ」に託されたメッセージは、何だと思われますか?
映画は観てもらって初めて完成する、と言われるように、御覧いただいた皆さんそれぞれ感じたものや残ったものを大事にしてほしいと思っているので、一出演者の僕自身が、伝えたいメッセージはこうです!と言ってしまうのはあまり好まないのですが、皆さんがこれまで生きてきたこと、これからを生きていくこと、自分のこと、他人のこと、それぞれをしっかりと思う、その気持ちの大切さを、この映画を観て感じてもらえたら嬉しいです。
―今後の出演作に関して教えてください。
現在、「ミは未来のミ」と一緒にSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019にノミネートされていた、壷井濯監督「サクリファイス」が横浜シネマリン他で全国順次公開されています。他の出演作品も今後どんどん公開されていきますので、詳しくはSNSやオフィシャルサイトをチェックしていただけたら幸いです。
『予定は未定』『オーバーナイトウォーク』屋敷紘子さんへ質問
―最初に『予定は未定』の脚本を読んだ時の印象はいかがでしたでしょうか?
磯部監督には事前に私自身のエピソードなども話してありましたので、最終的にはそういったことも盛り込まれた、等身大の私に近い脚本だな、と主人公に対して親近感を感じましたね。永井さんと磯部さんの描く人物にはいつも共感度が高いですね……何故ごりごりの男性に女性の心がこんなに分かるのか、いつも不思議ではありますが(笑)
―「予定は未定」では婚姻届けが紙飛行機で飛んで来ますが、実際に婚姻届けを出されたことはありますか?
出すつもりで手元に置いてあったものを……結局書かず出さずで捨てたことはあります(苦笑)。まぁ長めに生きていると色々有りますし(笑)。今となっては良い想い出……ということにしておきたいと思います!
―映画の中でお見合いをするシーンがありますが、屋敷さんご自身、お見合いをされたことはありますか?もしされていたら、その時の印象はいかがでしたか?もし、お見合いをされていなければ、お見合いをしてみたいと思われますか?
今のところお見合いの経験も、今流行りのマッチングアプリ的なものも使った経験はないんですが、私の両親がお見合い結婚らしく、結婚から40年以上経った今でも凄く仲良しなんです。なので「お見合い」に対してネガティブなイメージは全く無いですね。むしろもっと前に一度位経験しておきたかった位です(笑)
―映画の中で走るシーンが印象的ですが、走るシーンはいかがでしたか?
私は画を考えながらカメラと並走することだけを意識していれば良かったですが、連日38度越えの猛暑の大阪でカメラを抱えて走る撮影監督と、一緒に並走していた磯部監督の方が私の数倍辛かったと思います。
―撮影中印象的だったことはありますか?
磯部監督は撮影中、俳優から自然発生的に生まれた反応を見逃さず、アイデアとしてどんどんその後のシーンに取り込んでいく監督です。なので深夜まで撮影があったにも関わらず、翌朝4時頃監督自らが書き換えた新しい台本が届いてることがしょっちゅうで……磯部監督の映画創りへの信念と誠実さを日々感じてました。あとは、どんどん本が変わっていくので役者は準備が出来ず(苦笑)日に日に新鮮に……というか、無防備な精神で現場にいくことになります(笑)。それが磯部監督の策略なんだろうな……と、最近気付きました。
―この映画に託されたメッセージは何だと思われますか?
