このたび、前ルーヴル美術館絵画部長であり、東京富士美術館開館記念で尽力した故ルネ・ユイグ氏への追悼と感謝の意を込めて、「フランス絵画の精華 ルネ・ユイグのまなざし」が開催されることになりました。
ルネ・ユイグ(1906-1997)は、20世紀を代表する美術史家のひとりで、1937年31歳の若さで、ルーヴル美術館の絵画部長に就任し、現在のルーヴル美術館につながる展示室の再編と、近代的な美術館への変革に大きく貢献し、また、日本においては、1983年に東京富士美術館の名誉館長に就任し、同館で開催された開館記念「近世フランス絵画展」の実現にあたり、またその後も、数々の日本の観衆を魅了する展覧会の開催に尽力しました。

本展ではフランス絵画の最も偉大で華やかな300年を展望します。
17世紀の古典主義から18世紀のロココ、19世紀の新古典主義、ロマン主義を経て、印象派誕生に至るまでの壮大なフランス絵画の変遷をたどる展覧会です。

ヴェルサイユ宮殿美術館やオルセー美術館、大英博物館、スコットランド・ナショナル・ギャラリーなど、フランス、イギリスを代表する20館以上の美術館の協力のもと、油彩画、素描あわせて約80点の名品が集結しました。

本展は、東京、九州で好評を博し、大阪での開催が最終となります。
是非この機会に、厳粛な古典主義のニコラ・プッサン、貴族文化を描き、ロココのはじまりとなったジャン=アントワーヌ・ヴァトーなどの名画を通して、華麗で優雅なヨーロッパ絵画の源流ともなったフランス絵画をご鑑賞ください。
それでは、展覧会の構成に従って、代表作品を見ていきましょう。

Ⅰ大様式の形成、17世紀:プッサン、ル・ブラン、王立美術アカデミー

「大様式」とは、フランス美術の基礎となりその祖型となった、17世紀フランスフランス古典主義美術の意味で、フランス近代国家の礎を築いたルイ14世を「大王」と呼ぶことに倣ったものです。
フランスは、ルイ14世の王立絵画彫刻アカデミーのもと、イタリアから古代文学や聖書を主題にした歴史画の形式を、北方美術からは写実的、描写的表現を学び、新しい美術を形成していきました。

なかでもニコラ・プッサンは、フランス美術の古典主義の形成に最も重要な役割を果たしました。 彼は、厳粛にして抒情的でもある様式で、「物語る(ナラティフ)」絵画を制作して、歴史画家の理想とされました。彼によって、歴史画をあらゆる絵画の最高位として位置づけ、色彩よりデッサンを重視する大様式が生まれたのです。
こうしてプッサンは、王立美術アカデミーを創設する若い画家たちの手本となります。
また、シャルル・ル・ブランは、プッサンの絵画観に基づいてアカデミーの理念を明確にすることに貢献しました。

画像: ニコラ・プッサン 《コリオラヌスに哀訴する妻と母》 1652-1653年頃 油彩・カンヴァス、116 × 196 cm レザンドリー、ニコラ・プッサン美術館 © Christophe Deronne

ニコラ・プッサン 《コリオラヌスに哀訴する妻と母》 1652-1653年頃 油彩・カンヴァス、116 × 196 cm 
レザンドリー、ニコラ・プッサン美術館 © Christophe Deronne

プッサンは、『ローマ建国史』や『英雄伝』で語られている古代ローマの将軍のエピソードを描きました。
本作は、王政から共和制に変わったローマで政争に敗れたコリオラヌスが、ローマから追放され、隣国の部族に加わり、軍の指揮を任されて、ローマの攻撃に向かおうとしていますが、妻と母が戦いを辞めるように哀願しているところです。
前景に人々を配置し、身振りや顔の表情を際立たせ、物語を視覚化させています。
母の手と剣が直角に交差し、緊迫感が伝わってくるようです。

画像: ジャック・ブランシャール 《バッカナール》 1636年 油彩・カンヴァス、138×115 cm ナンシー美術館 © Ville de Nancy –P. Buren

ジャック・ブランシャール 《バッカナール》 1636年 油彩・カンヴァス、138×115 cm ナンシー美術館 © Ville de Nancy –P. Buren

本作は、ブランシャールの良く知られている神話画です。
酒神であり、豊饒の神でもあるバッコスの祭儀を描いたものです。
このテーマは、ニコラ・プッサンをはじめ、ル・シュウールなどフランスの画家が1630年代に多く描きましたが、シャルル・ペローは、ブランシャールを「フランスのティツィアーノ」と呼び評価しました。

