フランス北東部、アルザス地方の中心地ストラスブールは、ドイツ国境に近く、フランスとドイツの文化が融合された都市です。
世界遺産にも登録されたこの都市は、10館もの美術館や博物館を擁していますが、なかでも1998年に開館したストラスブール美術館は、印象派から現代美術までを網羅した約18,000点に及ぶコレクションを誇り、その規模はフランス国内でも屈指の美術館として知られています。
このたび、姫路市制施行130周年記念・國富奎三コレクション受贈 25 周年記念として、「ストラスブール美術館展 印象派からモダンアートへの眺望」が姫路市立美術館において、2019年11月12日から2020年1月26日まで開催されることになりました。
本展では、印象派の巨匠・モネや、シスレーをはじめ、ポスト印象派のゴーギャン、新印象派のシニャック、象徴主義のカリエール、そしてモダンアートを代表するピカソ、カンディンスキーなど名だたる画家たちの名画、約100 点が一堂に会しています。
フランスの公立美術館における最初のコレクションとなったキュビスムの巨匠・ジョルジュ・ブラックの貴重な作品や、ジャン・アルプに代表されるアルザス地方ゆかりの画家の作品も紹介されています。
印象派の情緒豊かな風景画や、斬新で現代的なモダンアートの数々を是非、この機会にご鑑賞ください。
また、姫路市立美術館では、併せて國富奎三コレクション受贈25周年を記念し、同コレクションよりルノワールの《母性》(素描、1885年頃)や、モダンアートの旗手・マティスの連作版画『ジャズ』の全20点も公開されています。
ストラスブール美術館展は、「近代性」(モデルニテ)に焦点を当て、「印象派とポスト印象派」、「近代絵画におけるモデルのかかわり」、「アヴァン=ギャルド」の3つの章で構成されています。
シネフィルでも展覧会の構成に沿って、いくつかの作品を紹介いたします。
第1章 印象派とポスト印象派
19世紀後半、当時のアカデミズムに反抗したモネ、ピサロ、ルノワール、セザンヌらの
若い画家たちは、自由に作品発表を行うためのグループを結成し、1874年展覧会を開催しました。
「印象派」の由来は、同展に出品されたモネの《印象、日の出》を嘲笑されて、名付けられたものでした。
印象派の画家たちは、明るい戸外で、光を受けた空や水辺、樹々を明るい色彩で描きました。
また、刻一刻と変化する自然の情景を描写しました。
シスレーは、1862年、ルノワール、モネ、パジールらと出会って、次第に印象派の手法で描くようになりました。
シスレーの描く風景は、凛として澄んだ空の青さが印象的で、光によって形態をぼかしすぎず、明確に描いています。
緑の濃淡で描かれた草原と青い空、白い雲のコントラストが美しく、シスレーらしい穏やかな風景が描かれています。
パリに生まれ、ル・アーヴルに移り住んだモネは、ピサロ、ルノワール、シスレーらとともに戸外での作品制作に励み、印象派の中心的画家として光の技法を発展させました。
本作はモネが晩年移住し、以後生涯を通して魅せられたパリ郊外のジヴェルニー周辺の風景を描いたものです。
モネは一日のいろいろな時間帯に、このひなげし畑の移ろいゆく風景を描き、その5つの連作を仕上げました。
本作はそのうちの1つです。
光を受けて輝き咲き誇る花々をとても繊細な筆使いで描いていて、まさに印象派の巨匠・モネの円熟期の作品と言えるでしょう。
南国の果実と野菜が鮮やかな色彩で描かれ、後のゴーギャンの特色である黒い線の縁取りが見られます。
また、これに対比させて、後景には単色のドラクロワの《エスキース》の複製画を描いています。
ゴーギャンはタヒチの自然の楽園の豊かさを愛し、表現したかったのでしょう。
シニャックは、初期にはモネの影響を受けた作品も描いていますが、スーラと交友があり、イギリスの美術批評家ジョン・ラスキンの理論や色彩論を参考にしながら、スーラとともに、光と色彩の科学的な絵画理論、分割主義を構築し、新印象派の代表画家となりました。
この作品は、船が港に寄港する夕暮れの情景をとらえたもので、シニャック晩年の作品です。
青色とバラ色の点描で彩られた山や空、港、水面、船が、夕日を受けてオレンジや黄色で光り輝く様子が美しく描かれています。
まさに夕暮れの印象的な瞬間を、切り取ったような作品です。