『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』のデヴィッド・ロウリー監督最新作『グリーン・ナイト』が11月25日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開中です。
14世紀の作者不明の叙事詩「サー・ガウェインと緑の騎士」は、「指輪物語」の作家J・R・R・トールキンが現代英語に翻訳し、広く読まれてきた。この原典を、ロウリー監督自身が深い愛と敬意をもって大胆に脚色。過酷な自然界へと挑む冒険と幻想的で奇妙な旅を通して、自分の内面へと向き合っていく若者の成長物語を、示唆に富んだ斬新で濃度の高い魅惑的な映像で描き出す。
アーサー王の甥として恵まれた環境で怠惰な日々を送る主人公サー・ガウェインを演じるのは
『スラムドッグ$ミリオネア』や『LION/ライオン〜25年目のただいま〜』のデヴ・パテル。
まだ正式な騎士ではなく未熟でどこか頼りないガウェインが、クリスマスの残酷な“遊び事ゲーム”から1年後、未知の世界へと挑んでゆく姿を魅力的に演じる。
『ミッドサマー』や『ライトハウス』などジャンル映画をアートの域まで高めてきたA24が贈る、初の本格ファンタジーがついに日本公開。
本作の公開初日となる11月25日(金)に、 監督・脚本・編集を務めたデヴィッド・ロウリー監督が吉祥寺オデヲンでオンライン舞台挨拶を実施しました。
原典詩との出会いから20年を経て映画化することになった経緯や、キャスティングや登場キャラクター、驚きのトリビアなどについてたっぷり語りました。
以下、オンライン舞台挨拶レポート
監督は、「この映画を作ることは自分にとってものすごく大きな体験でした。それが2022年11月、いまだにこうやって皆さんに届いていることを実感してすごく嬉しく思っています」とあいさつ。
原典詩との出会いについて「大学1年の時に初めて読んだんですが、ものすごい衝撃を受けて、暴力的なものに惹かれていた自分にすごく響いたんです。でも、それと同時に自分の核へと向かう旅であることがテキストにしっかり織り込まれていて、その頃からずっとどこか心に引っかかるものがあったんです。それで20年経ち中世を舞台にしたファンタジーを作りたいと思った時に、この詩のことを思い出して、改めて読みなおしたらとても深遠で心に響くものがあり、すぐ脚色したいと思い立ちました」と振り返る。脚色にあたり大事にしたことについて「原典の中で一番自分に響いたのは、個人の名誉よりも品格の方がずっと大きいということでした。だからそれを描きたかったんです。テキストを映像にするために脚色する上でどうしても変えなければならないことは出てきますが、僕は本当に心からこの原典である詩を愛しているので、“詩のためになっているか?”ということを常に考えながら変更をしていきました」と想いを語る。
主演のデヴ・パテルや一人二役で出演したオスカー女優のアリシア・ヴィキャンデルというキャスティングについて「はじめは、自分の中でガウェインを誰に演じてもらえばいいのか…というイメージがなかなか沸いてこなかったんです。そんな中でデヴと食事をしたんですが、彼が主演である作品、それこそが自分が作るべき正しいバージョンであると感じ、絶対彼だと思いました。それからこの詩は両面性、隠された両面性ということがテーマでもありますが、アリシアと会った時に“彼女は一役では足りない。もっと出演させなければならない”という想いに駆られました。それで彼女のことをイメージしながら当て書きで二役で書きました」と強い想いを持っていたことを語る。
劇中、過酷な旅を続けるガウェインの前に現れる巨人たちはいずれも女性の姿をしている。そのことについては「それが女性であるということが正しいと感じたというのに尽きるんです。僕は映画を作る時に、あまり知的な分析をし過ぎないのがいいと感じています。映画というのは私たちの深層意識から来ているものだと思っているから、直感で正しいと思えばそれでいいんだと思うのです。とても美しくて大きい巨人たちが、我々のこの世界を後にしていくというシーンですが、どんなルックスがいいのか考えた時に全員女性だと自分の中でスッと腑に落ちました。だから、それ以降自分で深く分析することはあえてしていません」と語る。その上で、監督は「でも面白いのは、製作当時に決めたことがこういう理由だったのかと後になって分かったりするんですよね。観客の皆さんが“私はこんな風に思っていました”と言ってくれる中で、“当時はそんな風には考えもしなかったけどそうだったのか”と気づくこともあるんです。このシーンは自分の一番好きな場面で大きな意味もあるんですが、皆さんがそれぞれに感じていただきたいので、どういう性格を持つシーンなのか僕からお話するのはやめておこうと思います」と、観客それぞれの解釈に委ねたいことを強調した。
