KADOKAWA×ハピネットが仕掛けるハイテンション・ムービー・プロジェクトの第二弾、高良健吾さん主演、安里麻里監督の『アンダー・ユア・ベッド』が7月19日(金)より公開となりました。
これまでにも『ヴァイブレータ』(03)、『凶悪』(13)、『私の男』(14)、『娼年』(18)など、数々の記憶に残る作品を生み出し、作り続けている、株式会社ハピネットの永田芳弘プロデューサー。そんな永田さんに、本企画が生まれた経緯や、制作過程でのエピソード、近年の映画業界のビジネスモデルの変化や宣伝について考えていることなどをお聞きしました。
◆気になる「ハイテンション・ムービー・プロジェクト」について
ーー「ハイテンション・ムービー・プロジェクト」の企画のはじまりを教えてください。
永田芳弘さん(以下、永田)
:「ハイテンション・ムービー・プロジェクト」は、KADOKAWAさんとハピネットの2社で角川ホラー文庫を原作にした映画を作るということで始動した企画でした。原作をいくつか読んで探している中で、僕らが考えていた尖ったジャンル(エロティシズムとバイオレンス)と近いものを、大石圭さんの原作を読んだ時に感じました。そうして、大石圭さん原作の中でも、この作品を映像化できたらきっと尖がったものができると思った、「殺人鬼を飼う女」と「アンダー・ユア・ベッド」の2作で企画を進めることを決めました。
ーーなぜ、尖ったジャンルの作品を作ろうと思ったのでしょうか。
永田:敢えて劇場公開規模は大きくせず、それにより作品の自由度を高くし、二次使用(配信・パッケージ)でも話題になる作品を作るという所が企画発端でもありました。なお、企画は2社で行っていますが、クリエイティブのイニシアティブは『殺人鬼を飼う女』はKADOKAWAさんで、『アンダー・ユア・ベッド』はハピネットになっています。
ーー永田さんが原作「アンダー・ユア・ベッド」に惹かれたポイントを教えてください。
永田:「アンダー・ユア・ベッド」は、まずは私が主人公の三井の心情がとてもよくわかったんです。そして、原作を読んだ人の感想をいろいろ調べてみると、女性の支持が高かったことがわかったんです。バイオレンス×エロスというジャンルだと、ターゲットは男性になりやすく、そういった作品は過去にいくつかあるのですが、それではビジネスとして勝てない。なので今作はターゲットを女性の方にも広げることが出来たら勝機があるのなと思いまして。。そこから女性の監督に演出してもらいたいと考えるようになりました。
ーーそして安里麻里監督にオファーをされたのですね。
永田:あれだけ凄惨な話を演出できる監督は一体誰なんだろう?と考えた時に、『呪怨 黒い少女』(09)を観てファンでもあり、オムニバス映画『鬼談百景』で1度一緒にお仕事をしたこともあった、安里麻里監督しか居ないと思いました。あと、不謹慎ながらも、彼女が描くバイオレンスが見てみたかったんです。観た人が「痛い」と感じるような演出をしてもらえるのではないかと。
ーーお話をした時、安里監督の反応はいかがでしたか?
