戦後、日本美術のひとつの原点として、現在世界的に高く評価され、なかば神話化されているのが「具体」(具体美術協会(GUTAI))です。この名称「具体」とは「我々の精神が自由であるという証を具体的に提示したい」という意の現れでした。1962年、大阪中之島に吉原治良所蔵の古い土蔵を改装して開設された「グタイピナコテカ」そこが具体の活動拠点となります。その拠点となった中之島で、「具体」が解散して 50 年の節⽬となる今年、隣接する美術館、2 館同時開催という類い稀な形式で展覧会は開催されています。「すべて未知の世界へ」と突き進んでいった彼ら/彼女らのあゆみを観ることが出来る大規模な展示となっています。

後ろの黒いキューブ建物が大阪中之島美術館 手前が国立国際美術館 Ⓒ椿シャタル

具体美術協会は、1954 年、兵庫県の芦屋で結成された美術家集団。画家の吉原治良(1905-72)を中核に据えたこの集団は、絵画をはじめとする多様な造形実践をとおして、吉原による指導のもと、会員たちがそれぞれの独創を模索した18 年の活動を「分化」と「統合」のテーマで2美術館に分かれて構成されています。

村上三郎《あらゆる風景》1956/92年頃 個人蔵 (大阪中之島美術館での展示風景)Ⓒ椿シャタル

GUTAI「分化」編

具体は、常に先駆性と独創性とともに語られてきました。吉原治良の「人のまねをするな、今まで にないものをつくれ」という言葉が、端的にそのことを表すものとして語り継がれていますが、そ の認知度とは裏腹に、具体の先駆性と独創性の内実は、明らかにされていません。 大阪中之島美術館では「分化」をテーマとする「具体」の制作からいくつかの要素を抽出し、個々の 制作のありようを子細に検証しています。

吉原治良《作品(⿊地に⽩丸)》1967年 大阪中之島美術館蔵

「具体」グループのリーダー 吉川治良

吉原治良は大阪、老舗の油問屋に生まれ、中学時代から油絵を学び、高校卒業後。芦屋在住の上山二郎を慕い、彼の紹介で藤田嗣治と出会う。そこでオリジナリティの重要性に開眼。戦後二科会の再建に尽力する傍ら、1948年芦屋市美術協会の結成に参加、代表となる。1952年、植木茂、須田剋太らとともに現代美術懇談会(ゲンビ)を発足。1954年、芦屋市展やゲンビで出会った若い作家と共に具体美術協会を創立。グループのリーダとして自らも制作を続ける傍ら、後進の指導にあたった。
「具体」結成から60年代中盤にかけて絵具物質感を強調した作品を発表していたが、後半になると円や線などシンプルなフォルムとモノトーンで構成する表現へと到達します。後に鮮やかな色彩で構成する作品に展開を見せ始めたころ急逝。67歳でした。この1972年、具体美術協会は解散します。

田中敦子《電気服》1956/86年 高松市美術館蔵

田中敦子《無題(3.4.8.9)》1956年 中之島美術館蔵 (大阪中之島美術館での展示風景)Ⓒ椿シャタル

会場に入るとスイッチが設置されています。押すと、けたたましいベルの音が鳴動する田中敦子の作品《ベル》です。1950年代、田中敦子はコラージュや切れ込みを入れた黄色の木綿布、電球や管球が点滅する服状の立体など実験的な制作を試み注目され、国内外から高い評価を得ています。

松谷武判《繁殖 65-24》1965年  国立国際美術館蔵 

画像: 元永定正《作品》 1962年  東京都現代美術館蔵

元永定正《作品》 1962年  東京都現代美術館蔵

「分化」をテーマとして構成する中之島美術館では、「具体」は多様であるという結論を導き出すことではなく、多様であることは前提とし、どのような表現が受け容れられてきたのかを最大限可視化することで、「具体」というグループの本質にせまる試みがなされています。

