『かくも長き道のり』
スターの卵が帰郷したところから始まるサスペンス風味の人間ドラマ。
よくある原作を脚色した作品ではないせいか、ありきたりのストーリー展開となってないところが良い。監督は30年以上テレビで仕事をし、報道番組のプロデューサーをつとめ、本作が初の劇場劇映画となる屋良朝建。
2017年伊参(いさま)スタジオ映画祭シナリオ大賞審査員奨励賞を受賞した脚本を基に映画化された。ちなみに、伊参スタジオ映画祭とは群馬県吾妻郡中之条町で1998年にスタートした映画祭が、2003年からシナリオを募集し、大賞受賞作品を中之条町周辺で撮影し、翌年の映画祭で初公開するというもの。もともとは小栗康平監督の「眠る男」の撮影地として旧町立第4中学校が使用されたことに端を発しており、ホームページによると、“若手映像作家に作品製作を働きかけ、その作品を発表してもらうために、中之条町周辺にて映像化を前提とした中編・短編シナリオ公募を2003年より行っており、大賞受賞作品(中編・短編、各1本)は応募者自らが映像化、翌年の映画祭にて初公開される”とのこと。
スターの卵、彼女を尾行している怪しい男、彼女との関係がいまいち不明な謎の男、彼女の幼なじみで移動図書館で働いている若者。四人の主要人物が織りなしていく田舎町の一夏のちょっと変わった経験を、テンポよく綴ってあり、好感が持てる。
駆け出しの女優椎名遼子が四ヶ月ぶりに帰郷したのには訳があった。ようやくドラマのレギュラーが決まったというのに、彼女を尾行するストーカーがいること、もう一つは自分を育ててくれた恋人の村木順次に会うためだ。順次は25歳も年上で、元はプロの賭博師。所属事務所からは彼と別れるように言われている。そんな彼女をそっと陰からカメラに収める怪しい男がいた。旧知の正太が軽トラックで通りかかり、彼女を墓場に連れていく。ここで彼女はかつて演劇のまねごとをしたことがあり、いわば原点のような場所だったという。順次の家はログハウス風で、いかにもアットホームな雰囲気だが、彼女を見た順次はさほど喜ばない。
別れを告げるはずなのに、その踏ん切りがつかない遼子ときっぱりと別れるつもりの順次。二人の掛け違った思いが、ストーリー展開にひねりを加えて見る者の興味をひっぱっていく。遼子は養護施設出身で正太とは幼馴染という間柄で正太は彼女にずっと恋していたが、遼子には順次がいた。カメラを持った怪しい男は事務所が派遣したマネージャーの田代で、遼子に順次との決別を迫る。マネージャーをめぐる描写はコミカルな要素を含み、正太のおぜん立てした昔の仲間との会合で移ろいやすい人の心があらわになっていく。クライマックスのサスペンス描写はなかなかのもので、遼子を包む順次の大人の愛をしめすラストは見る者の心に余韻を残す。
遼子役は「黒崎くんの言いなりになんてならない」(16)に出ていた北村優衣で、本作が初主演。順次を「図書館戦争」(15)のデビット伊東、正太を宗綱弟が演じている。
北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。
映画『かくも長き道のり』予告
北村優衣 デビット伊東 真瀬樹里
坂本充広 宗綱 弟 山家浩 佐藤ザンス
影山徹(劇団子供鉅人) 井上和奏 沖ちづる
見目真菜 瀬戸伸恵 黒岩幸四郎
監督/脚本:屋良朝建
プロデューサー :吉田紀子
助監督:古山洋輔 森健二郎
撮影:原巌 撮影助手:長坂 正文 新里 勝也
DIT:土場博昭 録音:岡本 洋平 編集:野村皓平 カラリスト:織山臨太郎
音響効果:岡林亜実 整音:小川武 美術:三宅舞 田河花織
衣裳・ヘアメイク:山崎惠子 振付:見目真菜
制作:瀬戸伸恵 見目真菜 柿沼佳音 黒岩幸四郎 染谷夏純