竹内洋介監督初長編映画『種をまく人』は、第57回テッサロニキ国際映画祭で日本人では史上 3人目の最優秀監督賞、さらに撮影当時11歳だった竹中涼乃が史上最年少で最優秀主演女優賞を受賞し。その後様々な国際映画祭で評価されロサンゼルス・アジアン・パシフィック映画祭ではグランプリ・最優秀脚本賞・最優秀主演男優賞(岸建太朗)・ヤングタレント賞(竹中涼乃)の4冠を獲得した。
第57回テッサロニキ国際映画祭で最優秀監督賞(ブロンズアレクサンダー賞)と最優秀主演女優賞(竹中涼乃)のW受賞。 日本人の最優秀主演女優賞受賞は2人目で竹中涼乃の11歳での受賞は歴代最年少。
日本人の最優秀監督賞受賞は1992年の『死んでもいい』(監督:石井隆)、1995年『おかえり』(監督:篠崎誠)に続いて3人目。
オランダの画家ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの人生と、東日本大震災の翌年に生まれたダウン症の少女との関わりによって生まれた本作は、観る者の心を揺さぶり、人間の心に潜む闇を残酷なまでに抉り出す。そして障害者を抱える家族の苦悩と葛藤を通して、個性とは何か、生きるとは何かといった全ての人間が抱える問題を、一人の寡黙な少女が犯した罪とそれを取り巻く大人たちの姿から追い求めていく。
主演を演じるのは井口昇監督作品でお馴染みの岸建太朗。本作では撮影監督も務めマルチな才能を発揮した。少女・知恵を演じる竹中涼乃は本作が長編映画初主演でありながら真に迫る演技を見せ、世界中の人々の心を魅了した。父・裕太を演じるのは多くの巨匠監督の作品に出演している実力派俳優・足立智充。本作でも自然体ながら揺るぎない実力を発揮した。母・葉子役には、映画やドラマ、CMなどでも幅広く活躍する元宝塚歌劇団の中島亜梨沙。他にも本格派俳優が脇を固め、映画に重厚感を与えている。 本作の主人公・光雄は悲しみの最中、ひたすらひまわりの種を植え続ける。やがてその行為に没頭するうちに、主人公はその意味すらも忘れてしまう。そこにはもう、悲しみも喜びも存在しない。あるのはただ、種を植えるという行為、その種がのちに花開くという自然本来の営みと、 その事実のみになる。 時の流れは人の感情を変える。重くのしかかる日常の時間から一歩踏み出した時、そこに在る時間に救われることがある。絶望の中にある少女・知恵と父・裕太が最後にたどり着いた結論の先に、かすかな光が垣間見れる。
日本映画史に残る最も美しいラストシーンと呼ばれたエンディングは、きっと多くの人々の心を魅了することだろう。
第57回 テッサロニキ国際映画祭 最優秀監督賞/最優秀主演女優賞
第27回 ストックホルム国際映画祭ディスカバリー部門正式出品
第35回 ファジル国際映画祭パノラマコンペティション部門正式出品
第33回 LAアジア太平洋映画祭 最優秀作品賞/最優秀脚本賞/最優秀主演男優賞/ベストヤングタレント賞 第17回 フランクフルト・ニッポンコネクション映画祭正式出品
第12回 オランダ・カメラ・ジャパン映画祭2017正式出品
第13回 大阪アジアン映画祭正式出品
第17回 アイルランド日本映画祭正式出品
竹内洋介監督メッセージ
映画『種をまく人』は、長年追い求めてきたヴィンセント・ヴァン・ゴッホの人生と、東日本大震災の直後に被災地で見た一輪のひまわり、そして震災の翌年に誕生したダウン症の姪との関わりによって生まれました。 2011年夏、私は友人とともに東北の被災地を訪れました。東日本大震災の津波によって倒壊 した家屋や木々、津波の威力を物語る瓦礫の山を前に私たちは打ち拉がれ、荒廃した土地をただ黙って歩き続けました。一体どれくらい時間が経ったのでしょう。疲れ果てて腰を降ろすとそこに一輪のひまわりが咲いていました。誰かが植えたものなのか、波に流された種が自生したものなのかは分かりません。ただ一つだけ確かなのは、そのひまわりが私の心に何かを残したという事実だけでした。「津波は多くのものを奪い去ったが、この花は津波が運んで来たものなのかも知れない。」