映画『好きにならずにいられない(原題: Fusi)』
43歳独身で女性経験なしのシャイな大男の恋の行方を描き、世界各国の映画祭で絶賛されたアイスランド発のドラマ。
少女と一緒にいるだけで誘拐したと勘違いされるような風貌の主人公が、心に傷を負った女性との出会いを通じ新たな人生に踏み出すさまを描く。
メガホンを取るのは『氷の国のノイ』などのダーグル・カウリ。主人公を、監督が約15年前に携わった番組で一目惚れしたという、アイスランドのテレビ番組などで活躍するグンナル・ヨンソンが演じる。
うーん、切なくて愛おしい作品と言おうか。温かくてずっと今にも泣き出しそうだったよ。
シットリとボクの心に寄り添ってくれるような作品。原題は主人公の名前なんだよね。邦題は、ボクら観客が主人公を“好きにならずにいられない”ってことなんだろうなあ。
始まってしばらくはツラいんだよ。手先は器用なのにさ、人生には不器用でね。痛々しくてさ。人の世って辛辣だしさ。でもね、でもね、見た目と違ってさ、主人公の優しさや忍耐強さ、物静かさ、純真無垢さ、芯の強さ、繊細さにね、ジワジワ来てさ、いつしか応援してるんだよね。
理不尽な展開に腐ることもなく、ヒロインに静かに歩み寄ろうとする姿にさ、幸せになって欲しいって願ってるんだよね、ボクらみんな。それにヒロインがそれほど美人じゃないっていうのも好感よね(笑)。アイスランドでは美人なのかしらね。どこか日本海側を思わせるアイスランドの空気感がいいね。
全編にわたってグレー味の強いうら淋し気な映像が印象的。そんな刺激の少ない映像、会話も少なく単調な展開、だのに飽きないのはなぜだろう? 予定調和じゃないからかなあ。主人公の冴えない日常を丁寧に描いてるね。イジメや近隣住民とのいざこざなどのエピソードはちょっと多過ぎたかな。柔らかそうな腹の上で猫が寝てるシーンにはほっこり、仕事仲間とパブでゲーム観戦するシーンにはなぜか涙し…。音楽の使い方も見事。押し付けないラストは味わい深い。
ボクは主人公の今よりもほんのちょっぴり明るいだろう未来を想像したよ。ボクも一緒に少し微笑んだ。そして一歩踏み出すことの大切さとその勇気。ほろ苦い余韻に包まれた。その一歩はボクらを勇気付けてくれる。これから先、辛いこともあるけど幸せなこともきっといっぱいあるよって言ってくれてるような映画。アイスランドにも回転寿司があることにビックリ。
シネフィル編集部 あまぴぃ