画像: 山崎つる子《作品》1957/2001年 芦屋市立美術博物館蔵 (大阪中之島美術館での展示風景)Ⓒ椿シャタル

山崎つる子《作品》1957/2001年 芦屋市立美術博物館蔵 (大阪中之島美術館での展示風景)Ⓒ椿シャタル

画像: 向井修二 《記号化されたトイレ》2022年 本展のためのインスタレーション (大阪中之島美術館での展示風景)Ⓒ椿シャタル

向井修二 《記号化されたトイレ》2022年 本展のためのインスタレーション (大阪中之島美術館での展示風景)Ⓒ椿シャタル

1966 年、「ジャズ喫茶 チェック」は、向井修二の無意味な記号で全面が埋め尽くされました。今回は大阪中之島美術館5階・男女お手洗いに、その場所は移され、無意味な記号で埋め尽くされています。作者にとって記号化とは「価値の上塗り」だといいます。記号で侵食された5階男女トイレもチェックしてみてください。向井修二の代名詞、「記号化」は対象を選びません。本展で記号化のターゲットとなったのは中之島美術館の菅谷富夫館長。全身が記号で覆いつくされた5体のアバターは、まるで観客を案内し出迎えるかのような表情で館内各所に展示されています。

向井修二《アバター 1, 2, 3, 4, 5》 2022 年 *頭部制作:井上智也 (大阪中之島美術館での展示風景)Ⓒ椿シャタル

テーマの「分化」を担っている中之島美術館では、個々の視点で検証を試みるにあたりいくつかの傾向を見出し、第1章「空間」、第2章「物質」、第3章「コンセプト」、第4章「場所」という4つのキーワードを設定して「具体」のオリジナリティについて考察を進める構成となっています。

元永定正《作品(水)》1955/2022年 本展のための再制作 (大阪中之島美術館での展示風景)Ⓒ椿シャタル

1956 年の野外具体美術展で発表された作品(水)は、吉原治良から「水の彫刻」と称賛を受けまし
た。本展のために再制作された、色とりどりの水がパッサージュの吹き抜けを彩ります。

■「インターナショナル スカイ フェスティバル」の再現!

「インターナショナル スカイ フェスティバル」とは、1960 年に具体が 大阪・なんば髙島屋の屋上で実施した展覧会。「具体」の会員や海外の作家に よる下絵を拡大して描き、アドバルーンに吊って空中に展示しました。 大阪中之島美術館では 、この空中展覧会、「インターナショナル スカイ フェスティバル」の再現 が行われます。展示は当時の発表内容とは異なりますが、美術館の屋上から7球の アドバルーンが掲揚される予定です。大空での展覧会を体感してみてください。
⚫ 開催日時 2022 年11月15日(火)~20日(日)10:00~17:00
⚫ 会場 大阪中之島美術館(屋上から掲揚)

GUTAI「統合」編

具体は、少なくともその出発点においては、「画家」集団でした。時代が下るにつれ多様化していく造形実践の数々も、もとをたどれば、絵画という規範からの自由をめざした結果と言えます。問題は絵画らしさをいかに解体し再構築したか、です。絵画「らしさ」をどう捉えているのか、また、それを解体してなお絵を描こうとするのか否かで、導き出される新しさはおのずと変わってくるでしょう。国立国際美術館では、マクロな視点に立って具体のあゆみを眺め、さまざまに展開される問いなおしの作業に、いくつかの傾向を見出そうと試みます。必ずしも⼀枚岩でないこの集団の、内なる差異をあぶりだし、そのうえで「統合」してみせることがこの会場の主な⽬的とされています

画像: 白髪一雄《天雄星豹子頭》1959年 油彩、カンヴァス 国立国際美術館蔵 白髪一雄《赤い丸太》1955/85年 ペンキ、木 10点組 兵庫県立美術館蔵(山村コレクション) (国立国際美術館での展示風景》Ⓒ椿シャタル

白髪一雄《天雄星豹子頭》1959年 油彩、カンヴァス 国立国際美術館蔵
白髪一雄《赤い丸太》1955/85年 ペンキ、木 10点組 兵庫県立美術館蔵(山村コレクション)
(国立国際美術館での展示風景》Ⓒ椿シャタル

「統合」がテーマの国立国際美術館では、1「握手の仕方」、2「空っぽの中身」、3「絵画とは限らない」の章に沿って構成されています。上の写真は撮影可能な「イントロダクション」のエリア。

