新緑や紅葉の景観が美しい東福寺は、京都を代表する禅寺の一つで、鎌倉時代前期に九条道家(くじょうみちいえ)が発願し、日本から中国へと渡り禅を学んだ円爾(えんに)を開山に迎えて創建されました。「東福寺」の名は、奈良の東大寺と興福寺になぞらえて、その一字ずつをとったことに由来します。巨大な建造物の数々は圧感のスケールを誇り、「東福寺の伽藍面」と称されています。

このたび、東福寺の至宝をまとめて紹介する展覧会が京都国立博物館において開催されています。
東福寺の寺宝をまとめて紹介する初の機会となる本展では、「画聖(がせい)」とも崇められた伝説の絵仏師・明兆による大作、重要文化財「五百羅漢図」(ごひゃくらかんず)全幅が、14年に渡る修理事業後、初公開されます。

「五百羅漢図」は、水墨と極彩色が見事に調和した、若き明兆の代表作で、1幅に10人の羅漢(らかん)を描き、50幅本として描かれた作で、東福寺に45幅、東京・根津美術館に2幅現存する大変貴重な作品です。「羅漢」とは、最高の悟りに達した聖者、尊敬される人のことで、色鮮やかに描かれた「五百羅漢図」は、まるで極楽浄土を見ているようで、感動させられます。

また、巨大伽藍にふさわしい特大サイズの仏像や書画類の優品も一堂に展観されています。東福寺の歴史を辿る珠玉の名品、中国伝来の文物をはじめ、建造物や彫刻・絵画・書跡など大陸との交流を通して花開いた禅宗文化をご堪能ください。
それでは展覧会構成に従っていくつかの作品をご紹介致します。

画像: 東福寺三門

東福寺三門

画像: 重要文化財 五百羅漢図 第20号 吉山明兆筆 南北朝時代・至徳3年(1386) 京都・東福寺蔵 前期展示:10月24日(火)~11月5日(日)

重要文化財 五百羅漢図 第20号
吉山明兆筆 南北朝時代・至徳3年(1386) 京都・東福寺蔵
前期展示:10月24日(火)~11月5日(日)

画像: 重要文化財 五百羅漢図 第40号 吉山明兆筆 南北朝時代・至徳3年(1386) 京都・東福寺蔵 後期展示:11月21日(火)~12月3日(日)

重要文化財 五百羅漢図 第40号
吉山明兆筆 南北朝時代・至徳3年(1386) 京都・東福寺蔵
後期展示:11月21日(火)~12月3日(日)

「五百羅漢図」第1~50号、すべての画像が順番に紹介されています。第1~45号および48・49号は明兆筆、第46・47・50号は明兆の描いた原図を元に後世に制作されたものです。
※修理後初公開となるのは、東福寺が所蔵する第1~45号(明兆筆)および第48・49号(明兆筆)の計47幅です。
※本展準備の最終段階で、明兆筆の第50号(幕末に東福寺から出て行方不明)がロシア・エルミタージュ美術館に保管されていることが分かったとの事です。

第1章 東福寺の創建と円爾(えんに)

嘉禎元年(1235)、円爾(1202~80)は海を渡り、南宋禅宗界の重鎮である無準師範(ぶじゅんしばん)(1177~1249)に師事します。帰国後は博多に承天寺(じょうてんじ)を建立。その後九条道家の知遇を得て京都に巨刹、東福寺を開きました。
以来、寺は災厄に耐えて古文書や書跡、典籍、肖像画など無準や円爾ゆかりの数多の宝物を守り継いできました。

画像: 国宝 無準師範像 自賛 中国 南宋時代・嘉熙2年(1238) 京都・東福寺蔵 前期展示:10月7日(土)~11月5日(日)

国宝 無準師範像
自賛 中国 南宋時代・嘉熙2年(1238) 京都・東福寺蔵
前期展示:10月7日(土)~11月5日(日)

南宋禅宗界きっての高僧で、円爾の参禅の師である無準師範の肖像。無準が自ら賛を書いて円爾へと付与した作で、中国から日本へと禅の法脈が受け継がれたことを象徴しています。

画像: 重要文化財 遺偈 円爾筆 鎌倉時代・弘安3年(1280) 京都・東福寺蔵 後期展示:11月7日(火)~12月3日(日)

重要文化財 遺偈
円爾筆 鎌倉時代・弘安3年(1280) 京都・東福寺蔵
後期展示:11月7日(火)~12月3日(日)

円爾が臨終に書き遺した四言四句よりなる詩。
円爾の生き様を伝える臨終最期の筆致。渾身の気力を注いだこの筆跡は、日本に残る最古級の遺偈(ゆいげ)としても貴重。

第2章 聖一派(しょういちは)の形成と展開

円爾の法を伝える後継者たちを聖一派と呼びます
東福寺周辺には彼らの書や、面影を伝える肖像画や彫刻、袈裟(けさ)などの所用品が多数現存し、いずれも禅宗美術の優品揃いです。

