原作「花芯」発表後、「子宮」という言葉が多く出てくることから発表当時「子宮作家」と呼ばれ、その後5年間ほど文壇的沈黙を余儀なされた。
瀬戸内寂聴は、映画の公開に合わせ59年前の事実を書いた手紙を映画の公開に合わせて発表した。
瀬戸内寂聴 手紙 全文
挨拶
本日、映画「花芯」を観に当館へご来場くださいましたお客様皆々様に、心からの感謝のご挨拶を申し上げます。私は、小説「花芯」の作者瀬戸内寂聴です。今から59年前、1957年(昭和32年)の雑誌「新潮」10月号にそれは掲載されました。
当時の私のペンネームは戸籍名の瀬戸内晴美でした。60枚余りの短編小説でした。前年、「女子大生・曲愛鈴(ちゃいあいりん)」という小説で「新潮社同人雑誌賞」を受賞して、はじめて注文されて書いた小説なので、私はひどく張り切って書き上げ、自信作のつもりでした。ところが、それが雑誌に載るや否や、新聞の書評欄で、平野謙という批評の大家に、こてんぱんにやっつけられました。たまたま、他の雑誌に載った石原慎太郎さんの「完全な遊戯」という小説と比べて、エロで時流に媚びていると言うのでした。
私の「花芯」は、特に子宮という字が多すぎるとありました。中国語で子宮のことを花芯と言います。私の小説の中心に据えた言葉だったので、それが繰り返し出てきて当然です。
さあ、その後が大変です。匿名批評家がこぞって、「花芯」の悪口を書きました。「作者は男と寝ながら書いたのだろう」とか「作者は自分の世紀を自慢している」とか、全く下品なものばかりでした。私は新潮社に出かけ、編集長の斉藤十一という偉い人に、新潮に反ばく文を書かせてくれと頼みました。玄関に仁王立ちのまま中にも入れてもらえず一喝されました。
「小説家は自分の恥を書きちらして銭(ぜに)を稼ぐ者だ。読者にどう悪口を言われようと反論などするべきでない。そんなお嬢さんのような物腰でどうする。小説家ののれんをかかげた以上、どんな悪評も受けるべきだ。顔を洗って出直して来い。」
とまで、言われました。私は収まらず、他のところに「あんなことを言う批評家はみな、インポテンツで、女房は不感症だろう。」と書きましたが、それで、他の批評家までが怒ってしまい、私はその後五年間、文芸雑誌からボイコットされ、苦杯をなめました。
その後、「花芯」を200枚に書き改め、三笠書房から出版しました。その広告に「子宮作家の傑作」とあり、うんざりしました。それでもまあまあの売れ行きでした。
私は、私小説を書いたのではありません。本格小説のつもりで、すべて頭の中で作り上げた小説でした。ヒロインの外見だけは阿刀田高さんのお姉さんで同級生のとし子さんを借りました。
性における肉体と精神の求離を私は書きたかったのです。
そうした苦い歴史を持つ「花芯」はその後、映画になど一度も話がありませんでした。
あれから大方60年も過ぎた今、こうして魅力あるすてきな映画にして下さって、夢のようです。かかわってくださったすべての方々に深く深く感謝申し上げます。捨て身の特に全力で熱演してくださったヒロイン役の村川絵梨さんありがとう。
まさかというこの思いがけない幸運を冥土の土産に、94歳の私は、やがてあの世への旅に発つことでしょう。その前に、自分の目でこの映画を観ることが出来、観てくださるあなた方のいることを知らされ、本当に幸せです。
すべてのお客様に深く深くお礼を申し上げます。
有難うございました。
瀬戸内寂聴
◆日時:8月6日(土)
◆場所:テアトル新宿
◆登壇者:村川絵梨、林遣都、安藤政信、藤本泉、落合モトキ、毬谷友子、安藤尋監督
(敬称略)
立ち見が出る程の、満席の会場。
豪華キャスト陣と安藤尋監督が登場すると、大歓声が巻き起こりました。
=トーク詳細=
MC:お1人ずつ初日を迎えたお気持ちと共に、ご挨拶をお願いします。
始めに主人公・園子を演じた村川絵梨さんお願いします。
村川絵梨(以下、村川さん):こんなにも大勢のお客様にお越しいただき大変嬉しく思います。
キャストが揃った形で、初日を迎えられてこんなに幸せな日はないと思います。
MC:園子の夫・雨宮を演じた林遣都さんお願いします。
林遣都(以下、林さん):今日は猛暑の中お越しいただきありがとうございます。
安藤監督のもとで、村川さんと感情をぶつけ合いながら撮影した大事な作品です。
今日はじっくり見て楽しんで帰ってください。
MC:園子の恋人・越智を演じた安藤政信さんお願いいたします。
安藤政信(以下、安藤さん):今日は本当にありがとうございます。
僕は村川さんのファンで(笑)、今回共演できて本当に嬉しかったです。
楽しんで帰ってください。
MC:北林未亡人役を演じた毬谷友子さんお願いいたします。
