暗闇に−—− 蠢く人々。反射する光。響く轟音。
誰も知らなかった地下世界に驚愕する
深い闇と鳴り響くノイズ 
ボスニアの炭鉱、地下300メートルの異空間

ボスニア・ヘルツェゴビナ、首都サラエボ近郊、100年の歴史あるブレザ炭鉱。
ヨーロッパ有数の埋蔵量を誇ると言われているこの炭鉱は、第二次世界大戦、ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦を乗り越え、現在も操業を続けている。

荒涼とした地面の上に無造作に置かれた、汚れと錆びにまみれた巨大な重機が炭鉱の存在を知らせる。坑夫たちは黙々と昇降用ケージに乗り込み、地下深くの暗闇に消えていく。そして坑夫たちが降り立った地下300メートルの場所には、ただただ深い闇が広がっていた。

一筋のヘッドランプの光だけが映しだす、闇に蠢く男たち。爆音で鳴り続ける採掘重機と歯車、そしてツルハシの響き。死と隣り合わせのこの場所で、人は何を想い、肉体を酷使するのか。カメラは闇に蠢く男たちをひたすら見つめる。

山形国際ドキュメンタリー映画祭2015 アジア千波万波部門特別賞
リスボン国際ドキュメンタリー映画祭2015正式出品
マル・デル・プラタ国際映画祭2015正式出品
台湾国際ドキュメンタリー映画祭2015正式出品

画像: 暗闇に−—− 蠢く人々。反射する光。響く轟音。 誰も知らなかった地下世界に驚愕する 深い闇と鳴り響くノイズ ボスニアの炭鉱、地下300メートルの異空間

ガス・ヴァン・サント、アピチャッポンが絶賛!!
伝説の映画作家 タル・ベーラの荒ぶる遺伝子がここに、開花する!

この知られざる地下世界を捉えたのはひとりの日本人だった。
単身、カメラを持ち、坑夫と共に坑道に降り、その日々の労働を生々しく捉えた。
監督の小田香は、『ニーチェの馬』を最後に引退した伝説の映画作家タル・ベーラが後進の育成のために設立した映画学校【film.factory】で3年間学んだ。

タル・ベーラ作品のごとく、まるでこの世界に存在するとは思えないような、光と闇そしてノイズにあふれた驚愕の映画空間をたったひとりで創り上げた。

画像: ガス・ヴァン・サント、アピチャッポンが絶賛!! 伝説の映画作家 タル・ベーラの荒ぶる遺伝子がここに、開花する!

あなたも観るべき強烈な作品。私は好きだ。
———ガス・ヴァン・サント

画像: あなたも観るべき強烈な作品。私は好きだ。 ———ガス・ヴァン・サント

暗闇の交響曲であり、塵と深度の感覚的な世界への旅だ。
———アピチャッポン・ウィラーセタクン

画像1: 暗闇の交響曲であり、塵と深度の感覚的な世界への旅だ。 ———アピチャッポン・ウィラーセタクン

ブレザ炭鉱について

『鉱 ARAGANE』の舞台は、ボスニア・ヘルツェゴビナのゼニツァ・ドボイ県ブレザ町にある炭鉱です。首都サラエボから北西に約30キロに位置し、天候が良ければ車で40分ほどの距離です。
ブレザ炭鉱は石炭の埋蔵量がヨーロッパでもっとも多いとされる炭鉱のひとつで、約7300万トンの亜炭と褐炭が埋蔵されていると言われています。

坑内掘りの坑道がふたつ、露天掘りがひとつあり、撮影させていただいたのは坑道のひとつである’Sretno’坑内です。(スレトノ: ボスニア語でグッドラックを意味します)
ブレザ炭鉱の運営会社は1907年に創立されました。年間60万トンほどの採掘が可能で、平均年間採掘量は約45万トンとされています。坑夫の方や、プロセス工場で働く方々、事務所で働く方々の総員は現在約1250名とされ、ブレザ町に暮らす人びとの主な雇用先です。

内戦後、悪化する経済状況の中でより安定した運営を目指すために、ブレザ炭鉱は2009年より県営の電力会社と合併しました。翌年には、経営成績を上げたとされていますが、国を治める政党が変わる度に、会社の代表や幹部が政治的介入によって入れ替わり、安定した運営が行われているとは言い難いようです。大型重機を取り入れることで掘削量は年々上がっていますが、それに反比例して坑夫の方たちの給与は下がり、ひと昔前には1000ユーロだった月収が今は600ユーロほどまで下がったと言われています。