永田:まずは原作を読んでもらったのですが、主人公の三井にすごく感情移入することができたようで、即答で監督を受けて頂けました。嬉しかったですね。でも、安里監督ご自身は暴力をどう描いたら良いのか、そして、バイオレンスと共にエロティシズムも描かなければいけなかったので、かなり迷われていたとは思います。
◆作品への想いと熱量が広がり伝わっていった、脚本と現場づくり
ーーそこからどのように『アンダー・ユア・ベッド』の内容を深めていったのでしょうか。
永田:まずは安里監督にプロットを書いてもらいました。上がってきたものは細かいところで僕が考えていた作品の方向性と違っていたんです。その違っていたところについて、何度も意見交換をしました。そうして話し合っていくうちに、安里監督が目指している「どうしてこの映画がやりたかったのか」という所がどんどん見えてきたんです。
でも、そこからが大変だったんです。製作費がローバジェットだったので、脚本に見合った現場をどう成立させようか、どう撮影をしようかという悩みも生まれてきました。監督が書いたプロットを持って、制作会社に相談したところ、その制作会社(ザフール)のプロデューサー(湊谷恭史さん)が加わってから、脚本作りも拍車がかかりました。
ーー脚本と予算を考えながら、現場づくりも進めていくのですね。
永田:本来ならば、予算内で映画を作るために、助監督が映画のシナリオを読んで「ここに予算がかかってしまうので、ここは削りましょう」みたいな話をするんです。今回も、その覚悟をして助監督との打ち合わせに行ったんですけど、「削っていったら話がどんどん小さくなってしまうので、出来るか出来ないかをまず検証してみます。なので、この段階では削らなくて大丈夫です」と言ってくれたんです。現場のスタッフが、安里監督の想いや熱量を感じてくれて、不可能を可能にしようと力を発揮してくれました。そういう熱量が、『アンダー・ユア・ベッド』の現場にはあったんです。
ーー安里監督と永田さんの作品への想いが伝わったんですね。
永田:今作での僕のプロデューサーとしての1番の仕事は、安里監督と制作プロダクションのプロデューサーと引き合わせたことだったんじゃないかなと思っています(笑)。
ーーこの制作会社の方なら「きっとこの作品のことをわかってくれる」みたいな所もあったのでしょうか?
永田:そうですね。僕がかれこれ14~15年付き合っているプロデューサーがいる制作会社なので。廣木隆一監督の『やわらかい生活』(06)で知り合って、最近では中村義洋監督の『残穢【ざんえ】-住んではいけない部屋-』(15)という作品も一緒に作りました。良いものを作ろうという想いがあって、それに対して現場予算を上手に管理して、ちゃんと画に反映させてくださる、非常に腕のあるプロデューサーです。
◆三井役に高良健吾さんが決まって、大きく動き出していった
ーー三井役に高良さんが決まった経緯を教えていただけますでしょうか。
永田:高良さんとは『M』(07)からお付き合いがあったので、またいつかご一緒したかったんです。まず脚本を読んで貰いました。オファーをしては見たけれど、これだけ尖がった作品で、R18で、変質者の役だったので、オファーを受けて頂けるかは正直わかりませんでした。しかし、ほぼ即答に近い形でお返事をいただけたんです。「ラストショットはどういう表情をしようか、どういう表情をしたらいいか」というところに興味をもってくれたようで、高良さんの出演が決まってから、映画が大きく動いていきましたね。
ーー千尋役の西川可奈子さんの芝居も素晴らしかったです。
永田:千尋役は暴力を受けるし、絡みのシーンもあるので、女優さんの負担が非常に大きく、腹をくくって現場に来てもらえないと成立しない役だと思っていました。幅広くオーディションを行い、みなさん素晴らしかったんですけど、助監督が「もうちょっと粘りましょう」って言った後にキャスティングディレクターが出してくれたのが、西川さんのプロフィールだったんです。その後、オーディションをさせていただき、芝居を見ている段階で「もうこの人しか居ない」と思って、オファーをさせていただきました。
ーー特に決め手となった西川さんの魅力を教えていただけますか?
