レンブラントとともに、17世紀オランダを代表する画家ヨハネス・フェルメール(1632-1675)。 フェルメールが描く日常生活の情景は、静謐な空間に包まれた独自の世界です。
日本では、2000年の「日蘭交流400年記念特別展覧会 フェルメールとその時代」、2012年の「マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝」、2018年の「フェルメール展」、2022年の「ドレスデン国立古典絵画館 フェルメールと17世紀オランダ絵画」などが大盛況となり、フェルメールブームの到来となりました。 日本人が惹きつけられるフェルメール作品の魅力は何なのでしょうか?
このたび、大阪中之島美術館にて、2026年8月21日~9月27日まで「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展」が開催されています。
《真珠の耳飾りの少女》は、オランダ・ハーグのマウリッツハイス美術館が誇る、世界屈指の名画で、門外不出の珠玉作品です。今回の来日はマウリッツハイス美術館の改修工事による臨時休館に伴い実現することになった奇跡の出会いです。
本展では、ヨハネス・フェルメール《真珠の耳飾りの少女》、《ディアナとニンフたち》を始めとするマウリッツハイス美術館所蔵12作品の展示がなされ、17世紀オランダの名画に出会う、またとない機会となっています。
会場での鑑賞は、大盛況のため難しい状況ですが、この記事で展覧会のいくつかの作品をご覧頂くことによりフェルメールの魅力とオランダ絵画の名品を味わっていただければ幸いです。
フェルメールROOM

ヨハネス・フェルメール《真珠の耳飾りの少女》1665年頃 油彩/カンヴァス 44.5×39cm マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague
私たちはなぜこんなにもフェルメールが描く《真珠の耳飾りの少女》に魅了されるのでしょうか?
今回の来日で4回目となる《真珠の耳飾りの少女》は、2012年の「マウリッツハイス王立美術館展」以来、14年ぶりの来日となります。
最初の日本での展覧会は、42年前の1984年の「マウリッツハイス王立美術館展」で、その時は実は、最初の日本語タイトルは、《青いターバンの少女》だったのです。
その後、1999年にアメリカのトレイシー・シュヴァリエの小説『真珠の耳飾りの少女』が発表され、2003年には映画化され、世界的に注目されるようになりました。
それに合わせてフェルメールの作品も《真珠の耳飾りの少女》にタイトルが変更されたのです。「トローニー」(オランダ語で顔や頭部の習作)として描かれ、特定の誰かを描いた肖像画ではないとされていますが、やはりその少女が誰なのか?振り返ったような視線の先は画家なのか?鑑賞者なのか?興味は尽きません。
そして、この絵の魅力はやはり美しく描かれた画技にあります。「光の画家」としても知られるフェルメールが描いた少女の瞳や、唇、真珠の光は絶妙です。
色彩の美しさも私たちが惹かれる理由のひとつでしょう。青いターバンの色は、貴重なラピスラズリ(ウルトラマリン)を用いて描かれています。
吸い込まれそうなその瞳に、その視線に、真珠の輝きに、きっと魅了されることでしょう。

ヨハネス・フェルメール《ディアナとニンフたち》1653 – 1654年頃
油彩/カンヴァス 97.8 × 104.6 cm マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague
本作はフェルメールが20代前半に制作された作品で、風俗画で名声を得る前の初期の名作です。 中央には古典神話における月の神でもあり、狩猟の神でもあるディアナ、周囲には女神に付き従うニンフ(森の精)たちが森の空き地で穏やかに過ごす様子が描かれています。
真鍮製の水盤や白いタオル、足を洗っている様子が描かれていますが、これらは、純潔を象徴するものです。服装はオランダで当時着用されていた衣装で、赤や青、オレンジ、黄色の鮮やかな色彩で描かれています。神話画であることを知らなければ日常生活の一瞬を切り取った一場面とも見て取れます。これ以降、フェルメールは神話画を描くことはなく、室内風俗画へと転向したようです。
レンブラントの弟子であるニコラス・マースのサインがありましたが、1885年の修復の作業の際にその下から、「JVmeer」という文字が出てきました。
17世紀オランダ絵画の名画を巡る旅

ヤン・ステーン《老いが歌えば若きが笛吹く》1663 – 1665年頃
油彩/カンヴァス 83.8 × 91.9 cm マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague
17世紀オランダ風俗画の代表的画家ヤン・ステーンは、にぎやかな家族の集まりを描くことで知られています。
《老いが歌えば若きが笛吹く》というタイトルは、オランダのことわざで、「親の行動を観て子供は真似をする、悪い習慣は親から子に伝わってしまう」ということで、ユーモアを交えて示しています。音楽や飲酒、喫煙に興じる姿が描かれていますが、バグパイプは放蕩や怠惰の象徴であり、訓戒の意味が込められています。

