原作:中村文則(「掏摸」「教団X」)、監督・脚本・主演:桃井かおり
圧倒的な存在感で、一人の女の確かな生を描き出す「監督・桃井」の新境地
2006年公開の「SAYURI」以降、拠点をロサンゼルスに移し世界で活躍する女優・桃井かおり。待望の第二弾となる監督作は、05年に「土の中の子供」で芥川賞を受賞してからというもの、次々にベストセラーを放つ若き文豪・中村文則との異色のタッグが実現。犯罪小説というジャンルへの貢献を讃える米国の文学賞(デイビッド・グーディス賞)を受賞するなど海外での評価も高い中村。
今回桃井が手にしたのは、かつて放火を犯した娼婦が精神科医との対話を通じて、その呪われた生涯を独白するサスペンス風の短編「火」。桃井自ら監督・脚本・主演を務めた本作は、今年2月のベルリン国際映画祭フォーラム部門でワールド・プレミア上映されるや圧倒的な迫力で観客を魅了。各国の映画祭からの熱狂的オファーが絶えない問題作だ。世界の舞台を経て、より鮮やかに炙り出された桃井の唯一無二の個性。ここには確かな生がある。
あらすじ
アメリカでクリニックに勤める精神科医の真田。
ある日、家族とショッピングに出かけた際に一人の女性とエレベーターで遭遇する。
彼女の声が脳裏に響き渡り、真田は彼女とクリニックで問診している様を妄想する。
しかし彼女の話は、真田の想像を超える、壮絶なものだった。
幼い頃に家が火事になり両親を亡くし、学校ではイジメを受け、結婚相手からは浮気をされる。離婚してからは、アメリカで売春をしながら借金生活で過ごす毎日。
彼女の話を聞く内に、次々に登場する男と自分を重ね合わせ、彼女の話に引き込まれていく真田。彼女の話はさらにエスカレートして行き、思いもよらない方向へと向かっていく…。
《中村文則(原作者)からのコメント》
桃井さんの圧倒的な才能に戦慄しました。
何てすごいんだろう。この映画はきっと伝説になる。
《桃井かおり(監督・主演・脚本)からのコメント》
中村文則氏原作の「火」は、主人公がただ喋り続ける、ト書きさえないという、とにかく画期的な小説です。最初、奥山和由プロデューサーから出演のお誘いがあり、その後すぐ「桃井さんが監督するっていうのもアリかな?」と仰って頂いたんです。中村文則氏や奥山さんの勇気に比べれば、桃井が引き受けたことなど大したことではありませんが、この作品は彼らの勇気に報いる覚悟がなければならないと痛感していました。
主人公の女は、放火を犯しながら罪の意識さえない、物事を判断する尺度が折れ曲がっているとしか思えない女。でも、零れ落ちてくる言葉には、なぜかリアリティがある。誰でもいいからつながろうと生きている。どこか今の時代の象徴だと感じます。私はそんな人間を描き、演じたかったのです。
『火 Hee』
2016年/日本/72分/カラー/5.1ch/DCP/G
監督・脚本・主演:桃井かおり
原作:中村文則(河出書房新社/河出文庫『銃』収録「火」)
エグゼクティブ・プロデューサー:奥山和由
製作:吉本興業/チームオクヤマ
配給:KATSU-do
宣伝協力:プレイタイム