画像: 重要文化財 癡兀大慧像 鎌倉時代・正安3年(1301) 京都・願成寺蔵 前期展示:10月7日(土)~11月5日(日)

重要文化財 癡兀大慧像
鎌倉時代・正安3年(1301) 京都・願成寺蔵
前期展示:10月7日(土)~11月5日(日)

円爾の直弟子、中世随一の強面(こわもて)肖像画。 癡兀大慧(ちこつだいえ)(1229~1312)は、もと天台僧。円爾に法論を挑みましたが、その徳に圧倒されて弟子となりました。
本像は73歳の折の肖像画で、目も見開き、にらむ顔は迫力満点。中世の肖像表現の白眉であり、畏怖に満ちた禅風となっています。

画像: 虎 一大字 虎関師錬 筆 鎌倉~南北朝時代・14世紀 京都・霊源院蔵 通期展示

虎 一大字
虎関師錬 筆 鎌倉~南北朝時代・14世紀 京都・霊源院蔵
通期展示

虎 一大字(とらいちだいじ)は展覧会初出品の作品。円爾の孫弟子で、東福寺第15代住職・虎関師錬(こかんしれん)(1278~1346)の書と伝えられています。漢詩文や書にも優れた当代きっての学僧が、これは何かと問いかけているようです。文字や絵か、座した虎か怪物か、はたまた座禅する虎関自身の肖像か。

第3章 伝説の絵仏師・明兆(みんちょう)

吉山明兆(きっさんみんちょう)(1352~1431)は、東福寺を拠点に活躍した絵仏師です。江戸時代までは雪舟とも並び称されるほどに高名な画人でした。
中国将来の仏画作品に学びながらも、冴えわたる水墨の技と鮮やかな極彩色とにより平明な画風を築き上げ、巨大な伽藍に相応しい「五百羅漢図」をはじめとする巨幅や連幅を数多く手掛けました。本章では、東福寺および塔頭に伝蔵される明兆の代表作が一堂に紹介されています。

画像: 重要文化財 白衣観音図 吉山明兆筆 室町時代・15世紀 京都・東福寺蔵 前期展示:10月7日(土)~11月5日(日)

重要文化財 白衣観音図 吉山明兆筆 室町時代・15世紀 京都・東福寺蔵
前期展示:10月7日(土)~11月5日(日)

縦326.1cmと、規格外のスケールを誇る超巨大な白衣観音図(びゃくえかんのんず)。
明兆は巨幅や連幅を数多く描きましたが、そのなかでも本作の巨大さは圧倒的。もとは法堂(はっとう)の壁面に貼られていたとも考えられる作で、筆勢あふれるダイナミックな描写には明兆の非凡な画力が遺憾なく発揮されています。

画像: 重要文化財 達磨・蝦蟇鉄拐図 吉山明兆筆 室町時代・15世紀 京都・東福寺蔵 後期展示:11月7日(火)~12月3日(日)

重要文化財 達磨・蝦蟇鉄拐図 吉山明兆筆 室町時代・15世紀 京都・東福寺蔵
後期展示:11月7日(火)~12月3日(日)

画業円熟期の傑作、東福寺の大達磨《達磨・蝦蟇鉄拐図》(だるま・がまてっかいず)。明兆画を代表する優品。中央の達磨はシンメトリックな構成美と緻密な陰影描写、江戸絵画を先取りしたような明るく伸びやかな筆さばきが印象深い。ユーモラスな左右の蝦蟇・鉄拐図は中国絵画の名品を模写したものです。

第4章 禅宗文化と海外交流

中国で禅を学んだ円爾は、帰朝に際して数多くの仏教文物を将来しました。円爾と中国仏教界との交友は帰国後も継続し、さらにそうした対外交流のネットワークは、円爾の弟子に連なる聖一派(しょういちは)の禅僧たちにも受け継がれていきます。

画像: 国宝 太平御覧 李昉 等編 中国 南宋時代・12~13世紀 京都・東福寺蔵 通期展示(ただし、冊替えあり)

国宝 太平御覧
李昉 等編 中国 南宋時代・12~13世紀 京都・東福寺蔵
通期展示(ただし、冊替えあり)

円爾がもたらした宋王朝勅纂(ちょくさん)の百科事典。
北宋2代皇帝太宗(たいそう)の勅命で李昉(りほう)ら文臣が編纂した1000巻よりなる類書(るいしょ)(百科事典)。

画像: 十六羅漢図 中国 明時代・15~16世紀 京都・永明院蔵 後期展示:11月7日(火)~12月3日(日)

十六羅漢図
中国 明時代・15~16世紀 京都・永明院蔵
後期展示:11月7日(火)~12月3日(日)

