娘たちを10代で絵師デビューさせた国芳

この二人、芳鳥と芳女を、国芳はなんと10代前半でデビューさせている。

改革が終わって再び華やかな美人画が浮世絵の人気ジャンルになった頃、国芳のキャリアとしては後期に当たる、ダジャレを効かせた「山海愛度図会(さんかいめでたずえ)」シリーズには、美人の背景のコマ状の枠内に、絵のテーマと関係があるのかないのかよく分からない風景画が描きこまれているのだが、この風景画のいくつかが、二人の娘の作品なのだ。年齢は芳鳥が14歳、妹の芳女に至っては11歳だったはずだ。

画像: 山海愛度図絵 親たちにあひたい 嘉永5年 コマ絵は次女・芳女、当時11才で、署名もちゃんと書かれている 太田記念美術館蔵

山海愛度図絵 親たちにあひたい 嘉永5年 コマ絵は次女・芳女、当時11才で、署名もちゃんと書かれている
太田記念美術館蔵

また姉の芳鳥は単独で絵師としてデビューし、弱冠18歳で読み本の挿絵などでも父親譲りのダイナミックなタッチを見せている。

画像: 歌川芳鳥 『蝦夷錦源氏直垂』仮名垣魯文作 安政3(1856)年 個人蔵

歌川芳鳥 『蝦夷錦源氏直垂』仮名垣魯文作 安政3(1856)年
個人蔵

だが芳鳥の作品と確認できるのはこの翌年、19歳で父の国芳の「忠臣蔵』の連作に妹と共に装飾画の部分を担当したのが最後で、その後の消息はよく分からない。結婚して絵師を辞めたとも、流行病で亡くなったとも言われる。

この頃には国芳は今で言う脳卒中を患って手の自由を失っていたせいか、人物画に過去のダイナミックさが見られず線が硬いのもまた、残念なことだ。

画像: 歌川国芳・芳鳥 誠忠義臣名々鏡 板垣伝蔵 安政4(1857)年 上の装飾部分が芳鳥の筆 「よし鳥女」の署名がある 個人蔵

歌川国芳・芳鳥 誠忠義臣名々鏡 板垣伝蔵 安政4(1857)年 上の装飾部分が芳鳥の筆 「よし鳥女」の署名がある
個人蔵

これが日本史で言うと「安政の大獄」があったりした頃の作品だ。この11年後に江戸時代は終わるのだが、「幕末の激動」ばかりが注目される一方で、こんなに成熟して自由闊達で若い女性も活躍した、豊かな文化が日本にはあり、それも徹底して庶民文化だった。明治の時代に、日本は国をあげての「西洋かぶれ」の時代に突入するわけだが、その日本が目標にした西洋では考えられないほど高度な大衆文化があったのだ。

今になって国芳が再び人気の絵師として返り咲いているのは、「西洋に追いつけ」の時代が終わって、我々日本人が本当に自分たちがおもしろい、楽しい、自然に美しいと思える感性を取り戻しつつあるから中も知れない。

いやそんな理屈は抜きでも、国芳の絵はとにかくおもしろい。あちこちに工夫があって奇抜で自由で、ポップでエキサイティング、そして今回の展覧会は、そのダイナミックさおもしろさの裏に、国芳のやさしさが潜んでいることを、確認させてくれる。そんなやさしさこそが、時に「やり過ぎ感」にも見えるほどの彼の絵のサービス精神にも関わっているのかも知れない。

展覧会概要

会期:2019年10月4日(金)~10月27日(日)
開館時間:10時30分~17時30分 (入館は17時まで)
休館日:月曜日(10月14日は開館)、10月15日
観覧料:一般700円 
大学・高校生500円
中学生以下無料
お問い合わせ 03-5777-8600 (ハローダイヤル)

太田記念美術館 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-10-10 TEL:03-3403-0880
JR山手線:原宿駅表参道口より徒歩5分
(表参道を青山方向へ進みソフトバンクの先の路地を左折)
東京メトロ千代田線/副都心線:明治神宮前駅5番出口より徒歩3分
(表参道を原宿駅方向へ進み千疋屋の先の路地を右折)

太田記念美術館「歌川国芳 父の画業と娘たち」cinefil チケットプレゼント

下記の必要事項、をご記入の上、「歌川国芳 父の画業と娘たち」 cinefil チケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、ご本人様名記名の招待券をお送りいたします。
記名ご本人様のみ有効の、この招待券は、非売品です。
転売業者などに入手されるのを防止するため、ご入場時他に当選者名簿との照会で、公的身分証明書でのご本人確認をお願いすることがあります。

☆応募先メールアドレス info@miramiru.tokyo
*応募締め切りは2019年10月22日24:00 火曜日

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