広島市現代美術館において2024年9月1日まで「遠距離現在 Universal / Remote」が開催されています。
*写真は全て東京の国立新美術館での展示風景です。
本展覧会には、現代社会のあり方に取り組んできたアーティスト8名と1組の作品が紹介されています。井田大介、徐冰(シュ・ビン)、トレヴァー・パグレン、ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ+ヒト・シュタイエル+ミロス・トラキロヴィチ、地主麻衣子、ティナ・エングホフ、チャ・ジェミン、エヴァン・ロス、木浦奈津子です。キュレーションは国立新美術館特定研究員の尹志慧が担当しました。
2020年の新型コロナウイルスのパンデミックを起点に計画され、2023年10月7日(土)- 12月17日(日)まで熊本市現代美術館、2024年3月 6日(水)~ 2024年6月 3日(月)まで国立新美術館を巡回し、6月29日(土)〜9月1日(日)まで広島市現代美術館で開催されています。
本展覧会は、21世紀におけるグローバル化とテクノロジーの進展がもたらす社会的影響に焦点を当てています。2010年代以降、スマートデバイスの普及により、人、資本、情報の移動が加速しましたが、同時にオーバーツーリズムや環境負担、情報格差といった問題も深刻化しました。2020年に始まったパンデミックで人の移動は一時的に止まりましたが、資本と情報の流れは続き、その本質が露わになりました。本展覧会において、グローバル化とテクノロジーがもたらす社会の歪みや、リモート化する個人の孤独感を表現する作品群を紹介し、ポストコロナ時代における社会の在り方を探っています。
タイトル「遠距離現在 Universal / Remote」は、常に遠くにある現在を意識するために造語されました。本来の「万能リモコン」の意味を持つUniversal Remoteをスラッシュで分断し、ユニバーサル(世界)とリモート(遠隔、非対面)を際立たせています。コロナ禍で私たちが感じた「遠さ」と、それぞれが今も遠くで生きていることを意識する重要性が、このタイトルに込められています。
本展覧会は、「Pan- の規模で拡大し続ける社会」と「リモート化する個人」の2つの軸で構成されています。
「Pan-」の規模で拡大し続ける社会
国家権力の強化と監視システムの容認は、感染防止に一定の成果を上げましたが、ポストコロナ社会の課題として残されています。人々は、国家の力と個人の自由のバランスをこれまで以上に問われています。一方で、資本と情報の移動は加速し続け、デジタル通貨やNFT経済がその象徴です。こうした資本と情報の問題に焦点を当てた作品として、井田大介、徐冰、トレヴァー・パグレン、ヒト・シュタイエル(ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ミロス・トラキロヴィチとの共同制作)、地主麻衣子の作品をとりあげます。
「リモート」化する個人
コロナ禍でもグローバル社会は拡大を続けましたが、個人のリモート化が進行し、地理的な距離感はますます薄れています。オンラインで国境を越えることが当たり前になり、リモート化が加速する中、見知らぬ世界に向けて黙々と働く姿には孤独感が漂います。これが人間の心に与える影響を考え、ティナ・エングホフ、チャ・ジェミン、エヴァン・ロス、木浦奈津子の作品を通じて、「非接触」を前提とした働き方や居住について探ります。地主麻衣子の作品は、これらのテーマを横断するものでもあります。
映像作品が多いため、作品鑑賞には十分な時間をとることをお勧めします。
今やコロナ禍が過去のものになりつつありますが、まさに今、観るべき展覧会です。