東京フィルメックスでスペシャル・メンション受賞の『クズとブスとゲス』
女を拉致監禁し、裸の写真をネタに強請(ゆす)りで生計を立てるクズ男。ヤクの運び屋から足を洗ったものの、ストレート過ぎる性格が災いして過ちを繰り返すバカ男。自己主張が苦手で、流されるがまま生きてきた結果、苦界にはまり込んでしまう女。社会適応力ゼロな3人が繰り広げる血と暴力と涙と、憤怒と慟哭とメロウの乱反射――。
監督は、自主制作映画『青春墓場』三部作(08・09・10)が高く評価され、最終作『青春墓場~明日と一緒に歩くのだ~』は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター部門グランプリを受賞。
若干24歳にして『東京プレイボーイクラブ』(11)で商業映画デビューを飾った異才・奥田庸介。4年ぶりの長編新作となる本作は、原点である自主制作の現場に立ち戻り、製作資金はすべてクラウドファウンディングによって調達。スポンサーや映画会社の制約と庇護から一切解き放たれ、それゆえに、ひりつくようなリアリティと切実感が細部まで横溢。自身の率いる「映画蛮族」のスタッフと共に制作し、完成へとこぎつけ、第16回東京フィルメックスでスペシャル・メンションを受賞。
第45回ロッテルダム国際映画祭へも正式出品作品として招聘された。
直情バカのリーゼント男には、『青春墓場』三部作時代から奥田映画となじみの深い板橋駿谷。
その恋人で、理不尽な状況を必死に生きる女には、オーディションで選ばれ、これが本格的な女優デビューとなる岩田恵理。そしてスキンヘッドのクズ男には、奥田庸介自身が体重を15キロ減量し、眉を剃り落とし、鼻ピアスを着ける肉体改造を施して扮している。さらに、北野武作品や多数のTVドラマで活躍する芦川誠が、3人の運命を掌で転がすヤクザ役で出演。
アクションはすべてリアルファイト、流れる血は本物。演者たちが自らの肉体も心もカメラの前に差し出して、叫び、泣きうめき、殴り合い、憤怒と慟哭を極限ぎりぎりまで突き詰めた果ての果てに彼らが得るもの、そして失うものは……?
露悪的な題名からして確信的なほど本作は、私たちの常識を、モラルを徹底的にゆさぶって、問いかけ直してくるはずだ。
奥田監督の最新コメント
「この映画を例えるならば、15の夜に行き先も分からぬまま暗い夜の帳の中を盗んだバイクで走り出す代わりに、28の夏に生き方も分からぬまま辛く無意味な人生の途中で怒った奥田が暴れだす、といった感じだと言ったら分かりやすいでしょうか。最早映画とは呼べないぐらい個人的なシロモノなのですが、薄汚く自己正当化しますと、今のこの日本文化の有り様だからこそこんな映画があって良いと思います」