エロコメの逆襲、ファレリー兄弟の衝撃
前田
僕が大きかったのは、ファレリー兄弟以降にまたきたなと。
根岸
『ジム・キャリーはMr.ダマー』(94)!
前田
ファレリー兄弟は一番大きいと思う。ちょっとスクリューボール・コメディっぽいじゃないですか。それこそ本当に変な(笑)。
根岸
ちなみにお二人にとってファレリー兄弟でこれはという作品は何ですか?
前田
僕は『ふたりにクギづけ』(03)が好きですね。他にも『ホール・パス 帰ってきた夢の独身生活〈1週間限定〉』(11)とか、いくつか面白いんですけど。
高田
僕もやっぱり『ふたりにクギづけ』ですね。かなりいい感じにできている。
前田
『メリーに首ったけ』(98)も急に殺人犯が出てきたりするじゃないですか(笑)。「なんだこのシーン⁉︎」となるぐらい、一回パーンって振って。
根岸
ファレリー兄弟によって「下品上等、滅茶苦茶やっちゃっていいんだ」とタガが外れて、振り切った感がありますよね。
高田
それ以前はラブコメでもそこまで激しいギャグはなくて、わりと品良くまとめている。
前田
簡単にいうと、女性が見やすかったところに男性も入りやすくなった面がファレリー兄弟にはあった。
高田
そうそう。エロコメってそうだよね。男性を呼べるラブコメが始まった。
根岸
つまりロマンティック・コメディも少し違うものに変わったということでしょう。
前田
スクリューボール・コメディ自体にも男性が楽しめる感じのゴツゴツした部分があるんですけどね。どちらかというと、ビリー・ワイルダー的なロマンス度が高いものがジャンルを生き延びさせた気がする。
高田
そうそう。それがジュリア・ロバーツまで続いていく伝統だよね。
前田
続いてきたけど、そこがまた変わってきたという感じ。
高田
『ベスト・フレンズ・ウェディング』(97)まで続いていくそうしたロマンティック・コメディ的な伝統がある一方で、ああいうマルクス兄弟やスクリューボール・コメディにあったような激しいギャグが出る滅茶苦茶さは一時期なりを潜めていたんだけど、ファレリー兄弟によって少し復活した感じ(笑)。
根岸
その中継ぎをしてくれたのが、さっき言ったエイミー・ヘッカリングの『初体験/リッジモント・ハイ』なのかな。
前田
ファレリー兄弟以降の監督たちもまた頑張っているじゃないですか。
根岸
「アパトー・ギャング」の人たち。
前田
グレッグ・モットーラとか。役者もウィル・フェレルやジョン・C・ライリーなど面白い人が育ってきてね。
高田
前田監督的にいえば、ウィル・フェレルやスティーヴ・カレルは芸人コメディの系譜になるけど、それがリアリズムの方に傾いていく。ウィル・フェレルも最初のうちはサンタの妖精もやってたけど、段々とニュースのネタをやって、社会と繋がりがあるようなコメディになっていく。だから、世の中と切り離された変人が出てくるっていうより、心理描写も含めて、いま我々が住んでいる世界と地続きなんだという、マイルドな感覚になっていくっていうのかな。