かつてナチ・ドイツ物というジャンルがあり、盛んに作られていた。
1960-70年代の英米の映画界では、第二次大戦で闘ったドイツを、悪役として描くことが多かったのだ。ホロコースト、電撃作戦による他国占領と、非難される戦争犯罪が目立ち、ドイツにも抗議しがたいムードがあっただろうし、東西ドイツに分裂した基盤の弱さも影響してたのかもしれない。
最近でもナチ・ドイツ物が作られてなかったわけではないが、戦闘シーンを織り込んだ従来型の本数は激減していた。第二次大戦の記憶が薄れ、映画の題材としての絶対悪の役柄がナチ・ドイツからイラクやイスラム国、国際的テロ組織に変わってきたせいもあるだろう。
さて、今回取り上げた「オーヴァーロード」は煉獄国軍の仏ノルマンディー上陸作戦の日、いわゆるDデイに限定。久々の戦争アクションというだけにとどまらず、マッドサイエンティストも登場する秘密実験までからんでくると一本で二つの味が楽しめるハイブリッド作品だった。
生真面目派には向かないかもしれないが、B級ファンにとってはまさにツボにはまった映画だった。なにしろメジャーのパラマウント作品だから作りはしっかりしているし、製作者も大ヒットした「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(15)のJ・J・エイブラムスなので安心して見ていられる。
連合軍が爆撃個所を爆撃機に無線連絡しようとしても、ドイツ軍が妨害電波を出しているので、うまくいかない。そこで、電波塔破壊の命令が下り、特殊部隊を乗せた輸送機が落下地点に向かうが、地上からの砲撃で僚機がやられ、破壊リーダーのルイス・フォード伍長の搭乗機も墜落してしまう。結局生き残ったのはフォードのほかにボイス、ティベット、チェイスら数名の二等兵で、彼らが通信塔のある村シエルプランへ近づくと、どうも様子がおかしい。村人が射殺されたり、拉致されたりしているらしい。
彼らを助けるフランス女性クロエ、もちろん若い美女とそのいたいけな弟、あやしげな叔母、残酷で執念深いナチ親衛隊の将校、眼鏡をかけた白衣の科学者……ここらは典型的なハリウッド式人物設定とストーリー展開だ。上陸まであと数時間というタイムリミットがサスペンスを高め、予定よりも少ない戦力で電波塔の爆破をしなければならないという困難がサスペンスをうむ。
塔内の地下研究室ではおぞましい人体実験が行われていた。超人作製を目指す実験がうんだゾンビとはまた手あかのついた設定であるが、この手の作品にしばらくお目にかかってないので、私は嬉しくなってしまった。やられても、またたちあがってくる異形の不死軍団との対決は迫力たっぷり。
監督はオーストラリア出身で「ガンズ&ゴールド」(13)でデビューし、これが二作目となるジュリアス・エイヴァリー。
ボイスにジョヴァン・アデボ、フォードにカート・ラッセルとゴールディー・ホーンの息子であるワイアット・ラッセル(父同様にタフ・ガイ役がよく似合う)。
ちなみにエイブラハムスの理想のモンスターはカート・ラッセルが主演したジョン・カーペンター監督作「遊星からの物体X」(82)だとか。同じくカーペンターが手掛けた「ゼイ・リブ」(88)でヒロインを演じていたメグ・フォスターが、つねに顔を隠している叔母役で出ていた。
北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。
『オーヴァーロード』特報
<ストーリー>
1944年6月、ノルマンディー上陸作戦が開始された直後、第101空挺師団は、ある重要な密命を帯びていた。彼らの任務はドイツ占領下のフランス・シエルブランという村に降り、連合軍の通信を妨害している教会の電波塔を破壊することにあったのだ。だが戦闘機は敵兵からの激しい攻撃をくらい、兵士たちは敵の領土へと散り散りに落下していった——。
地上に降り立ったエド・ボイス二等兵(ジョヴァン・アデポ)と、作戦の指揮をとるフォード伍長(ワイアット・ラッセル)たちは、ナチスの研究者が“研究”と称し、村の住民たちを教会に送り込んでいることを知る。彼らは、教会の内側から塔を破壊しようと基地へ進入するが、そこで彼らの前に立ちはだかったのは、今まで見たこともない敵だった。
極秘裏に企てられたナチスの陰謀とは?そして、彼らは、電波塔の爆破作戦を遂行することができるのか——!?
■監督:ジュリアス・エイヴァリー
■脚本:ビリー・レイ、マーク・L・スミス
■原案:ビリー・レイ
■製作総指揮:ジョー・バーン、ジョン・コーエン、コリー・ベネット・ルイス
■出演:ジョヴァン・アデポ、ワイアット・ラッセル、ピルー・アスベック、マティルド・オリヴィエ、ジョン・マガロ、イアン・デ・カーステッカー
■原題:Overlord
■配給:プレシディオ
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