黒沢清監督「まさか、自分が出演するとは思わなかった」 10名の監督を選んだ理由とは?
今日の映画界で活躍するフィルムメイカーたちの新鮮な視点でヒッチコックの“映画術”をひも解くドキュ メンタリー、『ヒッチコック/トリュフォー』が 12 月 10 日(土)より、新宿シネマカリテほかにて全国公 開いたします。
このたび、第 29 回東京国際映画祭特別上映作品として上映され、上映後にはケント・ジョーンズ監督と、 本作にも出演されている黒沢清監督のトークショーが行われました。
■日程 10/29(土)14:40~15:25 ■場所 TOHO シネマズ 六本木スクリーン3
■登壇者 ケント・ジョーンズ監督『ヒッチコック/トリュフォー』
黒沢清監督『ダゲレオタイプの女』
29 日に東京国際映画祭にて特別上映された本作、満員の客席から拍手で迎えられ、『ヒッチコック /トリュフォー』のケント・ジョーンズ監督、本作にも出演する黒沢清監督が登場し、上映後の興 奮に包まれた中トークショーがスタートしました。
以前から海外の映画祭などでケント・ジョーンズ監督と親交があったという黒沢清監督。
どんな作品になるのか全く知らないまま、インタビューを受けたという。
「まさか彼の作る映画に出演することになるとは思っていませんでした。出来上がった作品は、僕 の想像をはるかに超え、豊かなものになっていました」 本作では現代の映画界を牽引する10人の監督がインタビューで登場するが、黒沢監督に声をかけた理由は?という質問に、ジョーンズ監督は「とても偉大な監督ですから黒沢監督にはぜひ出演してもらいたかった」と話し、「そして実は、黒沢監督は、私が関わった映画に出ていただくのは2 回目です。ホラーのプロデューサー、ヴァル・リュートンに関するドキュメンタリーにも出演して もらいました」と明かした。
10人の監督を選んだ基準については、「この題材に興味があり、そして、熱を持って話してくれ る、そういった方を選んだ。映画作りに関する映画を作りたかった。ヒッチコックのことを賛美す る人、ただそういったコメントを撮るだけの映画にはしたくなかった。ヒッチコックとトリュフォ ーの対話から60年経った後、その続きを撮っているという印象です」 黒沢監督は、自分自身も含め、意外な人がインタビューを受けていたように感じたそうだが、ケン ト監督の答えを聞き「腑に落ちた。「映画術ヒッチコックトリュフォー」という本によって、当たり前のようにヒッチコックとトリュフォーが、結びつくわけですが、この本の出会いがなければ、 一見、結びつくとは思えないような映画作家だと思う。この映画はヒッチコックについての映画でもあるし、トリュフォーについての映画でもあるし、映画の歴史、映画全部についての映画でもある」と絶賛した。
ジョーンズ監督は「ヒッチコックほど、人間の心理、登場人物の心理に長けて、模索した監督はい ない。俳優に自由に心理状況を解釈したりすることを許さなかった。スコセッシ監督が非常に興味 深いコメントをして、現代の映画では、登場人物の感情の揺れの部分が、より俳優が担う比重が増 えて、それがヒッチコックがだんだん映画作りがしづらくなった、時代の流れに押されたという点 だと思う」だと話し、「歴史的変遷をたどって考えると、ポール・トーマス・アンダーソンが『マ スター』のような作品を戦前に撮ろうとしたらそれは不可能だったと思う」 そして、黒沢清監督の映画については、「俳優がきちんと存在感を持って、そこにいる、けれども、 作品そのものの、美的なあり方というのが、完璧なバランスを保っている」と絶賛した。
それに対し黒沢監督は、「とても恐縮します」と言いながら、ジョーンズ監督の本作について、「ヒッチコックの映画がずっと断片的に流れて、ちょうど映画のど真ん中あたりで、急にトリュフォー の「大人は判ってくれない」が流れるんですよね。これが本当に新鮮で。
やっぱり全然ヒッチコッ クと違う。トリュフォーってすごいなと。ただ後半にまた「めまい」とかが出てくると、やっぱり ヒッチコックは凄いぞ、と。実にうまい構成になっている」と感想を返していた。
また、ヒッチコックについてジョーンズ監督は、「映画の中ではカットしてしまったんですが、『ロ ープ』という初のヒッチコックのカラー作品の、照明について話している部分があるんです。ここのシーンは、カラーだからこの照明はあえて、たかなくていいんだ、と。これは、モノクロの作品 を通して、光と影というのがどうゆう風に作用するのか、ヒッチコックは熟知していた。ハリウッ ド自体を彼は助けた向上させた、そうゆう功績があると思います」と語った。
●『ヒッチコック/トリュフォー』監督、脚本:ケント・ジョーンズ Kent Jones
1960 年、アメリカ、マサチューセッツ州生まれ。長年「フィルム・コメント」誌に寄稿する評論家であり、 脚本家、監督のほか、現在、ニューヨーク映画祭のディレクター、及び世界映画基金の芸術監督を努めている。
共同脚本に参加した作品に、ドキュメンタリー『マーティン・スコセッシ 私のイタリア映画旅行』(99) や、マチュー・アマルリックとベニチオ・デル・トロが主演した、アルノー・デプレシャン監督作『ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して』(13)。
●『ヒッチコック/トリュフォー』出演:黒沢清
1955 年、兵庫県生まれ。88 年に『スウィートホーム』で商業映画デビュー。『CURE キュア』(97)で 日本映画における新たなサイコスリラーの 1 ページを開いた。
『カリスマ』(99)、『回路』(02)、『アカル イミライ』(02)など、日本映画の最前線を走り続ける。『トウキョウソナタ』(08)でカンヌ国際映画祭 国際批評家連盟賞を受賞。フランスで撮影を敢行した最新作『ダゲレオタイプの女』が現在公開中。
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監督:ケント・ジョーンズ
脚本:ケント・ジョーンズ、セルジュ・トゥビアナ
出 演 :マーティン・スコセッシ、デビッド・フィンチャー、アルノー・デプレシャン、黒沢清、ウェス・アンダーソン、ジェーム ズ・グレイ、オリヴィエ・アサイヤス、リチャード・リンクレイター、 ピーター・ボグダノヴィッチ、ポール・シュレイダー
2015年/アメリカ・フランス/英語、仏語、日本語/80分/ビスタ/カラー/5.1ch/原題: HITCHCOCK/TRUFFAUT/日本語字幕:山田宏一
Photos by Philippe Halsman/Magnum Photos© COHEN MEDIA GROUP/ARTLINE FILMS/ARTE FRANCE 2015 ALL RIGHTS RESERVED.
提供:ギャガ、ロングライド
配給:ロングライド
協力:アンスティチュ・フランセ日本/フランス大使館