山崎つる子《Work》 1960年  国立国際美術館蔵

兵庫県芦屋市生まれの山崎つる子は1946年、吉原治良の美術講座を聴講したことを契機に、アトリエを訪ね指導を受けます。初期はアルミやブリキを支持体に金属のきらめきを際立たせた制作を精力的に行った。1950年後半はミシェル・タピエの助言により支持体をカンヴァスに移行。特に1960年代の作品には余白が見当たらないほど、たくさんのフォルムで画面が埋め尽くされています。フォルムと色彩が氾濫する画面はタピエにコンフュージョン(混乱)と高く評価されたと言われています。

画像: ヨシダミノル《JUSTCURVE '67 Cosmoplastic》 1967年  高松市美術館蔵 (国立国際美術館での展示風景》Ⓒ椿シャタル

ヨシダミノル《JUSTCURVE '67 Cosmoplastic》 1967年  高松市美術館蔵 (国立国際美術館での展示風景》Ⓒ椿シャタル

画像: 村上三郎《あらゆる風景》1956/92年頃 個人蔵 (国立国際美術館での展示風景)Ⓒ椿シャタル

村上三郎《あらゆる風景》1956/92年頃 個人蔵 (国立国際美術館での展示風景)Ⓒ椿シャタル

国立国際美術館の最後に再び現れる、村上三郎の作品「あらゆる風景」が、この展覧会のプロローグからエピローグを演出されているように映ります。「具体」の活動拠点であった大阪・中之島で開催される、大阪中之島美術館、国立国際美術館の2館同時開催の大規模な展覧会は展示総面積約 3,000 ㎡・出品総点数約 170 点。ゆっくり時間をかけて「具体」の世界を感じたい大規模な展覧会です。

開催概要

◆大阪中之島美術館 国立国際美術館 
 共同企画 すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合

【会期】 2022年10月22日(土)~2023年1月9日(月・祝)
【開場時間】10:00~17:00*国立国際美術館は金曜・土曜 20:00 まで(入場は閉場の 30分前迄)
【休館日】月曜日(但し、1月9日(月・祝)は両館開館
     1月2日(月・休)は大阪中之島美術館のみ開館)
*大阪中之島美術館は12月31日(土)、1月1日(日・祝)休館
*国立国際美術館は 12月28日(水)~1月3日(火)休館 
【会場】 大阪中之島美術館 5 階展示室 、国立国際美術館 地下 2 階展示室
【観覧料】2館共通券 2500円
大阪中之島美術館  ⼀般 1,400円 大学生1,100円
国立国際美術館   一般 1,200円 大学生 700円
※高校生以下・18 歳未満無料(要証明)
※国立国際美術館のみ夜間割引料金があります(対象時間:金曜・土曜の 17:00-20:00)
【問い合わせ】 大阪中之島美術館の展示について:06-4301-7285(大阪市総合コールセンター)
国立国際美術館の展示について:06‐6447‐4680(代)
【各館公式ホームページ】
大阪中之島美術館:https://nakka-art.jp/exhibition-post/gutai-2022/
国立国際美術館:https://www.nmao.go.jp/events/event/gutai_2022_nakanoshima/

シネフィルチケットプレゼント

下記の必要事項をご記入の上、「 GUTAI 分化と統合」シネフィルチケットプレゼント係宛、メールでご応募ください。抽選で3組6名様に、招待券をお送りいたします。
この招待券は非売品です。転売業者などに転売されませんようによろしくお願い致します。
応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
★応募締め切りは2022年11月20日 日曜日 24:00
記載内容
☆.・。☆.・。☆.・。☆.・。☆.・。☆.・。☆.・。☆.・。☆.・。☆.・。☆.・。☆.・
1、氏名 
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の郵便番号、電話番号、建物名、部屋番号も明記)
4、ご連絡先メールアドレス
5、記事を読んでみたい映画監督、俳優名、アーティスト名
6、読んでみたい執筆者
7、連載で、面白いと思われるもの、通読されているものの、筆者名か連載タイトルを、ご記入下さ  い(複数回答可)
8、よくご利用になるWEBマガジン、WEBサイト、アプリを教えて下さい。

★シネフィルのこの記事または別の記事でもSNSでのシェアまたはリツイートをお願い致します★

This article is a sponsored article by
''.