映画『デイアンドナイト』『青の帰り道』など、話題作が続いているクリエイター集団、BABEL LABEL が、オリジナル映画製作プロジェクトを立ち上げました。その名も<BABEL FILM>。
その第1作目となるのが、アップリンク渋谷他全国公開中のオムニバス映画『LAPSE(ラプス)』。
志真健太郎、アベラヒデノブ、HAVIT ART STUDIO、3組の監督陣が未来を自由に想像し、ラプス(= 時の経過)に生きる人間の内面を描いています。
シネフィルでは、全3回にわたって監督、キャストインタビューを敢行。
第 3 回は、『SIN』で監督を務めた志真健太郎さんと、出演者の内田慈さん、手塚とおるさんにお話をお伺いしました。
『LAPSE』公開記念cinefil独占インタビュー❸
『SIN』志真健太郎監督×内田慈×手塚とおる
—「未来」というテーマの中で、志真さんは 2082 年を舞台に、「母親を殺す未来」を予期され た青年が運命に抗う様を描いています。
志真: 人間っていろいろ乗り越えるべきものがあるけど、「自分はこうなってしまう」って既定されちゃうことが一番キツい。それを通して人を描きたくて、「未来を予期する」をテーマとして選んだんです。 あと、現代の設定だと「貧困」とか「差別」ってより直接的な表現になって単純に傷つける人も増えるし、嫌だと思う人もいると思うんです。未来とかいわゆるSF っていう形をとることによって、フィクションのレイヤーが一個上がって自由な表現になる。プロデューサー陣もそれを狙ってたし、うまくいったところかなと思います。
手塚: 僕はオムニバスって言われるような映画に出るのが初めてでした。見事に他の 2 本ともバラバラなテイストだったので、いわゆる未来とかSFっていう括りにしているけれど、こんなに個性が出るのかというくらい、まるで違っていたので面白かったですね。 志真監督の作品でいうと、最後に救いがちゃんとあるじゃないですか。他の2作品はディストピアになるんですけど、救いがあるエンディングにするのは最初から考えていたことなんですか? 志真監督の作品って一番特徴的な落とし方だと思って。ある意味一番勇気のあるエンディングを選んでいるなあと思って観てましたね。
志真: 表現として、最後バッドエンドの方がインパクトが強いと思ったんですよね。その方が受け手にとってネタにしやすいし「なんか残ったわ〜」って思わせられると思ったんですけど。迷った挙句に出てきた結論は、「なんか最後救わなきゃダメでしょう」ってシンプルに思って。すごく僕の中で大きい選択でした。
内田: 観客にとっては、その結末がオムニバス映画としてのラストの印象に繋がりますよね。私は最後に希望が持てる終わり方がすごく好きなんです。
志真: 個人的にはあのラストを決めてから、あの空気感が作れた。そこに向かって作品を作ってたなって純粋に思ってるんですよね。
—主人公・アマ(栁俊太郎)の母親・サリィ役を内田さん、教育施設「エルサ」の白木役を手塚さんが演られていますが、起用の理由を教えていただけますか?
志真: 役者さんは、存在感というか存在が大事だと思っています。演劇でお 2人とも観てて、2人とも雰囲気は分かっていたので、「この映画に存在して欲しい」ってすごく思っていました。2人にお願いできるとは思ってなかったですけど、当て書きに近いかもしれないです。
—オファーを受けた時、台本を読んだ時の感想などを振り返っていただけますか?
内田: 台本を読んだ時は、まず、どうしたらこの作品世界の中で現実感のある生身の身体で存在できるかを考えました。2019 年の現在とは常識や当たり前とされていることが違う部分を、細部まで具体的に明確にイメージしていないといけないと思って監督の頭の中を知りたくて質問ばかりしてしまいましたが、監督はすごく丁寧に時間をかけて返答してくださって。未来と今の現実世界を擦り合わせて共有してくださったから、現場へは空っぽで行けました。
手塚: 僕はものすごく「今」と地続きになっているSFだと思って台本を読んだので、その「今」というものをどの程度踏まえて撮られるのかなっていうことがお聞きしたかった。何を撮りたいのかがちゃんと撮影前にお話が出来て、哲学的な話をしながらものを作れるっていう意味では有意義な時間でしたね。
—アマとサリィ母子が住むトレーラーハウスのイメージはどこから来たんですか?
志真: トレーラーハウスは欧米で低所得の人たちが暮らして いるというイメージがあると思うんですが、今の日本って土地がすごく高いですよね?
将来、移民が入って来たり入管法が改正されて人が増え過ぎたとき、国がスペースを作って、トレーラーハウスやそれに類する簡易住居を敷き詰めたエリアができてくる絵面がありえるなって思って撮ってました。
—あとは小道具。携帯電話とか未来の見えるVRとか時計とか、ああいうイメージは考えるのは楽しかったですか?
