夜の葉~映画をめぐる雑感~
#3 『さよなら、僕のマンハッタン』とトルーマン・カポーティ
「ニューヨーク」
それは神話だ。街も部屋も窓も、そして蒸気の煙を吐きだしている街路も。誰にとっても、いや、すべての人にとっても、それぞれ異なる神話であり、やさしい緑と悪意に満ちた赤をまばたきかわす信号機の目をそなえた偶像の頭である。川面にダイヤモンドの氷山のように浮かぶこの島を、ニューヨークと呼ぼうがなんと呼ぼうがかまわない。名前はたいして重要ではない。なぜなら、ほかの現実世界からここに入り込むと、人がひたすら探し求めるものはひとつの街であり、自分を隠し、自分を見失い、自分を発見する街であり、フォードが行き交う玄関前の階段に腰を下ろして考えていたように、ひとつの街を探し求めようと計画したとき考えていたよう...