夜の葉~映画をめぐる雑感~
#5『それから』『夜の浜辺でひとり』『正しい日 間違えた日』『クレアのカメラ』 と林芙美子「雷」「著者の言葉」
雷
「あんな男なぞさっぱり忘れることだ」と
そう思ったあくる日のこと
雷が地を叩くようにごろごろ鳴った
硝子窓の蔭で私はしびれるようにちぢかんでいた
雨が霽(は)れて行っているのに
私は犬のようにふるえる
忘れてしまおうと思った男の事を偶(ふ)と考え始めたが
雷のひどい音の下で何時か《しゃっくり》をしたまま
子供のように眠りこけてしまった。
(林芙美子 詩集『面影』より)
いつでも、「私の生活している世界」である。私の生活から去って死ぬ時が来ても、私は、只それだけのものだ。それだけのものとして人間は死んでゆく。平凡な、誰にも知られない死で世の中は満ちている。自然と人間が、愛らしくたわむれ...