『エブリバティ・ウォンツ・サム 世界はボクらの手の中に』
「ビフォア・サンライズ」のシリーズ3作、「6歳のボクが大人になるまで」「スクール・オブ・ロック」などのリチャード・リンクレイター監督の新作です。青春映画のカリスマ、というかんじになってきたリンクレイター監督ですが、実は、70年代以降、映画学校出が当たり前になっている監督には珍しい体育会系出身。野球推薦で大学に入ったという監督の経験に基づいた、筋肉系青年たちの青春グラフティです。
1980年9月。サウスイーストテキサス州立大学にやってきた18歳のジェイク。野球推薦で野球部に入るため大学にやってきたジェイクは、あと3日と15時間で晴れて大学1年生フレッシュマン。到着したのは野球部の寮、といっても、一軒家を野球部のチームメイトだけでシェアする野球部ハウス。そこには1年から4年まで、個性的な野球バカ、もとい、素敵な先輩たちが待っていました。
この大学アメフトもバスケも弱いけれどなぜか野球部だけは全米級。それだけに多少羽目を外しても野球部だけは特別扱いされるのです。それをいいことに、本当は禁止されている、酒も葉っパも女の子もやり放題。授業の始まるまでの3日間は、天国の日々、です。
さっそく街に繰り出す野球部員たち。同じポジションを争うことになる4年生投手のからは「投手は嫌いだ」と言われるし、やたら葉っぱ臭くてトウのたっている先輩からはカール・セイガンの「コスモス」を押し付けられる。ギャンブル好き、妄想癖、プロ志願、カウボーイの1年生などなど、一癖も2癖もある連中です。それぞれ高校時代はスター選手だったけれど、大学に入るとフツーの選手になってしまうという洗礼をうけ、それでも野球を続けてきたつわものたち。昼は練習で妍を競い、夜になるとパーティの梯子をしたり、ディスコに繰り出します。
そんな彼らの一番の楽しみはなんといってもガールハント。女子寮の周りを徘徊しては品定めに余念がありません。ジェイクもさっそくブルネットのウィットのきいた女の子に目をつけます。彼女は演劇科の一年生でした。
授業が始まるまで3日間。その間にこれからの4年間を充実して過ごすための準備はいいか?! 新入生ジェイクの天国の日々が始まります。80年代に20歳代。大学生。それは、わたしのことかい? と、思ったら監督は私と同じ年なんですね。つまり、この映画は監督の体験をもとにしていますから、私の経験にも重なるわけです。といっても、私はじーみーな、ちっちゃい、くそまじめな大学に行っていた貧乏学生でして、芝居ばっかりやってたもんですから、当時始まりかけた女子大生バブルのかけらもありませんでしたがね。それでも、ディスコにも行きましたし…あ、そのくらいか(笑) それでも、疑似体験、というか、この作品のフィーリングは、あの時代ってこうだったのよねーという懐かしさがこみ上げてきました。体験はしてないけれど(笑)
ともあれ、家から離れて大学に行き、自由を満喫することになった若者の、授業が始まるまで最初の三日間を描くというのは、人生で一番自由で悩みのない希望だけの日々を描くということです。その時に、人は何をするのか、何を求めるのか、というか何が楽しいのか。人生で一番楽しいことはなにか、というお話になるわけです。
ジェイクは野球推薦制なので、もちろん野球は大好き。でも、今までは町一番のスター選手だったのに、ここに来たら同じくらいの力の持ち主がごろごろしていて、そこからレギュラーをつかんで、ひょっとするとプロへというのもなかなか大変と知るのも、この三日間。では、野球と同時になにか好きなことを、ということになると、体育会系だよねー、と思いますが、酒と女なんですねー。とはいえ、けっこう純情なジェイクはセックスできればいい、とは思わない。もっとも女はセックスのみ、というのでは女性観客も見る青春映画にならないので、ちゃんと恋愛ということにするわけです。チームメイトの中にはセックスとしか考えてないやつもいるし、もう80年代ですから、女の子の方にもセックスと恋愛を分けて考える子も出てきます。でも、ジェイクは恋愛を選ぶ、わけですね。
