今週の上映作品は7/30公開の「ターザン リ・ボーン」と8/11公開の「ジャングル・ブック」という新作二本です。今週は、この二本の公開に合わせて、ちょつと、「ジャングル映画」について考えてみました。
「ターザン リボーン」はサイレント映画時代からたくさん作られているターザン映画の一本です。でも、ターザン映画、といっても私の世代の人にとっては、まずアメリカのテレビシリーズ「ターザン」が出会いだと思います。
 あの、あ~あぁ~ という叫び声もテレビで覚えたものでした。
 
「ターザン」はアメリカの大衆小説家エドガー・ライス・バローズが書いた冒険小説シリーズの主人公です。このシリーズでやっと作家として食べて行けるようになったバロウズは、ターザンの映画化に情熱を傾けました。
何社かに断られ、やっと映画製作が始まったものの、製作会社が映画製作の経験があまりなかったために、いろいろとごたつき、製作開始が遅れ、主演俳優が第一次世界大戦に出征してしまう羽目になったのです。急遽代役をたて、出来上がったのが1918年の、エルモ・リンカーン主演「ターザン」でした。
初代ターザン、エルモ・リンカーン。彼を見出したのはアメリカ映画の父と言われているデビット・W・グリフィスです。
エルモ・リンカーンは三本のターザン映画に主演しました。
トーキー時代に入り、1928年29年と五代目ターザン、フランク・メリルが演じた後、1932年、ジョニー・ワイズミューラーが登場します。フランク・メリルは体操選手でしたが、ワイズミューラーは水泳の選手。1924年のパリ・オリンピックと1928年のアムステルダム・オリンピックでは金メダルを獲っている有名人でした。
映画史的には「ターザン」といえば、ジョニー・ワイズミューラーと言われますが、私は1932年から1948年までのターザン役は当然オンタイムでは見ていませんし、その後1948年から1954年まで続いた「ジャングル・ジム」シリーズも知りません。MGM映画のアンソロジーである「ザッツ・エンターテインメント」や、映画史のアンソロジーで見たことがあるかも、しれません。
それでも、やはり、ターザンといえば、ワイズミューラーと出てくるのは、ターザン映画の基本形を作り上げたのが、ワイズミューラーによるMGMのターザンシリーズだったからでしょう。
例えば、トレードマークになっているあの叫び声も、MGMの音響効果の人たちが、ヒョウの鳴き声など数種類の動物の鳴き声をミックスして作り上げたものだそうです。ゴジラの吠え声もそうでしたね。
ターザンはジャングルでゴリラに育てられた野生児ですが、もとをただせば英国貴族の血筋であり、ヨーロッパ人との出会いと交流で文明と文化を身に着けていく、という設定です。そのため、最初は言葉も片言で、感情の表現も上手くありません。つまり、運動神経が良く体と顔がよければ、演技力などは必要ではない、という役柄です。
そのため、ターザンを演じる俳優は、もともと運動選手などが多く、俳優としての訓練を受けた人が演じる役とは思われていませんでした。
もちろん今でも、裸よし、運動神経よし、顔もよし。これがターザン俳優の基本条件であることは変わりませんが、ドラマとしての複雑さや、キャラクターにも複雑さが求められる現在では、+演技力も要求されるようになっています。
そんな、ターニングポイントになったのが1983年の「グレイストーク 類人猿の王者 ターザンの伝説」という作品だと思います。
フランス人俳優のクリストファー・ランベールが主演し、グレイストーク卿の遺児であることがわかったターザンがイギリスに連れ帰られ、再びジャングルに戻っていくまでを描いた作品でした。
 
 今回の『ターザン リボーン』も、ターザンはグレイストーク卿としてロンドンで暮らしています。ターザンはもうジャングルには戻らない覚悟です。彼は妻ジェーンとの暮らしを平穏に続けたいと願っています。
「ターザン」を書いたバロウズは、キップリングの1894年作品「ジャングル・ブック」の影響を受けています。時代的に、キップリングが19世紀末の、植民地時代における大英帝国の繁栄を良きものとして考えていたのと、バロウズがターザンにその時代を反映させたのは、その考え方に共通するものがあるのだと思います。
つまり、文明国の白人種男性の優越を信じている、ってところです。「ジャングル・ブック」の場合、モーグリはどうもインド系の少年ですが、存在は植民地における白人男性の位置にあたるでしょう。
ターザンは今でいうところのスーパーヒーロー、アベンジャーズの元祖みたいなものでしょう。戦争中はスーパーマンと同じくナチスと戦ったりしています。ジャングルの中でも王者になるわけで、それは彼が白人種男性のしかも貴族階級の人間だから、なのです。
こういうことを考えたのは私だけではなかったようで、キプリングも一時期植民地主義的すぎると批判されたこともあったのだそうです。
