先日閉幕した2025年大阪・関西万博では会場デザインプロデューサーを務めるなど、いま、最も注目される日本の建築家の一人である藤本壮介の初の大規模個展「藤本壮介の建築:原初・未来・森」が六本木の森美術館において2025年11月9日(日)まで開催されています。

無名の新人建築家であった藤本壮介(1971年、北海道生まれ)は、2000年の《青森県立美術館設計競技案》で建築家・伊東豊雄らから高い評価を受け、2位に選出されたことで一躍注目を浴びました。以降、「書物の森」をテーマに渦を描くように書架が並ぶ《武蔵野美術大学美術館・図書館》、白いスチールパイプを立体格子状に組み上げた《サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013》、樹木の枝葉のようにバルコニーが広がる集合住宅《ラルブル・ブラン(白い樹)》、そして公園の緑と一体となり自然と建築の境界を溶かす《ハンガリー音楽の家》など、国内外で話題作を次々に発表してきました。
現在も、《仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設》(2031年竣工予定、宮城)をはじめ、ヨーロッパ各地での都市複合プロジェクトなど多数の計画が進行中です。
今展では、デビュー期から現在に至る約30年の創作の軌跡を、8つのセクション構成で網羅的に紹介します。

展覧会はセクション1《思考の森》から始まります。300平米を超える広大な空間を用いた大型インスタレーションで、藤本の活動初期から現在計画中のものまで、100を超えるプロジェクトの模型や素材、スケッチ、アイデアの断片が一堂に展示されています。

画像1: 展示風景:セクション1《思考の森》 photo©︎moichisaito

展示風景:セクション1《思考の森》
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画像2: 展示風景:セクション1《思考の森》 photo©︎moichisaito

展示風景:セクション1《思考の森》
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セクション2は建築史家・倉方俊輔監修の下で制作された、藤本の活動の軌跡を総覧する年表《軌跡の森—年表》です。1994年の東京大学卒業以降から、今後竣工を予定しているものまで、藤本による全96のプロジェクトを収録しています。あわせて、同時期に竣工した国内および日本人建築家による主要作品、さらにその背景となる国内外の建築界や社会の動向も掲載しています。
各時代において藤本が何を重視していたのかがうかがえる自身の言葉に加え、作品写真のスライドショーやインタビュー映像も展示。藤本建築を時代の流れとともに読み解く試みとなっています。

画像: 展示風景:セクション2《軌跡の森—年表》 photo©︎moichisaito

展示風景:セクション2《軌跡の森—年表》
photo©︎moichisaito

セクション3は間(あわい)をコンセプトとするブックラウンジ《あわいの図書室》。ブックディレクターの幅允孝が藤本建築から着想を得た5つのテーマ「森 自然と都市」「混沌と秩序」「大地の記憶」「重なり合う声」「未完の風景」により選んだ書籍40冊が1冊ずつ椅子に置かれ、椅子には本から抜粋された言葉が散りばめられます。大きな窓から藤本が森のようだと評する都市風景を眺めながら休憩したりと、「本を読む/読まない」の「間」の空間を体験できます。

画像: 展示風景:セクション3《あわいの図書室》 photo©︎moichisaito

展示風景:セクション3《あわいの図書室》
photo©︎moichisaito

藤本建築における「人の動き」に焦点を当てたのが、セクション4《ゆらめきの森》です。学生たちが集い、談話し、交流する《エコール・ポリテクニーク・ラーニングセンター》(2023年、フランス、サクレー)、家族が時に離れ時に一緒に過ごす《T house》(2005年、群馬)、子どもたちがあちこちで遊び回り、斜面を登り下りする《UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店》(2020年、神奈川)などの白い模型に、利用者や居住者の動きを示すアニメーションが投影されています。

