シネフィル連載「映画にまつわる○○」#05 映画における原作ものを考える 谷健二
いよいよ8月27日(土)から、監督作品『U-31』が公開されます。原作は人気サッカー漫画『GIANT KILLING』で知られる綱本将也さん。
戦力外通告を受けたプロサッカー選手が、古巣のチームに戻ってきてもうひと踏ん張りできるのかを描いた大人の青春映画です。
と、全力で宣伝から入らせていただきました(笑)。
今回のテーマはずばり原作もの。
ご存知のとおり、最近の映画はとにかく原作ものが多いです。
昨年(2015年)の邦画興行収入上位10作品をみると、アニメ、ドラマ映画以外だと、進撃の巨人にビリギャル、暗殺教室とすべて原作ものです。
原作ものの映画化の大人の事情としては、既存ファンがいるので企画が通りやすいとか、原作ファンのキャストであればオリジナルよりも口説きやすいとかとか、いろいろあると考えられます。
最近公開されたメジャー作品の著名な監督さんも同じようなことをお話しされていて、なんとも夢のない時代だな、と思いつつ、
そこを工夫していくのも現在の監督に求められているスキルなのかな、と思ったりもしています。
何年も監督できなかったり、1~2本でいなくなった人、たくさん知っています..
もちろんオリジナルで誰もが納得する企画を通す力を持ちたい、と高く熱い志をいだきつつも、現実をしっかり見据えるのもひとつの方向かと思います。
ということで、勝手に気を取り直して、本題に。
大体の人が、漫画原作であれば漫画のほうが魅力的だと感じるし、小説原作であれば小説のほうが魅力的だと感じます。
当たり前ですが、その媒体にむけて作っているからです。逆に映画が中心であれば、漫画や小説にするよりも面白いと思います。
ところが、中にはあるのです。原作を凌駕するであろう作品が。
それは、16年も前になりますが、ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』。
同年代(アラフォー)の人は必ず知っていると思いますが、おそらく歴代で一番DVDが売れている伝説のドラマです。
石田衣良の小説をもとに、まだあまり一般的には名前が知られていない宮藤官九郎が脚本を担当し、『ケイゾク』で一躍有名になった堤幸彦が演出を担当。
出演者も長瀬智也に加藤あい、窪塚洋介、坂口憲二、佐藤隆太、山下智久、妻夫木聡にケン・ワタナベと今となってはそうそうたるメンツが集合。
ちなみに阿部サダヲをはじめてテレビでみたのもこの作品でした。
ドラマをみた後に原作となる小説を読んだところ、そもそも主人公の設定が違うことにびっくりしました。
ドラマだと長瀬智也扮するマコトは熱血漢あふれる少々雑な性格ですが、小説だと頭がきれ、まわりから一歩下がった位置にいるクールなマコトがそこにはいました。
その他、エピソードのひとつとしてのみ描かれていたヒカル(加藤あい)が全編のヒロインになるなど結構大胆な改変がなされています。
もちろん物語の大筋は原作通りなのですが、キャラクターを中心に改変した宮藤官九郎の脚本に、小気味よい堤幸彦演出がマッチして
歴史的なドラマになったのでは、と思います。結果、小説に引けを取らず、完成度の高いドラマが出来上がっています。
今回は小説とドラマを例にとってみましたが、それは映画をはじめ様々なジャンルでも十分に可能性があると思います。
原作の良さを活かし、いかに自身の土俵で勝負できるか、化学反応を起こさせるか、が今の監督に求められている能力のひとつかもしれません。
ということで、くどいようですが、監督作品『U-31』、原作の持っている力を十二分に借りつつ、プラスアルファの何かが映画から感じられる作品になっていると信じています。
その答えはスクリーンで確かめてもらえればと最後ももちろん宣伝で締めたいと思います(笑)。
『U-31』予告
ストーリー/彼はなぜ、戦い続けるのか?
スポーツ選手がそのスポーツに携われる期間は、驚くほど短い。ある者は才能の限界を感じ、ある者は怪我をし、そしてある者は年齢を重ね、
人生のすべてを賭けてやり続けてきたそのスポーツの舞台から去って行く。彼らは満足して選手生命を終えるのか?それとも、不満と後悔の念を残して終えるのか?
この物語は、全盛期を過ぎ、人生の岐路に立たされたあるスポーツ選手を主人公に、戦い続けることの本当の意味を問う、今までになかった青春映画である。
原作/綱本将也 漫画/吉原基貴
出演/馬場良馬、中村優一、根本正勝、中村誠治郎、谷村美月、勝村政信、大杉漣
監督/谷健二
配給/トキメディアワークス