役者の特質の活かし方、組み合わせの妙
根岸
役者の力も大きい。スクリューボール・コメディって、それなりの役者がいないと成立しないよね。今回、成田凌くんはそれができる人だと分かったのは大きな収穫でした。『婚前特急』のハマケンもこちら側で丹念に練り込んだ変化球に上手くはまったと思う。自分に滅茶苦茶自信がある風じゃないですか。あれがいい。
高田
ハマケンさんの人から好かれる明るい資質というか。見た目ともすごくマッチした(笑)。
前田
タナシは自分をダメだと思っていないからダメじゃないんですよね(笑)。本人もタフでスター性がある。それに根が爽やかなんです。
根岸
確信を持っている感じの面白さ。やっぱりミュージシャン、アーティストなんだよね。そういう魅力が本人の中にある。だから演技が深めな感じの芝居をやる人だと、嫌味な感じになって見ていられない可能性もあった。「俺って芝居上手いでしょ?」みたいになると、俄然面白くなくなるよね。
高田
チエの家に泊めてもらって、勝手に売り払ったCDのお金で平然とチャーハンを作っている。「何で私のCD盗んだんだよ」とチエに詰問されると「でも、チャーハン作ったの俺だよ?少しでも感謝の気持ちを表したかったんだよ」「俺だって大金持ちだったら何でもしてあげるよ」と開き直る。ああいう屁理屈でいまでもスクリューボールが成り立つことを何とかしてやろうとするんですが、こちらが勝手に理屈ばかり書いていても、それが俳優さんとマッチしていないとなかなかパワーにならない。監督の資質もあるだろうし。
前田
先程話したスクリューボールの対等感じゃないですけど、同じくらいのパワーがぶつかり合わないといけない。どちらかが負けてしまうと、曲芸として成り立たない。
高田
そうだね。一人が強すぎても面白味にならない。
前田
しかも世間に求められているわけじゃない(笑)。求められていないものを必死に闘ってつくっているという。
根岸
確かに、吉高さんとハマケンっていうのは非常に面白い組み合わせだったよね。身長もほぼ一緒だし、吉高さん自身がチエを演じていくなかで「絶対にタナシみたいな男とは付き合わないぞ」というのが剥き出しになってたもんね。にもかかわらず、そういう展開になっていく不条理に対して啞然としていく感じが、ほんのりと表情にも滲み出ていて(笑)。
前田
おそらく、演じている方は何が面白いのかさっぱり分からなかったと思うんです。つねに怒って空回りして、それを持続させなければいけないわけですから、大変じゃないですか。
根岸
前田監督は、舞台挨拶のときによく吉高さんから「ヒドい人なんですよ、この人は」って、散々言われてたもんね(笑)。一方でハマケンとは楽しそうにやっている。
前田
いや、そういう気分になってくると思いますよ。「私はこんな状態なのに、向こうは優雅に」と。ハマケンさんのタナシはそういう役じゃないですか。
高田
日々を楽しんでる人だからね、タナシは。
前田
そうそう。タナシにはそういう所がある。監督側はそれをどう撮るかっていうのがあるから、演じている側はキツイんですよ。「こんなに怒っている人を見て楽しいんですか?」みたいな感じだから(笑)。
高田
すり減るよね。それは書いている方もそうなのよ。
前田
本人は本気だから。『まときみ』だって、香住はずっと負け試合ですからね。つねに大野に負けている。それでスナックで大暴れして、同級生に諭される。もうボロボロ(笑)。
高田
前田くんはそれを見て楽しんでいるわけだからね(笑)。
前田
だから、コメディはおそらく冷淡じゃないとできないと思うんです。感情的になったりとかではなく、同情してしまうとできない。可哀想ですもん。近寄り過ぎると悲劇になってしまう。
根岸
役者とはあまり現場で仲良くなれない。演出的には少しだけ距離を置いたほうが良いんだろうね。
前田
コメディの種類にもよるかもしれませんね。オフビート・コメディだったら全然近いでしょうけど、我々はバトルでしょ?
高田
むしろ俺がこの脚本を自分で監督していたら、絶対にそういう風にはできないと思う。やっぱり主人公に同情しつつ、自分も感情的に同調して書いているから、前田くんのように冷たい目では見られないと思うな。
前田
いや、冷たい目で見てるわけじゃないけど(笑)。
根岸
冷たくはないけど、冷淡に距離を置いたほうが上手く演出できるということでしょうね。『婚前特急』では吉高さんに確かに冷淡ではあったけど、役を組み立てていく戦略の上では実に正しかったわけで。
前田
大変だと思います。ずっと怒りを維持して、その次のシーンでもまた怒っていて、それで撮っている僕が笑っているわけでしょ?「何だこいつ!」って思いますよ。
根岸
「私のこと嫌いなのかしら」って思ってたらしいから(笑)。