1日3シフトで24時間絶え間なく掘削が行われ、ひとつの坑に1シフト約40名の坑夫が働きます。1000トン〜1500トンの石炭が毎日採掘され、価値にすると8万〜24万ユーロほどです。

炭鉱には事故がつきものですが、ブレザ炭鉱も2012年5月にスレトノ坑内で有毒ガスから火災が発生、第一発見者である方が亡くなられました。その後、坑の調査と修復のために同坑に入った坑夫の方も救命呼吸具の不具合により命を落とされました。事故の起こった週末に、常駐するべき責任管理者がいなかったこと、事故の初期段階でなぜ対応ができなかったのかなど、いまだ解明されていません。私が撮影していた時期(2014年秋から翌年春頃にかけて)には、もう一方の坑道であるカメニツァ坑内で火災が発生し、立ち入りが禁止されていました。

はじめてブレザ炭鉱に訪れた日、旧ユーゴ時代のチトー大統領に表彰されたアリヤ・シノタノヴィッチさんの黄金に塗られた像を紹介していただきました。当時旧ソ連の模範労働者よりも、1日に多く石炭を掘った記録をもつ方だそうです。
社会主義労働者の英雄として讃えられていました。
(小田香)

監督プロフィール
小田香 Oda Kaori
1987年大阪府生まれ。フィルムメーカー。
2011年、ホリンズ大学(米国)教養学部映画コースを修了。卒業制作である中編作品『ノイズが言うには』が、なら国際映画祭で観客賞を受賞。
東京国際LGBT映画祭など国内外の映画祭で上映される。
2013年、映画監督のタル・ベーラが陣頭指揮するfilm.factory (3年間の映画制作博士課程)に第1期生として招聘され、2016年に同プログラムを修了。
2014年度ポーラ美術振興財団在外研究員。
2015年に完成されたボスニアの炭鉱を主題とした第一長編作品『鉱 ARAGANE』が山形国際ドキュメンタリー映画祭2017・アジア千波万波部門にて特別賞を受賞。その後、リスボン国際ドキュメンタリー映画際やマル・デル・プラタ国際映画祭などで上映される。
映画・映像を制作するプロセスの中で、「我々の人間性とはどういうもので、それがどこに向かっているのか」を探究する。

画像2: 暗闇の交響曲であり、塵と深度の感覚的な世界への旅だ。 ———アピチャッポン・ウィラーセタクン

小田香は新しい世界を発見しているのか。
それとも、創り出しているのだろうか?
明らかに、両方である。
———ジョナサン・ローゼンバウム(映画批評家)

画像: 小田香は新しい世界を発見しているのか。 それとも、創り出しているのだろうか? 明らかに、両方である。 ———ジョナサン・ローゼンバウム(映画批評家)

サラエボのfilm.factoryにゲストとして訪れた際にこの映画を観た。
小田香は勇敢にも地中深い坑に降りて男たちを追い、厳しい労働のイメージを私たちに届けた。
私は感銘を受けた。すばらしい映画だ。
————ジェームス・ベニング(映画作家)

画像: サラエボのfilm.factoryにゲストとして訪れた際にこの映画を観た。 小田香は勇敢にも地中深い坑に降りて男たちを追い、厳しい労働のイメージを私たちに届けた。 私は感銘を受けた。すばらしい映画だ。 ————ジェームス・ベニング(映画作家)

監督の言葉

地下の世界に魅せられた。
跳ねる泥、漂う塵、舞う土埃、重機から散る霧、坑夫の方たちから昇る蒸気、肉体を打つ幾重にもなった機械音。
それら全てに圧倒的な美しさを感じた。
地中に広がる宇宙だった。
ほぼ唯一の光源であるヘッドランプに照らされるのは、各々の足場、ツルハシの鋒、坑夫の方たちの顔。照らされない空間は闇。特に、人のいない古い坑道は、左右上下を溶かす、飲み込まれそうな深い黒だった。
光にも闇にも、独特の美しさとこわさがあった。