画像: 展示風景:セクション4《ゆらめきの森》 photo©︎moichisaito

展示風景:セクション4《ゆらめきの森》
photo©︎moichisaito

セクション5《開かれた円環》では、2025年大阪・関西万博のシンボルで世界最大の木造建築物《大屋根リング》(2025年)の5分の1部分模型(高さ4m超)が圧倒します。また構想段階のスケッチや記録写真、リングで使用された日本の伝統的な貫(ぬき)接合技術を紹介するモックアップ、藤本のインタビュー映像などによって、リングを様々な角度から掘り下げています。

画像1: 展示風景:セクション5《開かれた円環》 photo©︎moichisaito

展示風景:セクション5《開かれた円環》
photo©︎moichisaito

画像2: 展示風景:セクション5《開かれた円環》 photo©︎moichisaito

展示風景:セクション5《開かれた円環》
photo©︎moichisaito

セクション6《ぬいぐるみたちの森のざわめき》では、《ラルブル・ブラン(白い樹)》、《太宰府天満宮 仮殿》(2023年、福岡)など、藤本が手がけた9つの建築がぬいぐるみとなり対話をするインスタレーションが展開されます。2つのグループに分かれて話す会話からは、各プロジェクトの特徴やそれらが設計された背景などを知ることができます。

画像: 展示風景:セクション6《ぬいぐるみたちの森のざわめき》 photo©︎moichisaito

展示風景:セクション6《ぬいぐるみたちの森のざわめき》
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画像: 展示風景:セクション7《 たくさんの ひとつの 森》 photo©︎moichisaito

展示風景:セクション7《 たくさんの ひとつの 森》
photo©︎moichisaito

画像: セクション7《 たくさんの ひとつの 森》

セクション7《 たくさんの ひとつの 森》

セクション7《 たくさんの ひとつの 森》では、藤本が2024年にコンペで選出され、基本設計を手掛けている音楽ホール兼震災メモリアル《仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設》を紹介しています。2031年の東日本大震災20周年に向けて竣工予定のプロジェクトです。展示は建物の構造が体感できる15分の1の大型吊模型を中心に、テーマ「たくさんの/ ひとつの響き」が具現化された設計プロセスを見せる模型や資料が広がります。

画像1: 展示風景:セクション8《たくさんのひとつの森》 photo©︎moichisaito

展示風景:セクション8《たくさんのひとつの森》
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画像2: 展示風景:セクション8《たくさんのひとつの森》 photo©︎moichisaito

展示風景:セクション8《たくさんのひとつの森》
photo©︎moichisaito

展示を締めくくるのはセクション8《たくさんのひとつの森》です。藤本とデータサイエンティストの宮田裕章(慶應義塾大学教授)による未来都市構想《共鳴都市2025》が紹介されています。模型と映像で描かれる未来都市は、大小さまざまな球体状の構造体が複雑に連なり、高さおよそ500メートルの範囲に収まる壮大なスケールで構想されています。そこには、住宅や学校、オフィスなど都市生活に欠かせない機能が内包されています。立体的に重なり合う無数の球体群は、「森」のように明確な中心を持たず、多方向に開かれています。人々が多層的なつながりを築く、新たなコミュニティのかたちを提案する試みです。

もうすぐ閉幕ですが、「今回の個展は、いわゆる回顧展というより、現在進行形で、むしろ未来を向いているものです。これまでの集大成であると同時に、これからの方向性を模索する展覧会になると感じています。」という藤本のメッセージのように、この展示を訪れて、建築の新たな可能性を探してみるのはいかがでしょう。

概要

展覧会名:藤本壮介の建築:原初・未来・森
会期:開催中~2025年11月9日
会場:森美術館
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
電話番号:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10:00~22:00(火曜日のみ17:00まで)※入館は閉館30分前まで
休館日:会期中無休
料金:[平日]一般 2300円 / シニア(65歳以上)2000円 / 学生(高校・大学生)1400円 / 中学生以下 無料
[土日・休日]一般 2500円 / シニア(65歳以上)2200円 / 学生(高校・大学生)1500円 / 中学生以下 無料

公式サイト:https://www.mori.art.museum/jp/index.html

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