対談企画「いま気になる映画人」では、映画製作・プロデューサーの飯塚冬酒が「いま気になる」映画人に逢い、対談する企画です。
今回は昔から旧知の辻野正樹監督との対談です。
辻野正樹×飯塚冬酒 出会い
飯塚「ご無沙汰しています」
辻野「ご無沙汰しています・・・といってもメールなどではね。ちょくちょく」
飯塚「そうですね。いろいろと画策してますよね(笑)。辻野さんとはかれこれ10年近く?同世代ということもあり勝手に仲良しだと思っています。2015年の映画祭で辻野さんの作品『明日に向かって逃げろ』を拝見してからですかね」
辻野「横浜の映画館ジャック&ベティの映画祭で上映した作品ですね」
飯塚「物凄い作品だなあ、と思って。上映企画でも作品をお借りしたり、というところからですね。
それはそうと、最新作の『北浦兄弟』のタリン・ブラックナイト映画祭 BEST FILM賞おめでとうございます」
辻野「ありがとうございます」
飯塚「受賞作品の『北浦兄弟』のお話はまた後ほど・・・そもそも、辻野さん、どうして映画監督になろうかと思ったんですか?」
辻野「父親が映画好きで・・・僕の名前の正樹は『切腹』などの映画を監督した小林正樹監督からとったみたいですね。中学生くらいの時に『映画監督になるには』みたいな本を読んでいました。あるとき、黒澤明さんのドキュメンタリーをテレビで観て、厳しいんですよね、現場が(笑)。あ、自分ではこの仕事は無理かな、と思って一旦、夢破れました」
飯塚「夢破れるの早いですね(笑)」

映画監督になるまで
辻野「その後、大学では美術大学の工芸科で染色を学んでいました。生地に溶かした蝋で絵をかいて染めるロウケツ染めを主に表現の場としていました。卒業してから1年くらいで東京に出てきてインディーズの音楽活動をして・・・」
飯塚「音楽・・・どんな?」
辻野「その頃はフォークロック、ニール・ヤングみたいな」
飯塚「なるほど、辻野さんの作品の音楽の系譜ですね。僕、辻野さんの作品の音楽って物凄く好きで、そのルーツってどこだろうって思ってたんです」
辻野「ありがとうございます。ただ、音楽活動も思ったように行かず30歳くらいで会社勤めしようかと思ったんですけど・・・続かなかったですね。そんな時、友人が自主映画をつくることになって映画音楽を頼まれたんですけど・・・なかなか彼の脚本が進まず。映画音楽したくてしたくてたまらなかったので、自分で脚本書いて(笑)。その映画は完成しなかったんですけど・・・」
飯塚「巻き込まれがたですね」
辻野「そうそう。そこから脚本書くのが楽しくなって色々書いているうちに、舞台の脚本の話が来て本書いて演出したり、全く経験もないのに、俺できるんじゃないかな、って根拠のない自信はありましたね(笑)。ところが最初の脚本・演出の舞台がフジテレビの企画でドラマ化されたりと」
飯塚「とんとん拍子ですね」
辻野「いえいえ、その後、舞台も先行きとかいろいろ考えて一旦離れて。自分を見つめなおしたときに『映画を撮りたい』という気持ちに気がついたのが・・・38歳」
飯塚「その時に撮ったのは?」
辻野「40分くらいで小劇場の劇作家を主人公にした映画、自分を投影した感じですかね。映画祭に応募したんですけど日の目が当たらず。作品的には自信があったんですけど、何が足りないんだろうって・・・映画学校のenbuゼミに入って映画の技術的なものを学びました」
飯塚「そのころですかね。『明日に向かって逃げろ』の撮影は?」
辻野「そうですね。その後、enbuのシネマプロジェクトのコンペに『河童の女』が通って、長編作品を監督したんです」

映画『明日に向かって逃げろ』より
役者さんに対する想い
辻野「僕、面白い役者さんが好きなんです。その役者さんの面白さを映画の中で表現できればいいな、って思っています。
脚本を役者さんに併せたあてがきで修正したり、そこで作品の中で役者さんの面白さが活きるようにしたいんですよね」
飯塚「面白さって?」
辻野「見た目もありますけど(笑)、人間性だったり、しゃべり方だったり・・・芝居経験が少ない人でもその人の佇まいがよかったりすると、そこを活かしたいなあ、と」
飯塚「その人の個性やキャラクター、人間性を大切にして映画の中で活かしたい、ということでしょうね。人を大切にする辻野さんらしいですね。辻野さんの映画のキャラクターって、本来共感しにくい人が多いような気がするんですね。例えば『河童の女』だと、冒頭で自分勝手な『俺、旅館辞めるから』っていとも簡単に辞めてしまう」
辻野「そうですね・・・基本的には、ダメな人を描きたいんですよね(笑)」
飯塚「そうそう、ダメなキャラクターなので観てるうちに愛おしくなってくる。品行方正ではなく、完全な悪人でもない、ほんの少しダメな人間を描いてはいるんだけど・・・なんか愛に満ち溢れてくる。多分、監督の目線が優しいからなのかもしれないですよね」
飯塚「辻野さんの現場に何度かお邪魔したんですけど、役者さんの動きが、え、そこまで動かす?大げさすぎない?と思って観てたところもあったんですけど・・・仕上がった作品を拝見したら、画がちょうどいい感じ」
辻野「僕、舞台出身だから役者さん動かしたいんでしょうね。黙って座って淡々としゃべる、みたいなことがしたくないのかも」
飯塚「その動きとカメラの計算が、不自然でなくしっかりとした画作りになっているんでしょうね」

中年の新人監督
辻野「前作の『河童の女』の時、僕、52歳だったんです。キャッチコピーが『52歳の新人監督』(笑)」
飯塚「それまでに脚本や舞台や短編など作品つくってこられたのに(笑)」
辻野「まあ、それはそれで面白いんですけどね」
飯塚「僕も50過ぎての初監督作品が『MOONand GOLDFISH』ですからね、遅れてきた・・・いや遅れっぱなしの新人監督(笑)。辻野さんの最新作『北浦兄弟』の映画祭受賞は励みになりました」
辻野「ありがとうございます」
飯塚「世界15大映画祭の批評家部門での最優秀賞ですものね。素晴らしい。タリンはいかがでした?」
辻野「劇場満員の中で上映でき、ものすごい興奮の中での上映でした」
飯塚「そして・・・いよいよ国内公開ですよね。どんな映画か、監督からご説明いただいてもよろしいでしょうか」
辻野「はい、4月12日より渋谷のユーロスペースさんから劇場公開になります。
父親にパラサイトして生きているニートの中年男が、父親を殺害してしまい、弟と一緒に、遺体を遺棄するために海まで運ぶという物語です。
そう話すと重たくて暗いストーリーのようですが、ブラックな笑いを交えたコメディ作品です。
人間の愚かさとか、悲しみとかを、ユーモアを交えて描きました。
沢山のみなさんに観ていただきたいです」
飯塚「ありがとうございます。ぜひ多くのみなさまに作品が届くよう」
辻野「ありがとうございます」
- YouTube
youtu.be北浦兄弟|監督:辻野正樹|2024年|日本|94分|5.1ch|アメリカンビスタ
製作:「北浦兄弟」映画製作委員会
宣伝:ブライトホース・フィルム / 配給:GACHINKO Film
https://g-film.net/kitaura/