撮影地のブレザ炭鉱には偶然出会った。もとはカフカの『バケツの騎士』を原作とした短編映画制作のため、取材目的で訪れたが、その空間と坑夫の方たちの佇まいに一目惚れしてしまった。初回は地下には入れてもらえなかったが、二度目に訪れた際には、安全管理の責任者の方と一緒に潜らせていただいた。私は地下で活動するためのトレーニングを受けていないため、撮影時にはいつもこの方が付き添ってくれた。地下にはじめて入り、その異次元空間と坑夫の方たちの労働に魅入り、『鉱 ARAGANE』の制作を決めた。あの美しさをただ撮りたかった。

決して、過ごしやすい環境とは言えない。太陽の光が微塵も届かない空間に何時間もいるというのは。空気孔が通っていると言っても、空気が薄いと感じることは多々あったし、むき出しの重機やベルトコンベアーに巻き込まれると身体のどこかがとぶ。振動として身体に訴えてくる騒音は慣れて感覚が麻痺するまでしばらくかかった。頭を振ったり口笛を鳴らしてコミュニケーションをとっている坑夫たちの伝達が食い違えば、容易に事故が起こるし、坑の中で命を守るため、万全を期することはないと言っていい。それでも、坑夫の方たちは毎日地下で8時間働く。お金を稼ぐためであるし、ボスニア全土に資源を供給しているという自負もあるという。炭鉱での労働は過酷なものだが、作業中にはアドレナリンが駆け巡っている、坑に入ったことのある者なら地上での仕事はできないよ、とある坑夫が話してくれた。

坑夫の方たちとブレザ炭鉱は、私にこの映画をつくる機会を与えてくれたけれど、私はこの映画で彼らに何かお返しをすることができるだろうか。
彼らは不可視だ。坑内の異次元の宇宙は、不可視の彼らの身の危険と隣り合わせで、いまも広がっていっている。
私たちの生活の資源がどこから来て、それがどんな場所なのか、もしもこの映画がそれらを表す瞬間を生み出せるなら、一緒にいさせてくれた彼らに対して少しでも返礼となるのかもしれない。同じ地球上にこんな空間があること、そこに坑夫の方たちがいまも存在することを体感していただければ嬉しい。

ー小田香

映画学校【film.factory】について
私たちの周囲にイメージが氾濫する時代であるにもかかわらず、この美しい伝達言語は毎日悪化の一途をたどっている。
私たちは視覚的文化とイメージの尊厳の重要性を、次世代の映画作家たちに証明したいのだ。
徹底的に、確信をもって。
責任感があり、ヒューマニズムの精神をもつ成熟した映画作家や、独自の映像言語をもち、その創造力を現実世界の人間の尊厳を守るために発揮するアーティストと共に、このプロジェクトに従事することが私たちの願いである。
———タル・ベーラ
While there are more and more images everywhere around us, paradoxically, we perceive the increasing devaluation of this beautiful language every day. It is in this context that we are seeking to demonstrate, emphatically and convincingly, the importance of visual culture and the dignity of the image to the coming generation of filmmakers. Our aspiration is to working with mature filmmakers who think responsibly, with the spirit of humanism, artists who have an individual outlook, an individual form of expression and who use their creative powers in the defence of the dignity of man within the reality that surrounds us.                —————Bela Tarr

この古いボスニアの炭鉱の深い坑道の中、ツルハシと勇気をもって、男たちは石炭を採掘する。
この古いボスニアの炭鉱の深い坑道の中、ヘッドライトとカメラと真の正直さをもって、小田香は純金を掘り出した。
混じり気のない、映画的で人間的な黄金だ。
————ティエリー・ガレル
(アルテ・フランス/ヨーロピアン文化チャンネル前ディレクター)

タル・ベーラ監修 小田香監督 映画『鉱 ARAGANE』予告

画像: タル・ベーラ監修 小田香監督 映画『鉱 ARAGANE』 youtu.be

タル・ベーラ監修 小田香監督 映画『鉱 ARAGANE』

youtu.be

監督・撮影・編集:小田香
監修:タル・ベーラ
プロデューサー:北川晋司/エミーナ・ガーニッチ
提供:film.factory/FieldRAIN

2015年/ボスニア・ヘルツェゴビナ、日本/DCP/68分 配給:スリーピン
(C)film.factory/FieldRAIN

 

10月21日(土)〜新宿K’s cinemaにてロードショー 以下全国順次公開

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