Ⅱヴァトーとロココ美術 ─ 新しい様式の創出と感情の表現

ルイ14世の治世晩年から、趣味と感性の変化が明らかになります。
国王自身もマントノン夫人の影響で、豪華で贅沢な生活よりも親密で穏やかな生活を好むようになり、美術がこうした新しい状況の影響を受けました。
こうした環境の中で、ジャン=アントワーヌ・ヴァトーは個人の幸福への願望を描いた最も独創的な画家で、アカデミーとは全く異なった新しい絵画のジャンルを創出しました。
歴史や物語を描いた絵画とは違って、明確な主題を持たない彼の絵画は、当時の美術愛好家から好評を博し、フランソワ・ブーシェやシャルル=ジョゼフ・ナトワールやカルル・ヴァン・ローによって18世紀半ばに最高潮に達するロココ美術への道を開きます。
一方で、ブーシェは牧歌的な作品(パストラール)を、ヴァン・ローはヴァトーの精神を受け継いだ風俗画を描いています。

画像: ジャン=アントワーヌ・ヴァトー 《ヴェネチアの宴》 1718-1719年頃 油彩・カンヴァス、55.9×45.7 cm エジンバラ、スコットランド・ナショナル・ギャラリー National Galleries of Scotland. Bequest of Lady Murray of Henderland 1861

ジャン=アントワーヌ・ヴァトー 《ヴェネチアの宴》 1718-1719年頃 油彩・カンヴァス、55.9×45.7 cm 
エジンバラ、スコットランド・ナショナル・ギャラリー National Galleries of Scotland. Bequest of Lady Murray of Henderland 1861

ヴァトーが創り出した新しい絵画は、「雅なる宴」の絵画で、パリのブルジョアジーたちが屋外に集い、親密に会話を交わす様を描くものです。
このイメージによって、ヴァトーは伝統的なアカデミーの様式とはかけ離れた新しいジャンルの創出者となりました。彼にとっては、古典的な文学を大様式に基づいて描くことではなく、身振りによって繊細な感情を表現することこそが重要だったのです。
本作はヴァトー屈指の傑作で、保存状態も良く、洗練された色彩が堪能できます。
ヴァトーは、豊かな自然の中で貴族が集い、会話や音楽、を楽しんダンスなどを楽しむ「雅宴画」を描きました。

画像: エリザベト=ルイーズ・ヴィジェ・ルブラン 《ポリニャック公爵夫人、ガブリエル・ヨランド・クロード・マルチーヌ・ド・ポラストロン 》 1782年 油彩・カンヴァス、92.3 × 73.6 cm ヴェルサイユ宮殿美術館 Photo © RMN-Grand Palais (Château de Versailles) / Gérard Blot / distributed by AMF

エリザベト=ルイーズ・ヴィジェ・ルブラン 《ポリニャック公爵夫人、ガブリエル・ヨランド・クロード・マルチーヌ・ド・ポラストロン 》
1782年 油彩・カンヴァス、92.3 × 73.6 cm 
ヴェルサイユ宮殿美術館 Photo © RMN-Grand Palais (Château de Versailles) / Gérard Blot / distributed by AMF

本作は、ヴィジェ・ルブランが描いた肖像画の中で最も魅力的な作品のひとつです。
画家は王妃マリー=アントワネットの友人で、フランス王家の養育係を務めたこのモデル、ポリニャック公爵夫人を少なくとも6回は描きました。
ヴィジェは、ルーベンスの絵画に感銘を受けていたので、美しい色彩はその影響を受けているのでしょう。

花のブーケのついた麦わら帽子や白いリンネルのフリルのついた部屋着、上に羽織った淵飾りのある黒いタフタ織のケープも優雅に描かれています。
陶器のような白い肌にバラ色に上気した頬もルーベンスの影響が感じられます。
少し開いた口に白い歯をのぞかせ、天使のような微笑みで、優しく語りかけてくる様子を見事に描いています。

Ⅲナポレオンの遺産 ─ 伝統への挑戦と近代美術の創出

フランス革命とナポレオンの対外戦争は美術にも影響を及ぼしました。
そこから生まれた新しく多様な様式は、19世紀を通じて美術を導いていきました。
さらに1789年から1874年(印象派の第一回展覧会の年)までは、過去の画家が忘却から蘇り再吟味されますが、ル・ナン兄弟やヴァトーはその例です。
ナポレオンと彼のエジプト遠征は美術家の想像力を刺激して、ブルジョアの趣味が牽引する社会で、近代美術を形成することに貢献しました。ダヴィッドは1780年代には大様式を再建しましたが、その後、皇帝の主席画家となってナポレオンを讃えるために、ル・ブランの精神に基づいて大作を生み出します。
ナポレオンがアンシアン・レジームを完全に打倒したように、ウジェーヌ・ドラクロワは、
アングルの偉大なライバルですが、アカデミーの原理に果敢に挑戦して、美術の新しい道を
開きました。豊かな想像力に満ちた彼の作品は、フランス絵画の転回点を示しています。
ドラクロワのおかげで、ギュスターヴ・クールベもエドゥアール・マネも自らの歩む道を見
つけたのです。当時の現代生活を描いた彼らの作品は、ヴァトーの「雅宴画」の変奏とも言
えるでしょう。