時代が変わって、現在、植民地もなくなり、人種差別はよくないこととなり、女性も受動的な存在・いつも助けられ守られる弱々しい存在、ではなくなりました。
そんな中で「ターザン」や「ジャングル・ブック」が再び取り上げられる意味とは何なのでしょうか。
その答えは、二本の新作にあると思います。
最新CGを使い動物や自然の表現に挑戦するとともに人間業と思えないようなアクションを描くこと、自然や環境の保護や自然と文明の共存を訴えること。この二つが目的でしょう。そのためには、社会的な時代の変化を盛り込み、元あった植民地主義的なところや人種差別的なところ、ジェンダー的に偏ったところなどを排除しなくてはいけないので、いろいろとストーリーやキャラクターに工夫を凝らして娯楽的にふくらませていく、わけですね。
今、リメイク・リブート、リボーンなど、日本語で言うなら「焼き直し」というのが流行っているのは、それぞれ絶対娯楽的に面白くなるとわかっている作品を、今の技術と解釈を加えれば、もう一度使えるから、ということです。
いい面を見ると、今描かなくてはいけないことが、よりはっきりと見えてくる、ということだと思います。
もう17年前の作品になりますが、1999年のディズニーアニメの「ターザン」では、人間の社会とゴリラの社会、二つの家族、二つの世界の間で悩むターザンの姿が描かれました。この作品のキーワードが「TWO World」であることからもわかります。密林の王者であることよりもアイデンティティが問われたわけですね。必要とされる場所、愛してくれる人(ゴリラ、もですが)がいるところがHOMEであるという結論でした。
今回の「ターザン リボーン」にはいろいろな仕掛けが施してあります。イギリスで、妻と平穏に暮らしたいターザン。けれど、国の事情からそれが許されない状況になっていきます。
また、ジェーンとの仲も、どこかしらぎくしゃくしています。ジェーンはディズニーアニメの「ターザン」のころから、大変活発で、自分のことは自分で決める女性というキャラクターに変わっています。その方が女性観客に受けるから、なのですが、それにもうひとひねり加えてあって、今回ターザンがどうしてもイギリスを離れたくない理由がジェーンの流産のため、なんですね。こんなこと、絶対バロウズは考えてません(笑)
ターザンは子どもは欲しい。でも、ジャングルに戻ったらまた流産してしまう危険があると思って、もう帰らないと決めているのです。けれど、ジェーンの方は憂鬱なイギリスで、屋敷にいて何もすることが無いような奥様でいるのはいやなんです。その擦れ違いがまずあるわけですね。
ではなぜ、というか、物語的にはどうしてもターザンをジャングルに連れ戻さないことには困るわけで、どうすればいいか。と考えるわけです。
そこで植民地時代のアフリカ、マウンテンゴリラの生息地であるコンゴの当時の歴史が持ち出されます。
コンゴはどこの国の植民地でもない場所で、それをベルギーの王様レオポルド二世が自分自身の個人領にしました。そこで彼は勝手放題して、人々に過酷な労働を強い、ゴムや象牙やダイヤモンドの権益を自分のものにします。鉄道を敷き、奴隷貿易の片棒を担ぎ、儲けていたわけです。
イギリスとアメリカはそれを見過ごしてはいられないと、特使をコンゴに派遣して現状を把握しようとするのですが、アフリカの奥地であり、なかなか普通の人ではたどり着くことすら難しいだろう、ということになります。そこで白羽の矢が立てられたのが、ジョン・クレイトン・グレイストーク卿、ことターザンだったわけです。
国の命令なので断るわけにも行かず、ターザンはコンゴに向います。相棒はアメリカの特使、サミュエル・ジャクソン演ずるジョージ・ワシントン・ウィリアムズでした。
前世代的な植民地主義を振りかざすベルギー王。そのお先棒を担ぐサディスティックな官僚、ターザンに個人的恨みを持つ現地の部族長、さらにターザンに対して昔の仲間を裏切ったと怒りをもつゴリラの一族まで加わって、ターザンの使命を阻みます。
 というのが今回の「ターザン リボーン」のお話。
 なんか、ストーリー設定も、キャラクター設定も、複雑ですね。
今回ターザンを演ずるのはスウェーデン人俳優のアレクサンダー・スカルスガルド。父ピーターを始めとする俳優一家の長男で、テレビドラマ「トゥルーブラッド」などでブレイクしたイケメン俳優です。ターザン俳優の基本はばっちり。しっかり割れた腹筋を見せてくれます。演技的には大学と舞台仕込みのしっかりしたもので、ターザンの苦悩と、ジャングルに戻ってからの行動力をきっちり信じさせてくれます。貴族のシックなスーツ姿から、もうほんと、脱いでもスゴイパンツ姿まで、眼福眼福(笑)でございます。
