cinefil新連載「神山睦美のサクリファイス」第11回 歴史の天使
歴史の天使
ヴァルター・ベンヤミンというと、ユダヤ人の文学・思想家としてハンナ・アレントにも大きな影響を与えた伝説的人物として知られている。ヒトラーが政権を握ったナチス・ドイツの時代に、その追手からのがれようとして、フランスからスペインへ渡る途次、ピレネー山中の小さな町のホテルで、モルヒネ自殺を図り、48歳の生涯を閉じた。死の直前まで推敲していたのが遺稿となった「歴史の概念について」という20章あまりの断章からなるテーゼだ。
なかで、もっともよく知られているのが、「歴史の天使」と一般にいわれる第9テーゼだ。ベンヤミンは、そこでクレーの「新しい天使」という絵に託して、みずからの歴史観を述べ...