展覧会初出品となる作品。十六羅漢は、釈迦の命を受けて永くこの世に留まり、仏の教えを守り伝える役目を負った16人の仏弟子のこと。奇怪でありながらもコミカルな表情の羅漢たち。洗練された描線に注目。

第5章 巨大伽藍と仏教彫刻

東大寺と興福寺の名に由来する東福寺の壮大な規模は、京都東山にそびえる巨大伽藍と尊像等の仏教彫刻に象徴されます。創建当初は宋風の七堂伽藍に、立てば5尺という座像です。仏殿本尊の釈迦如来坐像(しゃかにょらいざぞう)をはじめとした巨大群像が安置され、「新大仏寺」と称されました。

画像: 国宝 禅院額字幷牌字のうち方丈 張即之筆 中国 南宋時代・13世紀 京都・東福寺蔵 後期展示:11月14日(火)~12月3日(日)

国宝 禅院額字幷牌字のうち方丈
張即之筆 中国 南宋時代・13世紀 京都・東福寺蔵
後期展示:11月14日(火)~12月3日(日)

伽藍を飾る、無準師範が円爾に贈った開堂祝いの書。
円爾が博多の承天寺(じょうてんじ)を開堂した際に、無準師範が贈った一群の額字・牌字(はいじ)。堂舎に掛ける扁額(へんがく)や牌(行事等の告知板)の、手本用の書です。

画像: 重要文化財 東福寺伽藍図 了庵桂悟 賛 室町時代・永正2年(1505) 京都・東福寺蔵 後期展示:11月7日(火)~12月3日(日)

重要文化財 東福寺伽藍図
了庵桂悟 賛 室町時代・永正2年(1505) 京都・東福寺蔵
後期展示:11月7日(火)~12月3日(日)

東福寺の全景を詳細に描く東福寺最古の絵画遺品。伽藍の方位や配置を伝える絵図として作られたものですが、通天橋や紅葉を含む山内の景勝が一流の水墨画人の手で表されており、中世の実景山水図の代表作ともみなされています。

画像: 四天王立像のうち多聞天立像 鎌倉時代・13世紀 京都・東福寺蔵 通期展示

四天王立像のうち多聞天立像
鎌倉時代・13世紀 京都・東福寺蔵
通期展示

修復後初公開運慶作? 法堂本尊の釈迦如来を守護する四天王のうち、北方をまもる多聞天像。この四天王は現本尊とともに、三聖寺(さんしょうじ)から移されたもの。他の3像は鎌倉時代後半頃の作だが、本像のみ鎌倉時代前半のもので、きわめて運慶風で、力強いまなざしです。

画像: 仏手 鎌倉時代・13世紀 京都・東福寺蔵 photo by © cinefil 通期展示

仏手 鎌倉時代・13世紀 京都・東福寺蔵 photo by © cinefil
通期展示

展覧会初出品となるこの手は明治14年(1881)に焼失した、東福寺旧本尊の巨大さを偲ぶことのできる数少ない遺例。約2メートルもあります。
九条道家によって創建された当初の本尊は、建長7年(1255)までに完成しましたが約70年後に焼失。この仏手はその後に再興された像の左手です。

14年に渡る歳月をかけて、修理後全幅初公開となる、「画聖」とも崇められた絵仏師・明兆の記念碑的大作「五百羅漢図」は圧巻。鑑賞できる貴重な機会です。
東福寺の寺宝が一堂に会する本展で、悠久の歴史を辿り、巨大伽藍にふさわしい圧巻の仏像や書画など珠玉の名品に心癒されるひとときをお過ごしください。

画像: 展覧会風景 photo by © cinefil

展覧会風景 photo by © cinefil

展覧会概要

展覧会名 特別展 東福寺
会期 2023(令和5)年10月7日(土)~12月3日(日)
[主な展示替]
前期展示:2023年10月7日(土)~11月5日(日)
後期展示:2023年11月7日(火)~12月3日(日)
※会期中、一部の作品は上記以外にも展示替を行います。

会場 京都国立博物館 平成知新館
交通 JR、近鉄、京阪電車、阪急電車、市バス
休館日 月曜日
開館時間 9:00~17:30(入館は17:00まで)
観覧料 一般 1,800円(1,600円)大学生 1,200円(1,000円) 高校生700円(500円)
( )内は団体料金です。
団体は20名以上です。
大学生・高校生の方は学生証をご提示ください。
中学生以下は無料です。
障害者手帳等(*)をご提示の方とその介護者1名は、観覧料が無料になります。
*身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、戦傷病者手帳、被爆者健康手帳、特定疾患医療受給者証、特定医療費(指定難病)受給者証、小児慢性特定疾病医療受給者証
キャンパスメンバーズ(含教職員)は、学生証または教職員証をご提示いただくと、各種当日料金より500円引き(一般1,300円、大学生700円、高校生200円)となります(当日南門チケット売場のみの販売)。

画像: 展覧会風景  photo by © cinefilm

展覧会風景  photo by © cinefilm

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