永田:全ての現場には立ち会えなかったのですが、凄惨なシーンがある日は心配なのでケアのために現場に行ったんです。でも、そういう大変なシーンがある日でも、彼女が現場で一番明るかったんです。本番になるまで普通に平常心で居るのですが、「よーい、ハイ」って撮影がはじまると、役に入りきり芝居をはじめるんです。そして、カットがかかったらまたすぐ元に戻るので、スタッフも高良さんも気分的に助けられたと思います。今回、ボルテージの高い、テンションの高い作品ができたのは、西川さんが平常心で現場にいてくれたおかげだなとも思いました。
ーー健太郎役の安部賢一さんのインパクトも大きかったです。
永田:安部さんは、オーディションの時のオン・オフの切り替えが素晴らしかったんですよ。会場に入ってきたときは、腰が低くて穏やかな感じだったんですけど、暴力のシーンになると急に変貌しだしたんです。その切り替えが素晴らしかったのと、本当に怖かったんですよ(笑)。こんなに穏やかな人がこれだけ怖くなるんだ、と驚きました。あとは、オーディションの時の女優さんのケアが素晴らしかったんです。この人だったら安心して健太郎役をお任せできるなと思いました。
◆美術部・丸尾さんのアイディアで決まった福島ロケ
ーーなぜ今回、ロケを福島で行ったのでしょうか。
永田:撮影場所の話になった時に、美術部の丸尾(知行)さんが「福島県いわき市だったらセットを立てられます」と、提案してくださったんです。アパートのロケセットでの撮影となると、なかなか暴力シーンの撮影が難しいんです。できたらセットでやりたいという考えはあったのですが、ローバジェットだったので、僕から提案することは出来ず・・・。どうしようかと考えていた時に、丸尾さんがセットを立てることができる倉庫があることを教えてくれました。その場所が福島だったんです。
ーー美術部さんの提案からも、本作への想いが伝わってきます。
永田:あと、これは湊谷さんのアイディアだったのですが、こういうテイストの作品なので、東京で撮影を行うと、役者が家に帰ると安心して素に戻ってしまうことが多いので今回は、役者とスタッフのテンションを維持できるよう、いい意味で追い詰める環境をつくり、合宿状態で撮影を行いました。
ーー高良さんも先日のインタビューで、福島県いわき市のロケで撮影が出来て良かったとおっしゃっいてました。
永田:ホテルの周りも、車でなければ移動出来ないような本当に何もない場所でした(笑)。という大変だった記憶ばかりですが、監督の「なんとしてもやりたい、自分の映画にしたい」という熱い想いが、スタッフ・キャストに伝わった、本当に幸せな撮影現場だったと思います。
◆映画のビジネスモデルと宣伝方法の変化
ーー永田さんは、ここ数年の映画業界の変化をどのように感じていますか?
永田:簡単に言うと、10年前とは映画のビジネスモデルが変わってきています。2000年代の映画の作り方は、DVD、ブルーレイなどのパッケージが回収原資のウエイトを大きく占めていたんです。しかし、そのウエイトの割合がどんどん少なくなってきているので、まずは劇場の興行で勝たないといけない。とは言え、配信が新たな回収原資になったかというとなってない。また最近は、ますますハイバジェットのものと、ローバジェットのものと二極化しているなと思います。
ーーそれはどのようなところに影響が出てきているのでしょうか?
永田:ミドルクラスの作品が少なくなってきているんですよね。いわゆる全国で公開館数が100館から150館くらいの作品が。そもそもミドルクラスが一番回収しづらいんですけど、このクラスが映画のジャンルを豊かにしていたんですよ。
ーー2000年代はミドルクラスの作品がたくさんあった印象があります。
永田:一方で、劇場公開する本数は増えているんです。デジタル化になって撮りやすくなったので、ちゃんと上映されるインディーズ映画や自主制作映画もたくさん増えていて。映画の作り方のバリエーションが広がってきているので、本当に今は過渡期になっているのだと思います。
ーー最近だと『カメラを止めるな!』とか『愛がなんだ』の大ヒットもありましたもんね。
永田:『愛がなんだ』や『カメラを止めるな』は、作り手の意図していないところで流れができていて、それぞれ宣伝費のお金のかけ方も違うと思うんですよ。『カメラを止めるな』の大ヒットは口コミが大きかったと思うのですが、逆に「面白いものは広がるんだ」と、作り手側はもっと「面白いものに対して自信を持たなきゃいけない」という教訓にもなりました。『愛がなんだ』もそうだと思うのですが、どういう風に宣伝し、SNSで広がっていったかというのは興味があるので、検証したいと思います。
ーー近年大ヒットしている作品は、観た人がどんどん作品のファンになって、その人たちが広めていっているように感じますね。
永田:テレビや雑誌の宣伝は効果測定が難しいので、まずはターゲットをある程度絞って、ターゲットの人たちをどれだけ深堀りすることが出来るかということも大切になってくると思います。そして要らないものを捨てる覚悟も必要だと。あとは、かなりリスキーではありますが、最初の館数を1館とか10館からスタートする覚悟とかですね。作品内容や製作規模にもよりますが、今は過渡期なので、ビジネスモデルも、宣伝費を含めた製作体制も、いろいろ考えなおさなきゃいけない時期かもしれません。
◆『アンダー・ユア・ベッド』への想い
ーー今回の『アンダー・ユア・ベッド』に関しての宣伝は、宣伝部とどのようなお話をされたのでしょうか?