画像: ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 《オルレアン公フェルディナン=フィリップ、風景の前で》 1843年 油彩・カンヴァス、157×121.5cm ヴェルサイユ宮殿美術館 Photo © Château de Versailles, Dist. RMN-Grand Palais / Christophe Fouin / distributed by AMF

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 《オルレアン公フェルディナン=フィリップ、風景の前で》 1843年 油彩・カンヴァス、157×121.5cm
ヴェルサイユ宮殿美術館 Photo © Château de Versailles, Dist. RMN-Grand Palais / Christophe Fouin / distributed by AMF

古典主義の精神のもうひとりの代表者は、ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルですが、彼は非常に複雑であって、古典文学に進んで取り組んではいますが、再現する人物を単純化しデフォルメすることを好みました。そこにはおそらくラファエロ以前のプリミティフ美術や日本美術の影響があったのでしょう。かくして、アングルは抽象美術の始祖のひとりとも考えられるのです。
本作は、噴水からそれとわかるサン=クルーの公園を背景にオルレアン公爵を描いています。直立する姿勢と弧状の両腕のシルエットが抽象的ともいえる美しさを演出し、威厳ある公爵の姿勢を引き立てるように、斜線上に風景が広がっています。

画像: ポール・ボドリー 《ウェヌスの化粧》 1858年 油彩・カンヴァス、136×84 cm ボルドー美術館 ©Musée des Beaux-Arts, Bordeaux, photo F.Deval

ポール・ボドリー 《ウェヌスの化粧》 1858年 油彩・カンヴァス、136×84 cm ボルドー美術館 ©Musée des Beaux-Arts, Bordeaux, photo F.Deval

美術の新しい潮流に対して、古典的な伝統は美術アカデミーの中に存続していました。
ジャン=レオン・ジェロームやウィリアム・ブグローに代表される「ポンピエ」と呼ばれるアカデミックな画家たちは、マネやクールベと同時代に活躍し、公衆からはマネや印象主義の画家たちよりはるかに大きな賞讃を受けました。
ポドリーの描いた本作は風景の中の裸婦という美術アカデミーのルネサンス以来の古典様式で、神話的な主題を描いています。
つがいの鳩と真珠の飾りと鏡はウェヌスの、弓と矢はアモルの表徴物です。

伝統的な古典主義から、ロココ、新古典主義、ロマン主義をたどるフランス絵画の旅をご堪能いただけましたか?
「フランス絵画の精華 ルネ・ユイグのまなざし」美術館で優雅で華やかなひとときをお過ごしください。

展覧会概要

タイトル:「フランス絵画の精華 ルネ・ユイグのまなざし」
会 期:2020年5月26日(火)~8月16日(日)
公式サイト:https://www.osaka-art-museum.jp/sp_evt/france 
開館時間:9時30分~17時(入館は16時30分まで)
休館日:月曜日(5月4日は開館)および6月16日(火)、17日(水)
会 場:大阪市立美術館
(〒543-0063 大阪市天王寺区茶臼山町1-82【天王寺公園内】 )
問い合わせ:大阪市総合コールセンター なにわコール
06-4301-7285(年中無休:8時~21時)
主 催:大阪市立美術館、東京富士美術館、読売新聞社、読売テレビ
特別協賛:東日印刷
協 賛:大和ハウス工業、アクセンチュア、三井住友信託銀行、光村印刷
後 援:外務省、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
特別協力:ヴェルサイユ宮殿美術館
協 力:ヤマトグローバルロジスティクスジャパン
観 覧 料 :一般 1,400円(1,200円)、高大生 900円(700円)
※当面の間、団体での入場はお断りさせていただきます。
※中学生以下、障がい者手帳などをお持ちの方(介護者1名を含む)は無料(要証明)
※本展は、大阪市内在住の65歳以上の方も一般料金が必要です。

「フランス絵画の精華   ルネ・ユイグのまなざし」@大阪 シネフィルチケットプレゼント

下記の必要事項をご記入の上「フランス絵画の精華  ルネ・ユイグのまなざし」@大阪cinefil チケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、ご本人様名記名の招待券をお送りいたします。
記名ご本人様のみ有効の、この招待券は、非売品です。
チケットの転売は禁止です。
☆応募先メールアドレス info@miramiru.tokyo
*応募締め切りは2020年6月29日 月曜日 24:00
記載内容
1、氏名 
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
  建物名、部屋番号のご明記がない場合、郵便が差し戻されることが多いため、
  当選無効となります。
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   また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせて頂きます。

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