監督は、Twitterなどで本作について語られる中でメインキャラクター以上の人気を誇るといっても過言ではないキャラクターであるキツネについても言及。「このキャラクターは原典詩にも登場するのですが、人間なんです。でも僕は、人物のキャラクターをこれ以上増やすべきではないと考えていました。ただ、このキャラクターがガウェインに提案することや彼との対話で出てくるものはすごく重要で、ガウェインの選択にも繋がるものだから、セリフとして残すべきだと思ったんです。それで、これは魔法のある世界だから言葉を話す動物がいてもおかしくないだろうとキツネにその役割を担ってもらうことにしました」と説明する。さらに「僕は、映画の中で人間の言葉を話すキツネが大好きなんです(笑) ウェス・アンダーソンの『ファンタスティックMr. Fox』やラース・フォン・トリアーの『アンチクライスト』など、今までの映画における “人間語を話すキツネ”の素晴らしい歴史に僕も名前を連ねたかったというの気持ちもありました(笑) 実際に登場させてみて、すごく気に入ったので登場シーンを増やしたほどです」と茶目っ気たっぷりに語る。
劇中、原典詩でただ一冊のみ現存する写本のイラストが、とあるシーンで一瞬だけ映し出される。監督は、そのことについて「これは編集の最後の段階に加えたもので、この場面で光った瞬間に何かが隠れていたら面白いんじゃないかと思い、オリジナルのイラストレーションを入れました。結果的によかったと思っているのは、その場面は原典にかなり忠実なシーンになっているので、原典への楽しいオマージュとして見ていただければと思っています」と明かした。それがどのシーンを指すのかは、ぜひ劇場で探してみてほしい。
最後に、SNSから事前に寄せられた質問にも回答。騎士という進むべき道を前に未熟でどこか頼りない主人公ガウェインと、映画業界に足を踏み入れた頃の監督自身に共通点はあると思うか?ガウェインに声をかけるとすると、どんな言葉ですか?という質問に対し、「自分が映画業界で得てきた体験や辿ってきた道のりとガウェインの旅路が似ていると言えるのか、考えたこともありませんでした。ただ、僕自身は自分の作品と自分自身を切り離すことができないと思う映画作家です。若い頃から映画監督になりたいと思い、おそらくガウェインも幼い頃から騎士になりたいと思っていたはずで、そういう意味では共通するところもあるかもしれません。脚本を書く時に、いつも主人公を自分の立場に置いてみることを必ずしています。今回の脚色にあたって、原典から変えていった部分は自分に近づけていった行為とほぼ同じでもありました。若い頃、自分で自分の夢を叶えるためのモチベーションをどうしても上げられずに、自分がなりたい姿に近づくために時間がかかってしまった中で、大きな力になってくれたのが母親でした。“家から外に出て行きなさい、世界をもっと体験しなさい”と背中を押してくれたんです。それこそ、この映画のガウェインの母親と同じように。ガウェインにアドバイスをするということは当時の自分へのアドバイスにもなるんですが、外の世界を見ること、世界から隠れないこと。自分が温かくて安全な居心地のいい場所に留まらずに一歩踏み出そうということを言うと思います」と自分自身の経験を重ねながら、ガウェインに対してメッセージが贈られた。
映画『グリーン・ナイト』予告編
監督・脚本・編集:デヴィッド・ロウリー
出演:デヴ・パテル、アリシア・ヴィキャンデル、ジョエル・エドガートン、サリタ・チョウドリー、ショーン・ハリス、ケイト・ディッキー、バリー・コーガン、ラルフ・アイネソン
2021年/アメリカ・カナダ・アイルランド/英語/130分/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/原題:The Green Knight /日本語字幕:松浦美奈/字幕監修:岡本広毅
配給:トランスフォーマー
提供:トランスフォーマー、Filmarks、スカーレット
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