永田:SNSで、どこまで見せるべきかは、監督を含めしつこいくらい話し合いましたね。あと、あまりない事なんですが監督が自ら意見を出してくれたこともあって、メインビジュアルと予告編も素晴らしいものができて、解禁の時の反応が良かったんです。今回、クリエイターとプロデューサーと宣伝部が、三位一体になって映画の宣伝を行えたので、それがどう結果に繋がるか・・・ですね(笑)。
ーー公開前から、SNSでもザワついている感じは伝わってきます。
永田:今は全国で10館くらいですが、テアトル新宿の結果次第では、公開の劇場が増えていく可能性はあると自負しています。当初のビジネスモデルから逸脱し始めておりますが(笑)、何とかテアトル新宿を満席にして、全国の劇場で多くの人にみて欲しいですね。安里監督の作品への熱意が、映画のビジネスモデルを越えちゃいましたね。
ーー素敵な形だと思います。
永田:プロデューサーとして、最初のコンセプトがずれてしまうことが良いことだとは思いませんが、安里監督の熱意によって、僕も動いた部分はあります。映画というのは生き物なので、作っていくうちに見えてくるものもあります。その見えてきたものに沿って、一番最適な、お客さんに対しての見せ方、見え方を考えるのがプロデューサーの仕事でもあると思っています。
ーー『アンダー・ユア・ベッド』が公開されて、どのような反応があると思いますか?
永田:『娼年』という映画を作って、「R18じゃないと観れない映画ってあるよね」と思ったんです。レイトショーでしか観れない作品とか、子供は観れない、高校生は観れない映画って、もっとあっても良いと思うんです。映画って、ある種“危険物”みたいなところがあるじゃないですか。映画も音楽も文学もそうですが、それによって人生が変わってしまうほど強さのあるメディアだと思っているので、刺激のある作品がもっと作られても良いのかもと思っています。
ーー今後の「ハイテンション・ムービー・プロジェクト」も楽しみにしています。
永田:「ハイテンション」というのは、エロスやバイオレンスだけではなく、コメディやラブストーリーの作品もあると思っています。突き抜けていて、シネコンではなかなか上映されない映画。そしてR18であること。そういう作品を生み出すレーベルを、『殺人鬼を飼う女』と『アンダー・ユア・ベッド』を立ち上げに、続けていきたいなと思っています。
永田芳弘
株式会社ハピネットで日本映画のプロデュースに従事する。2003年『ヴァイブレータ』でプロデューサーデビュー。主な作品に『人のセックスを笑うな』(07)、『凶悪』(13)、『私の男』(14)、『残穢【ざんえ】ー住んではいけない部屋ー』(15)など。2019年は『アンダー・ユア・ベッド』、『惡の華』が公開となる。
映画『アンダー・ユア・ベッド』
出演:
高良健吾
西川可奈子
安部賢一
三河悠冴
三宅亮輔
原作:大石圭「アンダー・ユア・ベッド」(角川ホラー文庫刊)
監督・脚本/安里麻里
製作:ハピネット KADOKAWA
制作プロダクション:ザフール 映倫:R18+
配給:KADOKAWA
©2019映画「アンダー・ユア・ベッド」製作委員会
『アンダー・ユア・ベッド』予告
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cinefil連載【「つくる」ひとたち】
「1つの作品には、こんなにもたくさんの人が関わっているのか」と、映画のエンドロールを見る度に感動しています。映画づくりに関わる人たちに、作品のこと、仕事への想い、記憶に残るエピソードなど、さまざまなお話を聞いていきます。時々、「つくる」ひとたち対談も。
矢部紗耶香(Yabe Sayaka)
1986年生まれ、山梨県出身。
雑貨屋、WEB広告、音楽会社、映画会社を経て、現在は編集・取材・企画・宣伝など。TAMA
映画祭やDo it Theaterをはじめ、様々な映画祭、イベント、上映会などの宣伝・パブリシティなども行っている。また、映画を生かし続ける仕組みづくりの「Sustainable Cinema
」というコミュニティや、「観る音楽、聴く映画」という音楽好きと映画好きが同じ空間で楽しめるイベントも主催している。