毬谷友子(以下、毬谷さん):ネタバレになるので多くは語れませんが、
あっと驚く北林のババアとインプットいただければと思います(笑)
寂聴先生のこの原作にあるように、「骨になっても女は女だ」と言う事を感じながら、
不自由な時代に一生懸命生きた人間達の、嘘偽りのない、美しい姿を描いた映画だと思います。
今日は楽しんでください。
MC:園子の妹役・蓉子を演じた藤本泉さんお願いいたします。
藤本泉(以下、藤本さん):撮影の日も暑かったのですが、
本日猛暑の中、多くの方にお越しいただき嬉しく思っています。
初日を迎えられた事を嬉しく思います。楽しんで帰ってください。
MC:青年役・正田役を演じた落合モトキさんお願いいたします。
落合モトキ(以下、落合さん):本編では一生懸命練習した
アコーディオンを演奏をしたりしています。
今日は楽しんで帰ってください。よろしくお願いします。
MC:この映画の監督を務めた、安藤尋監督お願いいたします。
安藤尋監督(以下、安藤監督):映画館まで足を運んでいただきありがとうございます。
映画というのは、お客様に観てもらって初めて完成するものだと思っています。
やっと本日映画が完成出来たと思い大変嬉しく思います。
ごゆっくり見ていただければと思います。
MC:それでは、私より質問させて頂きます。
村川さんお着物姿、綺麗ですね。
村川さん:園子が全編着物なので、本日は絶対着物を着たいと決めていました。
(会場より、大きな拍手が沸き起こりました。)
MC:瀬戸内寂聴さん原作の作品に携わって、何か思い出などございますか?
村川さん:思い入れがとても強い作品でした。
約1年半前に撮影し、約11日間という撮影期間でしたが、
とても濃厚な時間を過ごしました。
安藤監督から、直接園子という役を打診され光栄でしたが、
私に務められるのかなと不安がありました。
ただ、やるしかない、チャレンジしなければ一生後悔するなと思いました。
皆様に見てもらえて本当に嬉しいです。
MC:林さんは、村川さんと共演するシーンが多かったですがどんな印象持たれましたか?
林さん:撮影前から相当な覚悟で臨んでいて、役と真摯に向き合っている姿がありました。
本当だったらスマートに支えられたらなと思っていたのですが、そんな余裕はなく、負けていられないなと思いました。
私も全てをさらけ出し、ぶつけていきました。
MC:村川さんは、林さんとの共演いかがでしたか?
村川さん:林さんも、私のチャレンジと同じぐらいの気持ちで、
雨宮の役に挑戦していたので、戦友だと思っています。
林さん:嫌われても良い覚悟で、ぶつかっていきました。
村川さん:真摯にぶつかっていただいたので大好きです!
MC:安藤さんは、村川さんとの共演いかがでしたか?
安藤さん:撮影初日に重要なキスシーンがあったのですが、そこが一番印象深かったです(笑)
村川さん:リードして頂き助かりました。
MC:毬谷さんは、村川さんとの共演いかがでしたか?
毬谷さん:現場では、張り詰めていた表情をよく見ていたので頑張ってほしいと思っていました。
今日の笑顔を見て、ホッとしました。感無量です。
MC:村川さんは撮影後、寂聴さんとお会いになったんですよね?
村川さん:今のこの時代にこの作品が映画化されて嬉しいとおっしゃっていました。
MC:実は寂聴さんより、お手紙が届いております。
読ませていただきます。
(手紙)
MC:村川さん 寂聴さんのお手紙いかがでしたか?
村川さん:やってよかったなと心底思いました。
安藤監督:こんな手紙が届いているなんて知らなかったので、驚きました。
MC:最後に、村川さんからご挨拶をお願いできますか。
村川さん:男性と女性で、感じることが違う映画だと思います。
いつか、見た感想をどこかでお伺いしたいです。
楽しんでください! 本日はありがとうございました。
<物語>
「きみという女は、からだじゅうのホックが外れている感じだ」―
それが園子(村川絵梨)の恋人・越智(安藤政信)の口癖であった。
園子は、親が決めた許婚・雨宮(林遣都)と結婚し息子を儲けていたが、そこに愛情はなかった。
ある日、転勤となった夫について京都へ移り住んだ下宿で越智と出会い好きになってしまう。
生まれてはじめての恋に戸惑いながらも、自身の子宮の叫びは次第に大きくなり抑えられなくなっていく―。
原作:『花芯』瀬戸内寂聴著(講談社文庫刊)
監督:安藤尋 脚本:黒沢久子
出演:村川絵梨、林遣都、安藤政信 /毬谷友子
配給:クロックワークス
製作:東映ビデオ、クロックワークス
製作プロダクション:アルチンボルド
制作協力:ブロッコリ、ウィルコ
2016年/日本/95分/ビスタサイズ/DCP5.1ch/R15+
(C)2016「花芯」製作委員会