 もう一人「ターザン リボーン」には注目してほしい俳優が出ています。クリストフ・ヴァルツ。この人が悪役をやると、主役さえかすんでしまう強烈な個性を発揮するんですよ。「イングローリアス・バスターズ」「ジャンゴ」と2本のクエンティン・タランティーノ監督作品で悪役を演じ、二回のアカデミー賞助演男優賞を獲得しています。今回の、ベルギー王直属官僚・レオン・ロム役も凝った役作りをしていて、目が離せません。
 そして、もう一つ註を加えておきたいのが、ここに登場する動物たちはすべてがCGで描かれているということです。
 監督のデビット・イェーツは「ハリー・ポッター」シリーズの、最後の四本を監督した人で、CGなどの特殊効果にも通じている人です。ハリポタ終了から5年でCGはますます発達して、動物の毛や表情、自然の表現などがよりナチュラルに描けるようになったと言っています。ほんと、もうなんでもできちゃうんだなぁと、あらためて感心した次第です。
 では「ジャングル・ブック」に行きましょう。
「ジャングル・ブック」は1894年にラドヤード・キプリングが書き、出版した短編小説集です。7つの短編中一話を除いて、インドを舞台に、動物たちを主人公にした物語になっています。1895年には続編も出版されました。全体の第一話が、虎に追われた男の子が、狼に助けられて育てられ、動物たちと仲間になるという話です。男の子の名前はモーグリ。彼は二冊の「ジャングル・ブック」各編に登場しています。この二冊をもとにして、1967年にディズニーがモーグリを主人公としたアニメを作ったのが「ジャングル・ブック」です。
主人公の少年モーグリ以外に登場するのは、ジャングルの動物たちだけなので、ディズニーと言えど当時、実写で作ることは無理でした。だからアニメにしたわけですね。
のちに、1994年には調教した動物たちを使った実写版もつくられましたが、あまりヒットしませんでした。いくら調教されていたとしても、感情を持ち役を果たす演技などは到底動物には無理なのです。
しかし、現在、「ターザン リボーン」でも登場する動物たちはCGで描くことができる時代になったと言いました。「ジャングル・ブック」に出てくる動物たちもCGで描いてしまえるわけです。演技だってさせることができます。
そして、今回の「ジャングル・ブック」ができたわけです。モーグリ役の子は実写なので、実写版、と言っていいのかなぁ。ちょっと躊躇します。だって、グリーンバックで全部合成なんだもの。ううむ。
まぁ、ここでうなっていてもしょうがない。
とにかく、映像的にすごい、とだけ言っておきましょう。
物語は、オオカミに育てられたモーグリが、彼を狙う虎を逃れるために、人間の村へと帰されることになる、というところまではアニメと同じ。その先はたいぶ違う脚色がなされています。モーグリ自身が”子ども”の域を出て成長する、という感じでしょうか。
これは私の持論なんですが、
イギリスの児童文学では子どもたちが自分たちで問題を解決します。でも、アメリカの児童文学では誰か助けてくれる大人が現れるんですね。子どもは一人ではできないので、大人が助けてやらなくちゃいけない、子どものころの気持ちを忘れないで助けてあげようね、という感じ。でも、イギリスの児童文学では、大人はあてにならないし、しばしば敵になります。あてになるのは子供仲間だけという感じ。オリバー・ツイストとか思いだしていただけるといいかと思います。
その点で、アニメ版はアメリカ的、今回の実写版はイギリス的、と言ってもいいかも。比べてみていただけると面白いかと思います。
アニメ版の「ジャングル・ブック」は、ウォルト・ディズニーが最後に手掛けたディズニーアニメでした。音楽はディズニーアニメではおなじみのシャーマン兄弟で、「ベア・ネセシティ」はアカデミー賞の歌曲賞にノミネートされています。
ベア・ネセシティ とは 熊の必要 と必要がない という言葉をかけたものです。
アニメ版の声優は当時のベテラン俳優やミュージシャンによるものでしたが、プロの声優ではない俳優たちを使う試みは当時初めての物だったそうです。
今では有名俳優を声優として使うことは当たり前になっていますけれどね。
今回の実写版の声のキャスト達も非常に豪華。熊のバルーがビル・マーレイ、蛇のカーがスカーレット・ヨハンソン、黒ヒョウのバギーラがベン・キングズレー、といった具合です。なかでもぜひ字幕版で見て、とお勧めしたいのが、森の王オランウータンのキング・ルーイのボイスキャストを演じているクリストファー・ウォーケン。
今は先に声を録って、その演技に合わせて作画することも多いのですが、このルーイが登場する最後のクレジットタイトルは、ミドル映画ファン必見。元はダンサーだったウォーケンが歌い踊るシーンをキャプチャーしたと思われるキング・ルーイの歌とダンスが絶品です。

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