演じているのは、演技は初めての人から、テレビの人気者、などまだ映画ではおなじみじゃないけれど、役柄としてイルイル感がたっぷりな若手俳優たち。ジェイクの恋する演劇科女子ビバリーを演じているのは80年代のアイドル・スターだった「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のリー・トンプソンの娘。ここで一気に、あぁ、80年代は遠くなりにけり、と監督も思ったことでしょう。
ま。時代はいつだって、家を離れて大学に入る授業開始前の三日間は、人生で一番自由と希望にあふれた日々であることは変わりないと思います。そんな三日間を思い出す、またはシュミレートする、作品です。
そして、もう一本。
『マイ・ベスト・フレンド』
アメリカから引っ越してきたジェスとロンドンっ子のミリーは小学生の時からの親友同士。何をするのも一緒で、大人になっても二人の友情は何の変りもなく続いていました。
華やかなミリーは音楽業界に入り、いつもかっこよくオシャレでセンスのいいミリーはバンドマンのキットと恋に落ち、子どもができて結婚。二人でスピーカーの販売会社を始めます。
堅実なジェスは環境保護団体につとめ、そこで整備士のジェイごと出会い、ボートハウスで一緒に暮らし始めます。ジェスとミリーは結婚しても、子どもがいても、やはり親友。二人の絆は夫たちも巻き込んで、家族ぐるみの、親戚のような付き合いをしています。ただ、ジェスはなかなか子供ができないのが悩みで、多いとは言えない収入をやりくりして不妊治療を受けています。
そんなある日。ミリーが乳がんにかかります。
子どもたちに辛い姿を見せたくないミリーをジェスは一生懸命支えます。ミリーにとってジェスは夫のキットよりも、心身ともに頼りになる存在でした。しかし、経過はよくなくて、とうとう摘出手術を勧められてしまうミリー。そのころ、ジェスはやっと不妊治療が上手くいき妊娠。けれど、それを一番分かち合って喜びたいミリーは手術で落ち込み、とても妊娠を打ち明けられる状態ではありません。妊娠を言い出せないまま、ミリーに振り回されるジェス。キットが準備した誕生会を抜け出したジェスはミリーを引っ張って、少女のころからあこがれていた嵐が丘の舞台に行こうと、タクシーに飛び乗ります。けれど、それはミリーにとってジェスにも内緒の目的があったのです。二人が初めてお互いに対して持った秘密。それは二人の関係を変えてしまうには十分な秘密でした…。
女同士の友情は、女性のライフステージが変わるたびに途切れてしまうことが多いものです。卒業・進学・就職・結婚・出産…。地理的な距離もできるでしょうし、それを乗り越えていくのは相当強い意志が必要だと思います。しかもそれが一方通行じゃなくて、お互いに持っていなくちゃ、続きません。
男性の場合、ライフステージごとに新しい友情を、自分と同じライフスタイルの人間同士で結びます。といっても、一生生まれた街から離れないで暮らす人も多いので、なんかずっと高校生のころからの友達とつるんでいる、なんて映画もありますけどね。
女性の場合、心して繋がろうと努力しないと続かないと思うんですよ。だからこういう女の友情ものにはグッときちゃうんですな。
まず、ライフステージもライフスタイルも越えた、根源的なつながりがあるでしょ。それを保とうとする努力があるでしょ。そしてどんなに状況が変わろうと、本人は変わらないという、信念があるでしょ。それはね、なかなか、無いです。だから憧れるわけですよ。
ミリーとジェスも、たぶん性格的にはだいぶ違う二人だと思います。でも、それでいい。お互いを変えようとしない。だから続くのかな。でもそこに、予想もしない「病気」というファクターが加わることで、今までは当たり前にできていたことが、いちいち、考えなくちゃいけないことになっちゃう。そこで、見直すわけですね、関係を。それで、その対処の仕方が、やはり、違う人間だから、違ってくる。生きている状況も違うから、違ってくる。それを初めて考えて、受け入れなくちゃなんない。そんなあたりを、アップダウンの激しいエピソードで、見せていくんです。
なんというか、めそめそしている暇はねえっっ、って感じ。それが、日本の難病ものとは違うかな。基本、いかに生活を変えないかが闘病の仕方なんですね、西洋は。うらやましいです。このふたりの女優も、いつもは元気を旗印にしているような2人なので今回の役はいい経験になったと思います。