人は比べながら生きてしまう生き物だと思っています。それは社会が勝手に押し付けて来る“年齢への相応しさ”だったり、“幸せそうに見える他人”だったり、“理想の自分像”だったり。そんな形も正確性もない何かと実際の自分を比べて、一喜一憂することもある。それはある程度仕方のないことなのかも知れないけど、そんなことに囚われ過ぎず、たった一歩踏みだすだけで景色は大きく変わるんだと。悩める、特に女性達の背中を押してくれる作品だと思います。
―磯部鉄平監督の印象をお聞かせください。
石原貴洋監督の「コントロール・オブ・バイオレンス」という作品で出逢ったので、勝手に男臭い映画を撮る方なんだと想像していたら実際全く違って驚きました(笑)。磯部監督は生きた呼吸やその場の空気や光そのものを丁寧に丁寧に紡いでいく監督です。清々しい青春も撮れば、どこかフェミニンな画も撮ってしまう。そして人間を繊細に観察しているからこそ、撮影でのOKラインは凄く厳しい(苦笑)。でも必ず役者に寄り添ってくれる監督です。
続けて『オーバーナイトウォーク』の質問
―最初に脚本を読んだ時の印象はいかがだったでしょうか?
磯部監督も以前仰っていたことがありますが、私もリチャード・リンクレイター監督の「ビフォア・サンセット」といった会話で繋がれていく作品は大好きなので、今回の脚本も初見で大好きでした。大阪出身の姉妹、という設定も凄く好きでしたね。
―「オーバーナイトウォーク」は下北沢から新宿まで夜中から明け方まで姉妹が歩く物語ですが、屋敷さんご自身、夜中から、何処かに歩かれたことはありますか?
それはもう数えきれない程あります……その殆どがお酒を呑んでた為に終電を逃して……という、どうしようもない理由ですが(苦笑)。凄く自分の中で解決仕切れないことが起きた時に、ただただ冷静になりたくて凄く遠くまで歩きに出掛けることもあります。あとは、ロンドン留学中にはよくバックパッカーでヨーロッパのあちこちを一人旅で回っていたのですが、隣国行の夜行バスを逃して泊まるお金も無く、プラハの街を夜中ひたすら歩き回ったり、道を間違えて羊しかいないスコットランドの山を歩いたり……人生色々歩いてますね(笑)。
―「オーバーナイトウォーク」の妹は映画でヌードのオファーを受けますが、屋敷さんご自身がヌードのオファーを受けたら引き受けられますか?
ストーリーの中で必然性があれば、ヌードのオファーも快く引き受けますね。
―作品に託されたメッセージは何だと思われますか?
人生は日々細かな選択の連続です。そうして生きているのに、その人にとって少し大きな選択を突き付けられると、何故か人は途端に自分の選択に自身が持てなくなります。それでも他人の意見に惑わされることなく、最後の最後は自ら決められる勇気を持ったり、感じて頂ければと思います。もし後悔する結果になったとしても、その時少しだけ後悔すれば良いんですよ(笑)。血を分けた兄弟・姉妹というのは、親とも友達とも先輩後輩どれとも違う特別さがあると思います。東京らしい名所もほぼ出て来ませんが、この作品を見て深呼吸した気分になって頂けたら嬉しいです。
―「オーバーナイトウォーク」に出演されて苦労されたところはどこですか?
苦労という苦労ではないのですが、もともと10月に撮る予定だったのが全日程雨に見舞われ殆ど撮れず、主に11月に撮ったんです。なので、秋予定の衣裳のまま11月の既にかなり寒い時期の夜中撮影が続いた為、めちゃくちゃ寒かったんです。でも気候ばかりはどうしようもないので、磯部監督にひたすら「寒い!」って解決しようのない文句を言わせて頂いてました(笑)。
―今後の出演作の予定を教えてください。
公開待機作品はあるのですが、まだ情報解禁になっていないので楽しみに待って頂けたら嬉しいです。最近、裏方、特に映画ライターなどの仕事が多くなっていたのですが、また少しずつ勉強して成長して、演者としても進化していきたいと思っています。
『オーバーナイトウォーク』予告編
あらすじ
さくらは27歳の売れない女優。ヌードのオファーを受けるかどうか悩んでいた。そんな時、さくらの姉百合子がいきなり東京に訪ねてくる。故郷を捨てた妹と故郷を離れなかった姉。姉妹2人きりの下北沢から新宿まで夜中の散歩がはじまった。
配給:株式会社アルミード