本展覧会は、「ホワイエ」と四つの「ギャラリー」の新春の展示となっています。
1 ホワイエ ~龍、丸の内でお迎え~
2 Gallery 1
第1章 龍、東アジアを翔ける
3 Gallery 2
第2章 龍、中国工芸に降臨す
4 Gallery 3
第3章 龍、日本を駆けめぐる
5 Gallery 4
第4章 龍、茶道具に入り込む
本記事では、3つの見どころをご紹介いたします。
1 静嘉堂のもつ“龍”のオールスター・キャスト!
2 橋本雅邦の重要文化財《龍虎図屏風》と鈴木松年の《群仙図屏風》の屏風の対決!
3 その他、絵画・染織・漆芸・金工・陶磁など多彩なジャンルから“初出品”が続出!
しかし、なんといっても、「静嘉堂」の有名な作品は、国宝の「曜変天目(稲葉天目)」です。
この黒釉茶碗(天目茶碗)の見込みの美しい文様は、高火度(1350゜C前後)で焼成された黒釉の化学変化によって現れたものです。釉薬によって窯変する。その釉薬は胎土と同様、鉄分を多く含む黒釉です。黒釉にたくさんの大小の斑文のある「曜変天目」の色調はとても崇高で神秘的な美のよそおいです。ましてや斑文の周囲は、きらきらと星紋が輝き、青や黄の金属的な光沢が不規則に光彩をはなっています。
「天目」とは、いまでは黒釉茶碗の総称にもなっていますが、黒の鉄質釉がかかるものをいいます。本来は、中国の浙江省の天目山などの名刹の寺で常用されていたものを留学僧が持ち帰ったことから「天目」と名付けられました。宋時代の建窯のものがことに知られています。
1918年(大正7)、驚くべきことがおこりました。江戸時代に稲葉家に伝わった「曜変天目茶碗」が、入札に出されたのです。室町時代以来、天目茶碗のうちで最も珍重されたのが、「曜変」です。日本、いや世界にもこの種のものは、完品が三点しかないそうです。龍光院の所蔵になるもの、水戸徳川家伝来の藤田美術館の所蔵になるもの、そして、この「稲葉天目」(淀藩主)といわれる静嘉堂の所蔵になる「曜変天目」です。
数ある茶碗のなかでも、類のない星紋で、みごとに窯変したこの美しい「曜変天目」をその後に手に入れたのが、岩﨑小彌太でした。父彌之助の遺した美術品の整理を当時、斯界の専門家に頼んでいましたが、もとからの漢学に親しんだ素養、5年にわたる英国留学によっても培われた広範な知識などもあり、古陶磁への関心を強くしています。
この「曜変天目」がどのような道を辿ってきたのかを知るだけでも、この作品が尋常でない歴史をもつものであることがうかがえます。
徳川将軍家―徳川家光―春日局―稲葉美濃守正則(小田原藩主、のち淀藩主)―小野光景、哲郎父子(稲葉家姻戚)―(稲葉正凱)―岩﨑小彌太―静嘉堂(現在)
展覧会では、「Gallery 4 第4章 龍、茶道具に入り込む」として、この「曜変天目(稲葉天目)」のほか、大名物の唐物茄子茶入の「利休物相(茶入)」とともにある「堆黒螭龍(ちりょう)文稜花盆」を見ることができます。この盆を探し出し、「利休物相」と組み合わせた人物が、茶人で作事奉行(建築や修理を司る)の小堀遠州(1579-1647)といわれています。
さて、「Gallery 1 第1章 龍、東アジアを翔ける」では、「龍」のイメージの成立ちとその姿を、美術品や静嘉堂文庫の古典籍の中に見ることができます。
静嘉堂の第二代の文庫長は、中国哲学者で13巻の『大漢和辞典』を編纂した諸橋轍次(1883-1982)でした。展覧会では、編纂された『大漢和辞典』に見る龍の説明などから、干支の中の辰年の性格など、龍古来の伝承・イメージを織り交ぜて紹介しています。
「Gallery 3 第3章 龍、日本を駆けめぐる」では、日本画家の橋本雅邦(1835-1908)の「龍虎図屏風」について、ご紹介いたします。
橋本雅邦は、岡倉天心(1863-1913)や狩野芳崖(1828-1888)らと明治の日本画の新しい方向を求め、「院展」として知られる「日本美術院」の創立に参加しています。その画風は、狩野派に洋画風の表現を取り入れたものです。この「龍虎図屏風」は、近代の日本絵画では、初めての重要文化財に指定された作品です。
橋本雅邦の重要文化財になっている代表作「龍虎図屏風」と、上村松園の師でもあった鈴木松年(1848-1918)の「群仙図屏風」。
「東の雅邦」「西の松年」 として「第4回内国勧業博覧会」(会場は京都市岡崎公園内・1895年(明治28)開催)にともに出品されました。おしくも受賞を逃したものの、後年、評価が高まった作品です。今展覧会は、鈴木松年の新たな発見も可能な機会となっています。
想像上の動物である「龍」は、古代中国で誕生しました。
天に昇り、雨を降らせるなど、様々な力をもって強さや権力を象徴してきました。
ですから、龍は、吉祥図様として、東アジアの絵画をはじめ、数多くの工芸品に取り上げられてきたのです。
ところで、中国の「五行思想」は、古代中国の自然思想です。万物の生成は、木・火・土・金・水の五元素から成り立つとしています。天地万物は、互いに影響を与えながら、変化して、循環するというのです。
この考え方と結びついた龍の存在は、四方の神である青龍(東)・白虎(西)・朱雀(南)・玄武(北)の四神の中で、東方を護る青龍です。