パウルス・ポッテル《水に映る牛》1648年 油彩/板 43.4×61.3cm マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague
動物画家として知られるパウルス・ポッテルは、28歳という若さでこの世を去りましたが、100点に及ぶ多彩な作品を残しました。牛の表現に優れた才能を発揮し、《牡牛》という作品はルーブル美術館でも展示されました。
日常的にスケッチブックを持ち歩き、細密な観察眼と卓越した画技で動物たちを精緻に描いています。本作では牧草地で憩う牛たちを水面の反映とともに描き、また細部に目をやると、水浴をする男女や、馬車で移動する人々など、当時のオランダの農村生活が映し出され、物語性が込められています。

マリア・ファン・オーステルウェイク《装飾的な壺の花》1670-1675年頃 油彩/カンヴァス 62.0×47.5cm マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague
マリア・ファン・オーステルウェイクは、当時のオランダでは少ない女性画家の一人でした。
牧師の家に生まれ、敬虔なプロテスタントで、絵には信仰や現生の儚さが象徴的に暗示され、宗教的な意味が込められています。本作では神の存在を象徴するヒマワリと、闇に結び付けられるケシ、欲望を表すヴィーナス像(神への服従を示唆)などが描かれています。

レンブラント・ファン・レイン《笑う男》1629-1630年頃 油彩/金箔で覆った銅 15.3 ×12.2 cm マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague
17世紀オランダを代表する画家のひとり、レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン(1606-1669)は、集団肖像画《夜警》をはじめ、数々の傑作を残しました。そして彼は同時に版画家としても史上最大の巨匠と評されています。
レンブラントは、他のオランダの画家とは異なり、風景画に静物画、歴史画など幅広い作品を手がけ、特に肖像画やトローニー(顔や頭部の習作)を数多く残しました。
強い明暗の対比を特徴とする独自の画風を確立し、1630年代にはアムステルダムで肖像画家として名声を博するようになりました。
本作は若き日のレンブラントのトローニーの傑作で、男の豪快な笑いを表現力豊かな筆致で描いています。

エマヌエル・デ・ウィッテ《想像のカトリック聖堂の内部》1668年 油彩/カンヴァス110.0×85.0cm マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague
エマヌエル・デ・ウィッテは17世紀オランダを代表する建築画家で、教会内部を描いた作品によって高く評価されています。ロッテルダムやデルフトを経て1651年にアムステルダムに移住し、実在又は想像上の教会内景画に専心しました。写実的表現と豊かな想像力を融合させた作風で、オランダ教会内景画の革新者の一人と見なされています。
本作は完全な空想上のカトリック教会を描いたもので、壮大な建築や光の効果、教会内の人物描写が優れています。
大型スクリーンでフェルメールの名画の「光」に包まれる映像体験
会場では、20メートルにもおよぶ大型スクリーンで、フェルメールの生涯と描いたモティーフを全作品で辿ることができます。世界中に点在するフェルメールの全作品が、実際の比率に基づいて集結するほか、通常では見ることができない拡大投影で《真珠の耳飾りの少女》の魅力に迫るなど、デジタルならではの迫力ある展示体験をしていただけます。
是非、この機会にフェルメール名画の「光」に包まれてみてください。

マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague
オランダ・ハーグにあるマウリッツハイス美術館は、主に17世紀のオランダ・フランドル絵画の優れたコレクションで知られています。所蔵作品には、フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》、《ディアナとニンフたち》、《デルフトの眺望》の3作品のほか、レンブラントの《ニコラース・テュルプ博士の解剖学講義》をはじめ、ルーベンス、フランス・ハルス、ヤン・ステーンなど著名な画家の傑作が含まれています。
マウリッツハイス美術館公式HP:https://www.mauritshuis.nl/jp
展覧会概要
会期 2026年8月21日(金)– 9月27日(日)
開場時間 午前9時30分 – 午後5時 (入場は午後4時30分まで)
*金曜日、9月6日、9月8日、9月12日 – 9月16日、9月19日 – 9月27日は午後8時まで(入場は午後7時30分まで)
会場 大阪中之島美術館 5階展示室
本展は日時指定制です。
大阪市総合コールセンター TEL:06-4301-7285 受付時間 8:00-21:00(年中無休)
詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。
https://vermeer2026.exhibit.jp