志真: 予算の限界がある中での工夫はすごく楽しめましたね。どうやったら僕も納得できる、見てる人も納得できるクオリティになるかみたいな。色んな SF のイメージが作られている中で、ロケ地の選び方もそうですけど、「説得力」を持つまでの過程は大変でした(笑)。
一個でも気が抜けたら冷めるんで、かなり気を使いましたね。アマが 5 歳の時、内田さんは耳にイヤーカフ型の電話を付けている。20 歳になっていくと腕につける電話になっている。全部年表を作って設定を考えましたね。
—予告編でも内田さんが殺されてしまうシーンが一番強烈に目に焼きつきます。アマの目線で一 人称で撮られてて、怖くて仕方がなかったです。
志真: 栁くんが演じるアマの主観のカットは、 iPhone で撮ってるんですよ。俳優がお芝居する顔の前にカメラを手で置いて、栁くんの芝居を見ながらうつむく時はうつむかせて。iPhone にハンドルをつけて持てるようにして、かなり面白い撮影でしたね。 ただ、その相手をする内田さんは感情を作りづらかったと思います。自分の頭で補完できる俳優さんじゃないとキツいですよね。微妙にズレたところに相手がいるっていう。
内田: 栁くんとカメラマンさんが、二人で一人で、すごく妙な体験ができました。私が刺される直前に主観を撮るカメラではなく、栁くんを見ちゃうということがあって時間がかかりました。
手塚: やっぱり小型化した故のディテールが、未来感に繋がっているなあと思いましたね。
3 作品共通してるのは距離感がやっぱり近いですよね。テクノロジーの面で今、カメラは持ちやすいし小さいし、携帯にまで入ってて、距離感が近いじゃないですか。昔だったら、アップは照明を当てなきゃいけない理由で近付けなかったし、寄りが必要だったらズームすれば良いと思っていたけど、今どんどん近づくことも可能になっている。
内田: 10代の子とかと接する機会が仕事上あると、そこに恐怖感がないというか、ある意味もう受け入れているというか。私はカメラで自撮りをネットに上げるとかって、照れがあったり、自意識の方が勝ってしまったり、まだまだ距離感がわからないんですが。
手塚: 距離感の近さは多分、僕ら役者の方が違和感はあるけれど、一般の人こそ普通のことになってきている。何十年後にどのぐらいの距離感が普通になっているんだろう。自分の目を通してズームアップができる可能性もある。 距離の近い近未来を描いた時に、わざと引きを入れてるカットやシーンが僕にとってはすごく面白く見れました。
志真: マニアックな話かも知れないですけど、『LAPSE』を観てもらった時に没入感を感じてもら える気がしていています。また距離感の変化を見せようと引いた画を入れたんです。
すごく狭い世界、没入して終わらないように、あえて他の2作品よりも印象的な引きを狙いました。トレーラーハウスのシーンでも俯瞰している画を作ったり。
内田: ミクロを突き詰めたらマクロに繋がってた!というか、私小説が普遍になる感じがとても面白いなと感じました。
志真: でも単純にレンズとの人との距離感に、また距離を与えるのが役者さんの力だなって思うんですよね。だから、確かに素人の方がナチュラルに出来るかもしれないけどそのナチュラルが良いわけでもないし。お二人は本当にフルフィギュアで撮りたくなる俳優さんっていうか、身体性とか一つの動きにも意味を感じて、編集してて本当に楽しいんですよね。そういうカメラの距離にまた意味を一個足せる実力がある二人とできて、本当に有り難かったです。
『SIN』監督・脚本 志真健太郎
映画監督・演出家。1986 年生まれ、千葉県出身。制作会社勤務を経て、2010 年に自主映画を 製作してきた藤井道人と BABEL LABEL を立ち上げ。
映画、MV・ライブ映像、ドキュメンタリー、舞台演出と、多方面で活躍。
ドキュメンタリック な演出やユニークな企画力が評価を受け、又吉直樹 企画・構成のソニーAROMASTIC「元、落語家 ~話が下手な元噺家のハナシ~」 (17)、サントリー烏龍茶「新・竜兵会の掟」(18)、 CONVERSE「ゾンビコンバース」(18)、Y! mobile「恋のはじまりは放課後のチャイムから」(18) など話題の CM・Web 動画を手がける。
現在、オリジナルの長編映画を企画している。
内田慈
1983 年生まれ、神奈川県出身。「ぐるりのこと。」(08/橋口亮輔 監督)で映画デビュー。
主な出演作に「ロストパラダイス・イン・トーキョー」(10/白石和彌監督)、「きみはいい子」 (15/呉美保監督)、「恋人たち」(15/橋口亮輔監督)、「下衆の愛」(16/内田英治監督)、 「神と人との間」(18/内田英治監督)、「ピンカートンに会いにいく」主演(18/坂下雄一郎監督)、「響-HIBIKI-」(18/月川翔監督)などがある。
手塚とおる
1962 年生まれ、北海道出身。1983 年、作・唐十郎、演出・蜷川幸雄の「黒いチューリップ」で 舞台デビュー。
主な出演作にドラマ「半沢直樹」(13/TBS)、「太鼓持ちの達人~正しい×× のほめ方~」(15・主演/テレビ東京)。映画「ラブ&ポップ」(98/庵野秀明監督)、「蛇イチゴ」(03/西川美和監督)、「シン・ゴジラ」(16/庵野秀明総監督、樋口真嗣監督)、「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(17/廣木隆一監督)がある。
映画『LAPSEラプス』予告編
志真健太郎 監督・脚本 『SIN』
出演:栁俊太郎、内田慈、比嘉梨乃、 平岡亮、林田麻里、手塚とおる
アベラヒデノブ 監督・脚本 『失敗人間ヒトシジュニア』
出演:アベラヒデノブ、中村ゆりか、清水くるみ、ねお、信江勇、根岸拓哉、深水元基
HAVIT ART STUDIO 監督・脚本 『リンデン・バウム・ダンス』
出演:SUMIRE、小川あん
監督:志真健太郎、アベラヒデノブ、HAVIT ART STUDIO
主題歌:SALU『LIGHTS』
撮影:石塚将巳/佐藤匡/大橋尚広
照明:水瀬貴寛
美術:遠藤信弥
録音:吉方淳二
音楽:岩本裕司/河合里美
助監督:滑川将人
衣装:安本侑史
ヘアメイク:白銀一太/細野裕之/中島彩花
プロデューサー:山田久人、藤井道人
製作:BABEL LABEL
配給:アークエンタテインメント