そこには、西方の白虎と“玉環”を取り合う図像も多く認められます。
なかでも、陽(東方)と陰(西方)のバランスを取りながら、それにちなむ「龍虎図」が、図像としてはとても良く知られています。
その他、鳳凰と組み合わせて皇帝と皇后を象徴した「龍鳳図」、雲を従わせ天空を飛翔する「雲龍図」、波間に姿を現す「龍濤図」などがあります。
このように、龍の絵は、多彩な姿で表され、時代を超えて人々に親しまれてきました。
一方、金属器(茶釜)・漆器・陶磁器の端の文様などに表された、ほとんど見えない線彫りや鋳造された龍文、文様が雑で崩れてほとんど蛇のようになった龍文や螭龍文もあります。
染織からは、「名物裂(めいぶつぎれ)」といわれる細かい龍文、青磁や染付瓶の耳にくっついた龍の姿などが、潜むように存在しています。細部にも、ご注目ください。
以上、「Gallery 2 第2章 龍、中国工芸に降臨す」では、古来より人々がその霊力と吉祥を呼ぶ力に願いを込めた「龍」の絵画・工芸品が楽しめます。
「収集家にはいろいろある。そのうえどの収集家にもいくつもの衝動がひしめきあって働いている」とベンヤミン(1892-1940)は、「エードゥアルト・フックス−収集家と歴史家」のはじめをこのように書き出しています。ここには、開拓者としての収集家であると同時に、歴史家であったフックスの両義性から「収集とは何か」が浮かんできます。
静嘉堂は、三菱創業者で土佐出身の岩﨑彌太郎の弟で、実業家にして学殖ある岩崎彌之助(1851-1908)と岩﨑小彌太(1879-1945)の父子二代によって設立され、拡充されてきました。国宝7件、重要文化財84件を含む、20万余冊の古典籍と6,500余件の東洋の古美術品を収蔵しています。世田谷の岡本の地には、東京都選定歴史的建造物となっている「静嘉堂文庫」があります。
この静嘉堂文庫創設130周年と美術館の開館30周年を記念して、2022年(令和4)に「静嘉堂@丸の内」が、地下鉄千代田線「二重橋前駅」からすぐの明治生命館1
階にオープンいたしました。
古来人々がその霊力、吉祥を呼ぶ力に願いを込めた「龍」の絵画・工芸品を、2024
年・辰年正月の「静嘉堂@丸の内」にて、どうぞお楽しみ下さい!
【開催概要】
会 期: 2024年1月2日(火)~2月3日(土)
会 場:静嘉堂@丸の内(明治生命館1階)
〒100-0005
東京都千代田区丸の内2-1-1明治生命館1階
休 館 日:毎週月曜日(ただし1月8日(月・祝)、1月29日(月)は開館、1月9日(火)休館)
※1月29日(月)はトークフリーデーとして特別開館いたします。
開館時間:午前10時~午後5時(金曜は午後6時まで)
※入館は閉館の30分前まで
入 館 料:一般1,500円 大高生1,000円 中学生以下無料
障がい者手帳をお持ちの方700円(同伴者1名無料)
★「辰年生まれ」の方、姓名に「龍・竜・辰・タツ・リュウ」がついている方は、同伴者も含め、本展の入館料を200円割引いたします。
※他の割引との併用不可。※ご入館の際、証明になるものをご提示ください。
問い合わせ: TEL 050-5541-8600(ハローダイヤル)
ホームぺージ: https://www.seikado.or.jp
主 催:静嘉堂文庫美術館(公益財団法人 静嘉堂)
ネフィルチケットプレゼント
下記の必要事項をご記入の上、「ハッピー龍イヤー!~絵画・工芸の龍を楽しむ~」
シネフィルチケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上2組4名様に招待券をお送り致します。この招待券は、非売品です。
転売業者などに転売されませんように、よろしくお願い致します。
☆
応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
★
応募締め切りは2024年1月15日 月曜日 24:00まで
記載内容
☆.・。☆.・。☆.・。☆.・。☆.・。☆.・。☆.・。☆.・。☆.・。☆.・。☆.・。☆.・
1、氏名
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の郵便番号、電話番号、建物名、部屋番号も明記)
4、ご連絡先メールアドレス
5、記事を読んでみたい映画監督、俳優名、アーティスト名
6、読んでみたい執筆者
7、連載で、面白いと思われるもの、通読されているものの、筆者名か連載タイトルを、
ご記入下さい(複数回答可)
8、よくご利用になるWEBマガジン、WEBサイト、アプリを教えて下さい。
9、シネフィルのこの記事または別の記事でもSNSでのシェアまたはリツイートをお願い致します。
以上の内容は、内覧会当日の「ニュースリリース」および会場での「解説文」を参考に作成いたしました。
岡本勝人記
詩人・文芸評論家。評論集に『海への巡礼』『1920年代の東京 高村光太郎、横光利一、堀辰雄』『「生きよ」という声 鮎川信夫のモダニズム』(ともに、左右社)のほか、『仏教者柳宗悦 浄土信仰と美』(佼成出版社)がある。また詩集に『都市の詩学』『古都巡礼のカルテット』『ナポリの春』(ともに、思潮社)などがある。各紙に書評などを執筆している。