そう思うと、ひまわりとの出会いが特別なことのように感じられました。 そして撮影の年の6月、私たちは、宮城県仙台市の若林地区に約 2000粒のヒマワリの種を植えました。震災の傷跡を残した状態の荒れた果てた土地を一から耕し、肥料を撒き、種を植えました。 その後も定期的に若林地区を訪れ、草引きや追肥、水やりを行い、そんな育成作業は本編の撮影開始ぎりぎりまで続きました。やがて度重なる危機に瀕しながらもひまわりは育ち、開花を迎えた 8月の半ば、無事にラストシーンを撮り終えることが出来ました。 早いもので震災から8年が経過しました。時の流れは景色を変え、人の感情もゆっくりと変えていき、やがて震災での記憶を薄れさせていきます。私たちが種を植えた場所の周辺は、復興事業の工事によって土が運ばれ、現在は見る影も残されていません。しかし、過ぎ去った記憶や失われた光景は、私たちの映画の中に確かに残されています。35ミリフィルムの中に刻み込まれたその失われた光景を、一人でも多くの方々に届けたいと願っております。 そして撮影当時3歳だったダウン症の姪も、今年7歳を迎えました。同じ年代の子供たちと比べると成長のスピードがゆっくりではあります。それでも彼女なりのペースで感情の表し方を覚え、コミュニケーションの取り方を身につけ成長しています。 彼女の屈託のない笑顔は、本当に私たちの心を癒してくれます。彼女の無垢な心、その笑顔に触れるたび、人間の存在価値とはいったい何なのか、生きるということは何なのか、といったことを考えさせられます。 映画『種をまく人』を通して、障害と個性、そしてそれを受け入れる家族や社会、人のあり方について今一度考えたいという欲求がこの映画を企画した目的でもあります。
そして今回、本作に出演しているダウン症の姪と、それを取り巻く人物たちの苦悩と葛藤を通して、個性とは何か、生きるとは何か、そういったことを少しでも考えるきっかけを持って頂ければ嬉しく思います。
『種をまく人』予告編
ストーリー
3年ぶりに病院から戻った高梨光雄(岸建太朗)は、弟・裕太(足立智充)の家を訪れる。再会を喜 ぶ姪の知恵(竹中涼乃)、その妹でダウン症の一希に迎えられ束の間の幸せを味わう光雄。その夜、知恵にせがまれた光雄は被災地で見たひまわりについて語る。知恵はその美しい景色を思い 浮かべながら、太陽に向かって咲くひまわりと、時折ふと空を見ている愛しい一希の姿とを重ね会わせるのだった。 明くる日、知恵は光雄と遊園地に行きたい嘆願する。裕太と妻・葉子(中島亜梨沙)はそれを快く受け入れ、娘たちを光雄に預けるが・・・幸福な時間も束の間、遊園地で突然の不幸が訪れる。
岸 建太朗 足立 智充 中島 亜梨沙 竹中 涼乃
杉浦 千鶴子 岸 カヲル 鈴木 宏侑 竹内 一花
原 扶貴子 植 吉 ささき 三枝 高谷 基史
カウンミャットゥ
篠原 哲雄 植田 裕一 酒井 麻吏 小林 大介
川島 俊一 高木 公佑 吉野 愛生子
監督・脚本・編集:竹内 洋介
撮影監督:岸 建太朗 撮影・照明:末松 祐紀
録音:落合 諒磨 南川 淳 キャスティング:森 ゆかり
制作担当・助監督:島田 雄史
ヘアメイク:山崎 照代 渡辺 章子 高橋 亜友美 河村 夏海 宮本 圭歌
スーパーバイザー:山田 達也
制作管理:川島 真奈美 撮影助手:高嶋 正人 フィルム撮影助手:芳賀 俊
ケイタリング:竹内 幸男 竹内 洋子 赤星 孜 赤星 三枝子 島田 真美
整音:落合 諒磨 カラーグレーディング:星子 駿光
予告編英語字幕:松井 季里子 日本語字幕:久木元 真奈 本編英語字幕:山口 彩花
題字:金澤 翔子
ロケーションコーディネイト:埼玉県所沢市 本橋 啓司 水原 史貴 加藤 新一
制作プロダクション:K-Zone
宣伝プロデューサー:細谷 隆広
協賛:キンコーズ・ジャパン株式会社
推薦:公益社団法人東京聴覚障害者総合支援機構 東京都聴覚障害者連盟
©YosukeTakeuchi
1時間57分・アメリカンビスタ・DCP・2017)
配給:ヴィンセントフィルム