これはもはや「映画」ではないのかも知れない〜マーティン・スコセッシ監督最新作『アイリッシュマン』(東京国際映画祭)
冒頭から、スコセッシ演出のトレードマークのひとつの長大な移動ショットで、観客の視点が空間を通り抜けることで映画の世界観を体感する。『グッドフェローズ』では中盤に、『エイジ・オブ・イノセンス』と『カジノ』では映画が始まってまもなくあったのと同じに思える演出が、今回はファースト・ショットだ。
しかし、なにかが違う。『グッドフェローズ』ならレイ・リオッタとロレイン・ブラッコを、『カジノ』なら現金の入ったバッグをダイナミックなキャメラ運動が追っていたのが、今回は静かな病院の廊下を、キャメラはまるで幽霊の歩みのように進む。まだ歩ける老人の入院患者の亡霊のような動き以外に、生身の、活きた運動も、その...