11 月 12 日(金)より渋谷ユーロスペース、池袋シネマ・ロサ、キネカ大森、 イオンシネマ他にて全国順次公開となる仲村トオル×杉野希妃×斎藤工×中村ゆり等の出演、鬼才・万田邦敏監督待望の新作となる『愛のまなざしを』。
この度、公開にあたって、今作の脚本を手がけられた万田珠実さんによる集中連載が、「シネフィル」で掲載されることとなりました。
制作の裏側などを交えた、公開までの制作日誌となります。
第三回 クランク・イン
2019年9月1日(日)
いよいよ撮影が始まりました。
この日の現場は一戸建てのスタジオで、一階部分を貴志と綾子の新居として、地下の部屋はクリニックの診察室として使用しました。私は朝が苦手なので、連日、皆さんと同じ時間ではなく数時間遅れて撮影現場に行ったのですが、この日到着した時には、綾子の診察シーンが撮影されていました。
とにかく、この日の撮影はすごかった。監督はまるで何かが降りてきたかのように、まったく考える間もなく次々とカット割りをし、助監督の張元さんはそれをテキパキと段取り、カメラの山田さんと照明の玉川さんが素早くセッティングしていく。皆が集中し、一切の無駄と緩みがなく、猛スピードで走り続けているような撮影が、朝の9時から夜の11時まで続いていたようです。私は見ているだけで疲労困憊で、こんなことがあと12日間続くなんて体力が持たないと思い、皆さんが片付けている間に先に失礼いたしました。
あとになって振り返れば、これほどの密度で撮影したのはこの日が一番だったのですが、のちに監督に聞いたところ、間に撮休を1日挟んだ全12日間というタイトなスケジュールだったので、とにかく取りこぼしを出さないよう早く撮ろうと考えていたのだそうです。助監督さんも、クランク・イン直後の方が気力も体力もあるから、そういうスケジュールを組んでくれていたのでしょう。1日目にそのペースをこなしたことで、次の日からは少しペースを落とし、疲れが溜まった終盤には早めに引き上げる日もできたのだと思います。
ところで、貴志の診察室には、壁に絵がかかっています。一見抽象画のようですが、これは六本木の隧道を描いたもので、作者は昔、監督が仕事でお世話になっていた南川博さんという方です。残念なことに10年以上前に故人となられてしまいましたが、南川さんは斎藤工さんのお父さんとも仕事仲間で、その縁で監督は小学生の頃の工さんに会っています。
撮影現場で工さんとお会いして南川さんの話になった時、工さんは「僕も南川さんの絵を持っているんですよ」と言って、コーヒーカップの絵の写真を、私に見せてくれました。シンプルなようで味のある線と、独特で鮮やかな色使いが、まさに南川さんの絵だと思いました。
この映画の中では診察室の他にも、クリニックの受付カウンターの後ろの大型の絵と、祐樹の部屋の机の上の小振りの2枚1組の絵を使わせていただいています。南川さんの絵は、私達にとって特別な意味があったのです。
映画内にトンネルの絵を使うことになった経緯は、もう一つありました。当初、ラストシーンの舞台は横断歩道でした。しかし、撮影のことを考えると横断歩道はロケがたいへんそうなので、代わりにトンネルにしようということになったのです。そうなってみると、トンネルは“あちら”と“こちら”の境界にあるものとして、まさにこの作品の象徴としてふさわしいと、そう気付きました。そしてふと見れば、うちの廊下にはまさにそのトンネルの絵が…。そうなんです。作品で使わせていただいた南川さんの絵は、どれも我が家にあるものなのでした。
「愛のまなざしを」予告編
【STORY】
亡くなった妻に囚われ、夜ごと精神安定剤を服用する精神科医・貴志のもとに現れたのは、モラハラの恋人に連れられ患者としてやってきた綾子。恋人との関係に疲弊し、肉親の愛に飢えていた彼女は、貴志の寄り添った診察に救われたことで、彼に愛を求める。いっぽう妻の死に罪悪感をいだき、心を閉ざしてきた貴志は、綾子の救済者となることで、自らも救われ、その愛に溺れていく…。しかし、二人のはぐくむ愛は執着と嫉妬にまみれ始めるのだった――。
出演:
仲村トオル 杉野希妃 斎藤工 中村ゆり 藤原大祐
万田祐介 松林うらら
ベンガル 森口瑤子 片桐はいり
監督:万田邦敏
脚本:万田珠実 万田邦敏
公式HP:aimana-movie.com
Facebook:aimana.movie
Twitter:aimana_movie
instagram:aimana_movie